29 / 43
Chapter 7 大幻獣が、ご機嫌斜めで。
scene 26
しおりを挟む
ピストの両端に立つ、それぞれの幻獣。
先に動いたのは、大介のサラモンドだった。とりあえずといった形で、ゆっくりと前進する。
「フン。真っすぐ来るか……いいのか? この狭苦しいピストとやらの中じゃ、横に避けるなんて芸当は出来ねえぜ?」
イジドールはそう言い放つと、自分の幻獣に炎の弾、フランバルを撃たせた。大介のそれより明らかに大きく速いそれは避けられるものではなく、ガードをさせるのが精いっぱいだった。
(……)
言葉を返さず、考え込む大介。一瞬、後ろを振り返る。クレールが固唾を飲んで見守っているのが見えた。
アデラはその傍らでしっかり祈っている。万一、彼以外に敵がいたとしても、これで大丈夫だ。
(……抜かりねえな。こういう時はしっかりしてやがる)
一発目はガードした大介のサラモンドだったが、二発目以降は前ジャンプで避けつつ近づく。そして、ピストの端からまったく動かなかった怠慢なイジドールのサラモンドに対し、ちゃっかりトリカゴ戦法のできる間合いを取る。
前跳びを警戒しながら、大介もフランバルを撃つ。
が、
「貧弱なんだよ、あんたの幻獣はよお!」
相手の飛び道具と運悪くかち合う。相殺されると思ったそれは大介の予想に反し、そのまま大介側の幻獣に飛んできた。フランバルを撃った後の構えを解く暇もなく、大介のサラモンドは敵の弾を食らう。
「ヒヒヒ! ほれ、どうした! 旧式の方が性に合ってるんじゃなかったのかぁ?」
嫌味ったらしくイジドールがわめく。
が、大介はそんな彼の言葉などまるで意に介さずに考えていた。
(フランバルは『風』『炎』『光』のボタンで発射が可能……風より炎、炎より光で撃った方が速い弾が出る)
(敵さんのフランバルも要領は一緒、だが……全体的に発生が遅く、撃った後構えを解くのも遅い。スピードがパワーの代償になっている)
(ブレット・デ……あれ、技名また忘れたな。とにかく、50%消費技の方の飛び道具は、威力が高くスピードも超高速だ。敵は今のところ、フランバルの性能にばかり意識が行っていて、こっちの技は失念している……ように見える)
(つまり、だ。この状態でこいつに勝つには……)
人が良いのか馬鹿なのか、イジドールは考え込む大介に対し、完全に手を止めている。下品な笑いをまったく引っ込める気配がないので、余裕をかましている、という表現が一番正確かもしれなかった。
「……お? すまん。待たせちまったか?」
「構わんよ。降伏するなら今のうちだぜ?」
「冗談。悪いけど、お前には負けねえよ」
「ハッハッハ! ほざきよるわ! そんな貧弱な型で、どうやって俺のサラモンドに勝つつもりだ?」
「こうするのさ」
大介は、再び炎の弾を撃ち出した。しかも今度はかなりの連射だ。
「……ち。それがうぜぇんだよな。そんなにひっきりなしに術を出してくんなよ」
いささか不満そうに言う怪物だったが、実際は簡単に状況を覆せると思っているのか、それほど冷静さを欠いているようには見えなかった。そんな相手に大介は、『風』ボタンでひたすら遅いフランバルを撃ち、相手がガードした瞬間に次の弾を射出していた。
「だが……何度やっても、同じだってな!」
安易に前へ跳んでこないのは、戦士のカンがそうさせたのか。イジドールは弾を撃ち返す。
と、
「アチッ! ……くそ、急に速いヤツを撃ってくんなよ」
実際にフランバルと食らったのは幻獣だったが、イジドールは悲鳴をあげた。大介は遅い弾をひたすら撃ち続け、相手が反撃をしたくなるタイミングを見計らって速い弾に切り替えたのだ。狙いは見事に的中し、敵のサラモンドがフランバルの構えを取った瞬間に、大介側のフランバルがヒットした。出鼻をくじかれ、イジドールは渋い顔だ。
「うざくて悪いな。これが俺の戦い方なんだよ」
面食らった様子の敵に、再び飛び道具を連発する大介側の幻獣。時折緩急をつけて、相手の行動をより大きく制限する。
「クソが……クソがよお!」
しびれを切らせた敵のサラモンドが、弾の合間を縫って跳び込んできた。
当然のように、大介側の幻獣は何もしていない。タイミングを計り、ばっちり根元でクープスペリアを当てる。こちらの幻獣の拳がふたつ、敵の胸部にクリーンヒットする。二体の幻獣が宙に舞い、敵のそれだけがそのままダウンする。
「悪いな。今日は一段とカンが冴えてる。このまま押し切らせてもらうぜ」
「ああ? ……冗談にしても笑えねえな。そういうセリフは、もっとしっかりダメージをこちらに負わせてから言うもんだぜ?」
確かに、敵のサラモンドをピストの端に追い詰めているとはいえ、体力はほぼ五分である。パワーは向こうが上なため、ワンアクションで戦況がひっくり返る恐れは充分にあった。
先に動いたのは、大介のサラモンドだった。とりあえずといった形で、ゆっくりと前進する。
「フン。真っすぐ来るか……いいのか? この狭苦しいピストとやらの中じゃ、横に避けるなんて芸当は出来ねえぜ?」
イジドールはそう言い放つと、自分の幻獣に炎の弾、フランバルを撃たせた。大介のそれより明らかに大きく速いそれは避けられるものではなく、ガードをさせるのが精いっぱいだった。
(……)
言葉を返さず、考え込む大介。一瞬、後ろを振り返る。クレールが固唾を飲んで見守っているのが見えた。
アデラはその傍らでしっかり祈っている。万一、彼以外に敵がいたとしても、これで大丈夫だ。
(……抜かりねえな。こういう時はしっかりしてやがる)
一発目はガードした大介のサラモンドだったが、二発目以降は前ジャンプで避けつつ近づく。そして、ピストの端からまったく動かなかった怠慢なイジドールのサラモンドに対し、ちゃっかりトリカゴ戦法のできる間合いを取る。
前跳びを警戒しながら、大介もフランバルを撃つ。
が、
「貧弱なんだよ、あんたの幻獣はよお!」
相手の飛び道具と運悪くかち合う。相殺されると思ったそれは大介の予想に反し、そのまま大介側の幻獣に飛んできた。フランバルを撃った後の構えを解く暇もなく、大介のサラモンドは敵の弾を食らう。
「ヒヒヒ! ほれ、どうした! 旧式の方が性に合ってるんじゃなかったのかぁ?」
嫌味ったらしくイジドールがわめく。
が、大介はそんな彼の言葉などまるで意に介さずに考えていた。
(フランバルは『風』『炎』『光』のボタンで発射が可能……風より炎、炎より光で撃った方が速い弾が出る)
(敵さんのフランバルも要領は一緒、だが……全体的に発生が遅く、撃った後構えを解くのも遅い。スピードがパワーの代償になっている)
(ブレット・デ……あれ、技名また忘れたな。とにかく、50%消費技の方の飛び道具は、威力が高くスピードも超高速だ。敵は今のところ、フランバルの性能にばかり意識が行っていて、こっちの技は失念している……ように見える)
(つまり、だ。この状態でこいつに勝つには……)
人が良いのか馬鹿なのか、イジドールは考え込む大介に対し、完全に手を止めている。下品な笑いをまったく引っ込める気配がないので、余裕をかましている、という表現が一番正確かもしれなかった。
「……お? すまん。待たせちまったか?」
「構わんよ。降伏するなら今のうちだぜ?」
「冗談。悪いけど、お前には負けねえよ」
「ハッハッハ! ほざきよるわ! そんな貧弱な型で、どうやって俺のサラモンドに勝つつもりだ?」
「こうするのさ」
大介は、再び炎の弾を撃ち出した。しかも今度はかなりの連射だ。
「……ち。それがうぜぇんだよな。そんなにひっきりなしに術を出してくんなよ」
いささか不満そうに言う怪物だったが、実際は簡単に状況を覆せると思っているのか、それほど冷静さを欠いているようには見えなかった。そんな相手に大介は、『風』ボタンでひたすら遅いフランバルを撃ち、相手がガードした瞬間に次の弾を射出していた。
「だが……何度やっても、同じだってな!」
安易に前へ跳んでこないのは、戦士のカンがそうさせたのか。イジドールは弾を撃ち返す。
と、
「アチッ! ……くそ、急に速いヤツを撃ってくんなよ」
実際にフランバルと食らったのは幻獣だったが、イジドールは悲鳴をあげた。大介は遅い弾をひたすら撃ち続け、相手が反撃をしたくなるタイミングを見計らって速い弾に切り替えたのだ。狙いは見事に的中し、敵のサラモンドがフランバルの構えを取った瞬間に、大介側のフランバルがヒットした。出鼻をくじかれ、イジドールは渋い顔だ。
「うざくて悪いな。これが俺の戦い方なんだよ」
面食らった様子の敵に、再び飛び道具を連発する大介側の幻獣。時折緩急をつけて、相手の行動をより大きく制限する。
「クソが……クソがよお!」
しびれを切らせた敵のサラモンドが、弾の合間を縫って跳び込んできた。
当然のように、大介側の幻獣は何もしていない。タイミングを計り、ばっちり根元でクープスペリアを当てる。こちらの幻獣の拳がふたつ、敵の胸部にクリーンヒットする。二体の幻獣が宙に舞い、敵のそれだけがそのままダウンする。
「悪いな。今日は一段とカンが冴えてる。このまま押し切らせてもらうぜ」
「ああ? ……冗談にしても笑えねえな。そういうセリフは、もっとしっかりダメージをこちらに負わせてから言うもんだぜ?」
確かに、敵のサラモンドをピストの端に追い詰めているとはいえ、体力はほぼ五分である。パワーは向こうが上なため、ワンアクションで戦況がひっくり返る恐れは充分にあった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
異世界起動兵器ゴーレム
ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに
撥ねられてしまった。そして良太郎
が目覚めると、そこは異世界だった。
さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、
ゴーレムと化していたのだ。良太郎が
目覚めた時、彼の目の前にいたのは
魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は
未知の世界で右も左も分からない状態
の良太郎と共に冒険者生活を営んで
いく事を決めた。だがこの世界の裏
では凶悪な影が……良太郎の異世界
でのゴーレムライフが始まる……。
ファンタジーバトル作品、開幕!

龍神様に頼まれて龍使い見習い始めました
縁 遊
ファンタジー
毎日深夜まで仕事をしてクタクタになっていた俺はどうにか今の生活を変えたくて自宅近くの神社に立ち寄った。
それがまさかこんな事になるなんて思っていなかったんだ…。
え~と、龍神様にお願いされたら断れないよね?
異世界転生した主人公がいろいろありながらも成長していく話です。
ネタバレになるかもしれませんが、途中であれ?と思うお話がありますが後で理由がわかりますので最後まで読んで頂けると嬉しいです!
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる