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Chapter 7 大幻獣が、ご機嫌斜めで。

scene 28

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「待て待て! 全画面攻撃は聞いてない!」

 大介の叫びとともに、彼の幻獣は大ダメージを受ける。吹っ飛んだサラモンドの残り体力は25%、対して相手の体力は42%だった。

「一気に不利になったじゃねえか……どうすんだよ、コレ」

 しかしよく見ると、イジドール側の幻獣の神通力が0%になっていた。どうやら今の大技は、100%すべて消費して繰り出されるもののようだ。有利を取ったイジドールは再び待ちの構えで、ピストの端でひたすらじっとしている。

 それを良いことに、大介も再び先ほどの位置に戻る。試しにフランバルを撃ってみると、敵は特に何の反応もなく、ただそれをガードした。

「もしかして……今のをもう一回やろうとしてるのか? 100%を溜めなおそうってんなら、いくらなんでも時間がかかり過ぎだろ?」

「フン……好きにほざいてろ」

 指摘をしても、イジドールに動じた気配はない。むしろこちらに不敵な笑みを見せた。

(まだ何か隠し玉があるのか? ……だとしたらやってられんぞ?)

 こちらの体力を考えると、余裕は明らかに無かった。敵の神通力が元に戻る前に、対策を考えないといけない。

(一番考えられるのは、このフランバルをかき消して攻撃できるタイプの技……クソ、俺の知らない技を敵が持ってるかもしれないっていうのは、なかなかストレスだな)

 いかにも短気そうなイジドールが、ずっと自分の幻獣に我慢をさせているのが、また妙に不気味であった。何らかの秘策がなければ、なかなか出来ないムーブである。奴は今、自分の側に表示されているであろう体力や神通力をずっと凝視していた。

(どうしたもんか……)

 ただし……だまし討ちは怖いが、このタイプの魔物がそれを得手としているかと問われれば、甚だ疑問ではあった。大介は相変わらず火の玉を撃たせながら、イジドールの表情に意識を割きだす。

(はっきりと『してやったり』みたいな顔してくれると分かりやすいんだがな……)

 そうこうしているうちに、イジドールの神通力が10%まで回復した。
 彼の口元が醜くほころぶ。非常に分かりやすい『してやったり』の顔だった。

(やめてくれ、こっちが笑っちまう)

 一瞬つられそうになったが、千載一遇のチャンスである。大介はすかさず、自分のサラモンドを前方へジャンプさせる。

 そこへ、

「くらええ!」

 イジドールの怒号とともに、敵のサラモンドが口からレーザーのような炎を吐き出した。勢いよく射出されたそれは、しかしながらこちらの幻獣をとらえることなくピストにぶつかるのみであった。

「上だとっ? そんな馬鹿な!」

 バカはてめえだよ。大介は心の中でそう言うと、敵の幻獣にジャンプ攻撃を浴びせる。そして着地と同時に単術を当てると、

「キャンセル超必! くらえ!」

 大介は叫ぶと同時に使役盤をカチャカチャと素早く動かした。幻獣が拳を振り上げたと思った次の瞬間、いきなりブレット・デ・キャノンの構えを取り、大きな炎の塊を敵の幻獣にぶち当てた。

「イタタタ! おい、待てテメエ! 俺の知らない戦い方ばっかりするな!」

「野暮だねえあんた。これは真剣勝負だろ? 知らない方が悪いの。オーケー?」

 本当はもっと極めて悪い口を叩きたかったが、あいにく今は後ろにクレールがいる。敵とは言え、あまり煽りを聞かれるのは決まりが良くなかった。

 イジドール側の体力が、一気に3%まで落ちた。もはや虫の息だ。

「体力、神通力、ともにスッカラカンか。勝負あったな」

「うるせえ! まだ分からねえだろうが!」

 ブチ切れたのか、イジドールはサラモンドを跳び上がらせた。勢いに乗った跳び蹴りがこちらに向かう。

 が、

「……ダメだ、こりゃ」

 大介が独り言をつぶやくと同時に、幻獣は飛んできた敵にクープスペリアをお見舞いした。
 成す術なく技を食らったイジドールのサラモンドは、ピストの端に吹っ飛んでダウンした。もちろん、体力など残っていようはずもなかった。

「……く!」

 いかにもくやしそうな顔のイジドール。大介はそんな彼にお構いなくピストと自分の幻獣を片付ける。姿を維持できなくなった敵の幻獣も、蒸発するように消え去った。

「ついてねえ……本当についてねえ……」

「実力だよ。ちゃんと認めな。俺のしらない必殺技使って、それでも勝てなかったんだ。運のせいにしねえで、反省のひとつでもしたらどうだ?」

「うるせえ! なんでテメエがサラモンド使ってんだよ! そいつは俺の幻獣だぞ!」

「知るかよ。そんなに独占したいんだったら、商標登録でもしとけって」

「うるせえ! ワケ分からんこと言いやがって、テメエ!」

 ……?

 怒鳴り返すイジドール。大介はそれへ、大きな違和感を覚えた。

「おい、待て。お前……今負けたよな? 何でそんなに元気なんだ?」

「あ? 知らねえよ。今は大幻獣が活発だからな。それと何か関係あるんじゃないのか?」


「その通りだ」


 不意に、後ろから声がした。
 思わず振り返ると、アデラやクレールとともに、ユーグが立っていた。廃れた戦場に、トーガ姿はいささか浮いて見える。

「……おっさん……」

 自分もおっさんなのを差し置いて、大介はつぶやく。ユーグの耳にもそれは入っていただろうが、彼はそれに一切リアクションを示さないまま言った。

「神の使者様。おそれながら、私めについて来てくれませぬか? ツール・アマーシャにてお話したいことがございます」

「あ? ここじゃダメなのか?」

「先ほど知らせがありました。ここ南門に、魔族の軍勢が行軍しているとのことです」

「なんだと?」

「同時に、大幻獣にも動きがありました。事態はよろしくありません。……恐れながら、神の使者様におかれましては、ピストを用いた幻獣戦に特化した戦士であるとお見受けします。であれば、ここよりツール・アマーシャに戻っていただき、大幻獣の鎮静に助力していただきとうございますが」

「ここはいいのか?」

「正規軍が準備をしております。ここは彼らに任せましょう」

「そっちのふたりは?」

「今確認しましたが、クレールは剣を扱えるとのこと。修道の身であるアデラとともに、ここに残ってもらおうと思っております……もっとも、使者様のご都合が悪ければ、変更いたしますが」

「いや、いい。非常事態みたいだからな。城には俺がひとりで行く」

 アデラとクレールは、揃って不安そうな視線を大介に送るのみで、一切口を開かない。大介はそれを見ると、つとめて笑顔を作った。

 自分でも分かるくらいにぎこちなかったが、この際それはどうでもいい。

「ちょっと行ってくる。お前ら、無事でいろよ?」

「ハタナ様……」

 アデラが、ボソリと大介の名を呼んだ。それに返すように彼は頷くと、クレールの方にも同じように首を縦に振り、ユーグに案内を申し出た。


「忙しそうだな、オイ」

 
 その場を去る時に後ろから聞いたイジドールの言葉は、妙にとげとげしい嫌味に聞こえた。
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