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Chapter 9 大幻獣、まさかのアレで。
scene 34
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大介はピスト内を注視し、サラモンドをゆっくりとイフリットに近づけさせる。一方で、副島の挙動におかしなものがないか意識をしていた。幻獣戦をしながらのその行為は正直骨が折れたが、そもそも大介は目の前の幻獣と戦うこと自体気乗りしていない。イフリットへの集中力が多少途切れても、副島を警戒していく……
……つもりであった。
互いのけん制技が届きそうな間合いに達した時、イフリットはおもむろに屈みこみ、足元を狙って炎をまとった蹴りを繰り出してきた。
注意すべき間合いにはなっていたので、大介はその攻撃をサラモンドにしっかりガードさせることができた。しかし、体力は1%微減している。
(削られている? 今の、必殺技か?)
どうしても幻獣戦用の言葉が馴染まず、格闘ゲーム用の言葉で考える大介。重そうな攻撃だったが、ガード時にほとんど後ろにはじかれていないのも気になった。
(なんだよ……思った以上にやる気じゃねえか。もしかしてコレ、ちゃんとやらないといかんのか?)
思い直して、戦いに集中する大介。しばらく通常技を振りあっていると、同じけん制技でも炎のエフェクトがあるバージョンとないバージョンがあるのが分かった。
(おっと……今のも、ただの足払いだ。ガードバックも普通、削りダメージも……ナシ、か)
炎をまとった方の技は、通常技と言えど削りが発生し、ガードバックは小さくなる。この違いが設定されている意味は、何だ?
イフリットの立ち回りは地味の一言で、たまに通常技に炎をまとわせるくらいだった。お互いに大きな被害は出ていないが、けん制技の削りの影響か、体力状況はサラモンドの方がわずかに劣勢であった。ピスト内の位置取りもこちらが端に近く、出来れば後退をしたくない状況であった。
(飛び道具対策を警戒しすぎて裏目に出たか。仕方ない、一回勝負かけよう)
幸い、イフリットの歩行スピードは遅かった。大介はサラモンドを操作し、踏み込んで『投げ』を狙いに行った。
刹那、
「おい待て待て! なんかこっちが掴まれてるぞ!」
明らかにこちらの投げ間合いの外から、イフリットがサラモンドをガッチリと両手で抱え込んだ。クソが……投げ間合いに個体差あるのか……? 大介がそう思った次の瞬間、イフリットはそのままサラモンドごと高く跳び上がった。
「しまった! こいつ、投げキャラ……!」
言い終わるや否や、大介操るサラモンドはイフリットの下敷きになるようにして地面に叩きつけられた。体力が一気に25%落ちる。
イフリットがゆっくり起き上がる。そして、時間を少し開けて起き上がろうとするサラモンドに、屈んだ状態でジャブを振る。サラモンドはガードをするが、間合いはさほど開かない。イフリットはすぐさま、再びサラモンドをひっつかむ。
(起き上がりに技を重ねて、もう1回同じ投げ……かなりヤバいな。起き攻めがしっかりし過ぎている)
格闘ゲームでは、倒れている相手に攻撃を与えられないものが多い。この場合、起き上がりのダメージを与えられるようになる瞬間に技を重ね、そこから打撃と投げで相手に二者択一を迫るのがひとつのセオリーであった。
(あくまでこっちは幻獣戦だってのに、随分ちゃんとした格ゲーしてくれるじゃねえか……だが、それならこっちにも考えがあるぜ?)
もう一度同じ投げをくらうと、勝負がついてしまう。大介は集中し、サラモンドの起き上がりの瞬間に合わせてクープスペリアを放った。これによって、相手の技重ねに対空用の無敵時間でカウンターを取ることが出来る……はずであった。
しっかりと発動するクープスペリア。対してやはりジャブを重ねるイフリット。結果、イフリットはしっかりガードをし、サラモンドは跳び上がってスキを晒す。
「詐欺重ね! ふざけんな、マジで何者だよ、コイツ!」
当然、このスキをイフリットが見逃すはずもない。的確にもう一度投げをくらい、あっさりと大介は敗北した。
ピストが消失し、脳に衝撃が走る。そのまま、大介は気絶してしまった。
「ん? ここは……夢か?」
気がつくと、大介は真っ暗な空間にいた。何もなく、何も聞こえない。
そのくせ、妙に意識がはっきりしている。大介は自分の両手の平を見た。
ちゃんと見える。光源はないはずなのだが。
「ま……夢の世界ってな、そんなもんよな」
ひとりごちながら、自分が気を失うきっかけになった勝負を思い返す。
詐欺重ね……。
それは、スキの小さい技の終わり際を相手の起きあがりに重ねる技術の事であった。
キャラが技を出し始めてから相手に届くまで、少しだけ時間がかかる。そして、技を振り終わってから元の状態に戻るにも、ほんの少し時間がかかる。
起きあがりを攻める側がスキの小さい技を出す際、技を出した「攻撃」の判定が存在しているギリギリのタイミングでそれが当たるように振る。
起きあがり際に放たれる無敵技の発生時間よりも、小技が戻っていく時間の方が短いと、詐欺重ねは完成だ。相手がガードしていれば小技をガードさせられ、無敵技を打っていればこちらのガードが間に合う、という、まさに詐欺のような攻めを展開出来るのだ。
(……めちゃくちゃ難しい技術、のはずなんだよなあ……)
0.1秒の誤差が生じても失敗する詐欺重ね。幻獣戦の攻略の進み具合を考えると、どうしても違和感を覚えてしまう。
その時、
「チッキ」
ひどく懐かしい名前で自分を呼ぶ者がいた。大介は振り返る。
そこにいたのは、美しい女性だった。華奢ながら凜とした雰囲気は、着ているパンツスタイルのスーツによるものか。
「久しぶり。元気だった?」
笑顔で尋ねてくる女性。それを受けて、大介も薄く笑う。
「ああ、そうか……あんただったんだ……。そりゃ、……そりゃあ勝てんわな」
「でも、前よりずっと強くなってたよ?」
「冗談きついぜ。あんなに完璧にハメ殺ししといてよ」
なごやかな空気の中、大介も彼女のニックネームを呼ぶ。
「……あんたこそ、大したもんだったよ。なあ、ゴリ美?」
……つもりであった。
互いのけん制技が届きそうな間合いに達した時、イフリットはおもむろに屈みこみ、足元を狙って炎をまとった蹴りを繰り出してきた。
注意すべき間合いにはなっていたので、大介はその攻撃をサラモンドにしっかりガードさせることができた。しかし、体力は1%微減している。
(削られている? 今の、必殺技か?)
どうしても幻獣戦用の言葉が馴染まず、格闘ゲーム用の言葉で考える大介。重そうな攻撃だったが、ガード時にほとんど後ろにはじかれていないのも気になった。
(なんだよ……思った以上にやる気じゃねえか。もしかしてコレ、ちゃんとやらないといかんのか?)
思い直して、戦いに集中する大介。しばらく通常技を振りあっていると、同じけん制技でも炎のエフェクトがあるバージョンとないバージョンがあるのが分かった。
(おっと……今のも、ただの足払いだ。ガードバックも普通、削りダメージも……ナシ、か)
炎をまとった方の技は、通常技と言えど削りが発生し、ガードバックは小さくなる。この違いが設定されている意味は、何だ?
イフリットの立ち回りは地味の一言で、たまに通常技に炎をまとわせるくらいだった。お互いに大きな被害は出ていないが、けん制技の削りの影響か、体力状況はサラモンドの方がわずかに劣勢であった。ピスト内の位置取りもこちらが端に近く、出来れば後退をしたくない状況であった。
(飛び道具対策を警戒しすぎて裏目に出たか。仕方ない、一回勝負かけよう)
幸い、イフリットの歩行スピードは遅かった。大介はサラモンドを操作し、踏み込んで『投げ』を狙いに行った。
刹那、
「おい待て待て! なんかこっちが掴まれてるぞ!」
明らかにこちらの投げ間合いの外から、イフリットがサラモンドをガッチリと両手で抱え込んだ。クソが……投げ間合いに個体差あるのか……? 大介がそう思った次の瞬間、イフリットはそのままサラモンドごと高く跳び上がった。
「しまった! こいつ、投げキャラ……!」
言い終わるや否や、大介操るサラモンドはイフリットの下敷きになるようにして地面に叩きつけられた。体力が一気に25%落ちる。
イフリットがゆっくり起き上がる。そして、時間を少し開けて起き上がろうとするサラモンドに、屈んだ状態でジャブを振る。サラモンドはガードをするが、間合いはさほど開かない。イフリットはすぐさま、再びサラモンドをひっつかむ。
(起き上がりに技を重ねて、もう1回同じ投げ……かなりヤバいな。起き攻めがしっかりし過ぎている)
格闘ゲームでは、倒れている相手に攻撃を与えられないものが多い。この場合、起き上がりのダメージを与えられるようになる瞬間に技を重ね、そこから打撃と投げで相手に二者択一を迫るのがひとつのセオリーであった。
(あくまでこっちは幻獣戦だってのに、随分ちゃんとした格ゲーしてくれるじゃねえか……だが、それならこっちにも考えがあるぜ?)
もう一度同じ投げをくらうと、勝負がついてしまう。大介は集中し、サラモンドの起き上がりの瞬間に合わせてクープスペリアを放った。これによって、相手の技重ねに対空用の無敵時間でカウンターを取ることが出来る……はずであった。
しっかりと発動するクープスペリア。対してやはりジャブを重ねるイフリット。結果、イフリットはしっかりガードをし、サラモンドは跳び上がってスキを晒す。
「詐欺重ね! ふざけんな、マジで何者だよ、コイツ!」
当然、このスキをイフリットが見逃すはずもない。的確にもう一度投げをくらい、あっさりと大介は敗北した。
ピストが消失し、脳に衝撃が走る。そのまま、大介は気絶してしまった。
「ん? ここは……夢か?」
気がつくと、大介は真っ暗な空間にいた。何もなく、何も聞こえない。
そのくせ、妙に意識がはっきりしている。大介は自分の両手の平を見た。
ちゃんと見える。光源はないはずなのだが。
「ま……夢の世界ってな、そんなもんよな」
ひとりごちながら、自分が気を失うきっかけになった勝負を思い返す。
詐欺重ね……。
それは、スキの小さい技の終わり際を相手の起きあがりに重ねる技術の事であった。
キャラが技を出し始めてから相手に届くまで、少しだけ時間がかかる。そして、技を振り終わってから元の状態に戻るにも、ほんの少し時間がかかる。
起きあがりを攻める側がスキの小さい技を出す際、技を出した「攻撃」の判定が存在しているギリギリのタイミングでそれが当たるように振る。
起きあがり際に放たれる無敵技の発生時間よりも、小技が戻っていく時間の方が短いと、詐欺重ねは完成だ。相手がガードしていれば小技をガードさせられ、無敵技を打っていればこちらのガードが間に合う、という、まさに詐欺のような攻めを展開出来るのだ。
(……めちゃくちゃ難しい技術、のはずなんだよなあ……)
0.1秒の誤差が生じても失敗する詐欺重ね。幻獣戦の攻略の進み具合を考えると、どうしても違和感を覚えてしまう。
その時、
「チッキ」
ひどく懐かしい名前で自分を呼ぶ者がいた。大介は振り返る。
そこにいたのは、美しい女性だった。華奢ながら凜とした雰囲気は、着ているパンツスタイルのスーツによるものか。
「久しぶり。元気だった?」
笑顔で尋ねてくる女性。それを受けて、大介も薄く笑う。
「ああ、そうか……あんただったんだ……。そりゃ、……そりゃあ勝てんわな」
「でも、前よりずっと強くなってたよ?」
「冗談きついぜ。あんなに完璧にハメ殺ししといてよ」
なごやかな空気の中、大介も彼女のニックネームを呼ぶ。
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