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Chapter 10 最期

scene 40

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 そこにいたのは、ひとりの老婆だった。大介の剣幕に、ひどく怯えてしまっている。

「あ……すみません、とんだ失礼を……」

 さすがにバツが悪い。大介は駆けよって老婆に謝罪した。

「いいえ、いいえ、おきづかいなく……お仕事熱心ですねえ」

 優しく許してくれたうえに、そんな労いの言葉もくれた。使役板等々を携えていたため、彼女も大介がどういう人物か、漠然とでも理解が出来たのだろう。

(とは言うものの、ここはラテカの中……魔物がいるワケないんだよなあ……)

 改めて女性に詫びを入れ、その場を離れる。あんなに過敏に反応しなくても良かったのに……反省していると、南門の外でクレールがドニと戦っている時のことを思い出した。

(そうだ。あの時……何者かの視線を確かに感じたんだよな……まあ視線なんて目に見えないものだから、そこまで気にしていなかったけど……)

(もしあの時、俺を見ていたのがゴーチェだとしたら……ヤツなら、どこからでも俺の事を見れる、か……)

 大幻獣を狙っている魔王はいなくなったが、そもそも魔王がゴーチェの傀儡だったのだから、事態は解決したとは言えないだろう。その上、あの酒の問題もある。

(別に元の世界へ帰りたいとは思わんが……アレについて、話だけでも聞いておきたいもんだな)

 いずれにしても、いつかは再び、奴は動き出すはずだ。それに備えるために、自分が出来ることは何だ? 大介は自問してみたが、答えは返ってこなかった。

(ちょっと前なら、このままだらだら神の使者様をやってても良いだろって思えたんだろうが、今はそういう訳にもいかん。ゴーチェ……悪いがお前だけは、絶対に許さんよ。何しろ俺にあの人を殺させたんだ。報復はさせてもらわんと困るぜ)

 実際は、それほど悲観をしていない。あの状況では、副島を救う方法があれしかなかったと、大介は今でも確信している。

 だからこそ、あんなに道を踏み外しそうにない男を狂わせたのが、大介の怒りを増幅させた。この顔は、あのふたりには見せられない。

 しばらく回り、そろそろ戻ろうかという感じになった。大介は眉間と両頬を交互に叩くと、つとめて緩い表情を作った。

 こっちの世界は鏡がない。少なくとも、庶民の空間にそれはなかった。不便だな、と思いつつ、大介は詰め所に戻る。

 次にヤツが仕掛けてくるまで、この生活は続くのだ。気長にやろう……ずっと簡単にやってきたそれを、今は難しく感じていた。
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