上 下
9 / 83
弐 平成三年

そんな馬鹿な。

しおりを挟む
 彼女が見つめていたのは、あの夏祭りが行われていた神社だった。

 今は夜が深いこともあり、石段がぼんやりと見えるだけに過ぎない。懐中電灯を向ければもう少しはっきり見えるのだろうが、見慣れた光景を今更しげしげと観察する気にはならない。

    それよりも、何故真由子がこんなところに居るのかが、私にとっては問題だった。あの時あんなに探しても見つからなかったのに、何故今さら姿を現し得たのか。

 そして、私が気になった点はもうひとつ。

 無邪気に走り寄って抱きつく真由子。
 その背格好は、18年前と寸分違わぬものであった。

 失踪時、彼女は7歳。
 その姿のまま18年を過ごすというのは、どう考えても不可能だ。

「……」

 真由子は私の顔を見上げてニコニコしている。特に何の悪気も感じない、あの頃の彼女そのままだ。

「……」

 私がかける言葉を失っていると、不意に彼女は口を大きく開けてきた。

「……?」

 一瞬何事かと思ったが、すぐに思い至った。

 真由子は歯磨きを終えた後、母にちゃんと磨けていたかどうかチェックを受けていた。当時、彼女の歯磨きはかなり雑なものだったため、母との間でそのような取り決めが為されていたのだ。

 そうか。
 この子は私の事を、母と勘違いしているのだ。

 確かに、私はどちらかというと母親似だ。

 時間が止まっていたとしか思えない真由子の姿を考えると、そう思う方が自然だった。

「ん?どれどれ?」

 母がやっていたように、私は彼女の口を覗き込む。

 すると、そこから大量のムカデ
「きゃああ!?」


 私はそこで目が覚めた。


 見えている景色が一変し、混乱を誘う。
 とりあえず、明るい。夜ではなさそうだ。

 私の体は横になっているらしかったので、とりあえず起こしてみた。

「……あれ?」

 そこは、私の部屋ではなかった。見覚えのある部屋のはずなのだが、残念ながら今の私のとっちらかった頭では思い出すのが難しかった。

 横になっていたのは、ベッドではなかった。床に直接布団が敷かれていて、そこに私は寝ていたのだ。

 ふと見ると、私の隣にはダブルベッド。

「あー、お姉ちゃん起きたー」

 そうだ、思い出した。
 ここは仁美がトヨ君と一緒に住んでる部屋だ。

 どうやら私は、ここで一晩を過ごしたらしい。そんな記憶は全くないが。

「ハイ、とりあえずコレ飲んで」

 仁美が手渡して来たのは、一杯のブラックコーヒーだった。

 二日酔いでギスギスする頭を片手で押さえながら、空いている方の手でコップを受け取る。

 苦味が、寝起きには心地よい。

「お姉ちゃんも、もういい年なんだから、あんな所でゴロ寝するのなんかやめてよねー」

 何も言わずにコーヒーをすすっていると、仁美はそんな事を言い出した。

 ああ、そうか。
 結局、あそこで寝ちゃったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Catastrophe

アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。 「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」 アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。 陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は 親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。 ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。 家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。 4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。

怪物どもが蠢く島

湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。 クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。 黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか? 次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。

合宿先での恐怖体験

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...