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Chapter 7 大幻獣が、ご機嫌斜めで。
scene 25
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その異変に気が付いたのは、大介が先であった。
「悪い、ちょっと待った」
イジドールとドニを追い返して以降、南門は不自然なほど魔族の襲撃が来なくなった。思いがけず暇を持て余す形になった大介とクレールは、お互いの腕が鈍らぬよう模擬戦を繰り返していた。その最中、大介はおもむろにクレールを制止すると、こう言った。
「なんかこの前から不自然に思っちゃいたんだが……少しずつ、俺の幻獣だけ攻撃力が上がってるように感じるんだが、気のせいかな?」
大介の問いかけに、クレールは首を捻る。
「……正直、私は何も感じないが」
「そっか。じゃあ、いいや」
「いや。……多分、良くない。些細なことでも、思ったところがあるのなら上に報告した方がいいぞ」
「面倒くさいこと言うな、お前。そんなもんなのか?」
「そんなもんだよ、ダイスケ」
訝しむ大介をよそに、クレールは幻獣を召喚状態から解放する。
「ツール・アマーシャに書簡でも送っておこう。幻獣は自然の力が具現化したもの。ましてやお前の幻獣は炎を司るサラモンド……凶兆でなければ良いのだが」
「考え過ぎだと思うけどな」
「それならそれで構わんさ。見逃して後々悔やむことを思えば、無駄骨を折るくらいお安いものだよ」
「……つくづく真面目だよ、あんた」
会話をするのには何ら問題ないのだが、こちらの世界の文字はまったく大介には理解ができない。したがって、手紙を送るとなると誰かに代筆を頼む必要が出てくるのだ。
今回はクレールが書簡を書いてくれるらしい。大介は無駄に彼女の仕事を増やしてしまったことへ後ろめたさを感じていた。
ふたりが訓練場を出ると、そこにアデラがいた。アデラは大介に同行する際、ウモス聖堂から南門にほぼ隣接しているボサン聖堂へ所属が異動になっており、何かあった時には簡単にふたりと合流できるようになっていた。
「……どうした? そんな顔して」
大介が尋ねる。うつむいたアデラの顔色は優れなかった。表情も冴えない。何かあったと考える方が妥当に思えた。
「……ハタナ様……」
おもむろに、アデラは顔を上げて言う。
「大幻獣の様子がおかしいと、ツール・アマーシャから連絡がありました……ハタナ様。最近、サラモンドの調子はいかがですか?」
こちらから進言しようとしていた話を、王城側から振られた。大介は目を丸くした。
「いや……まさにその話をクレールとしていたところだ。俺の炎の幻獣、最近妙に強いんだ。攻撃力も上がってるし、炎の玉もサイズが気持ち大きくなってるような気もしている」
「……やはり、そうですか……」
「俺の幻獣と大幻獣って、関連性あるのか?」
「ダイスケ。大幻獣は、炎の幻獣なんだ」
不意にクレールが割って入ってきた。
「だから、大幻獣が活発化すると、共鳴して炎の幻獣も強化される」
「あー、そういう事ね。じゃ、俺の幻獣、勝手に強くなってラッキーじゃねえか?」
それだけのハズがない……と思いつつ、大介は敢えてそう言ってみた。案の定、ふたりは曇った顔を見合わせる。
「……て、やっぱ話はそんなに簡単じゃねえか。一体どういう不都合が起きるんだ? 大幻獣が眠りから醒めて、大暴れするってか?」
適当に思いついたままを告げると、返事がまったく返って来なくなった。アデラに至っては完全に下を向いてしまっている。
「……マジかよ」
それは、大介の予想が的中した事を示していた。沈黙が重くなる。
その時、
「Danger! Here Come The New Enemy!」
警報音が不自然に鳴り響いた。
「……勘弁してくれよ。今、割と忙しいところだぜ?」
うんざりした声をあげつつ外へ向かう大介。後ろのふたりがやたら静かなのは調子が狂うが、魔族を追っ払うのが仕事である以上、やらねばならない。
3人が外に出ると、イジドールがひとりで仁王立ちをしていた。
「おっと。リベンジマッチかい?」
「なんとでも言え。今がお前らを倒すチャンスなんだよ」
「ほー。じゃ、あんたも大幻獣の動きを察知してるってことかい?」
大介の言葉にイジドールは眉をひそめた。わずかに黙ったのち、このゴツゴツした怪物は不愉快を隠しもせずに言う。
「ち……とことんツイてねえな。じゃあ、お前が使ってる幻獣もサラモンドか」
「そういうこと。同じ幻獣どうしで戦うかい? それとも今なら、引き返してもいいんだが?」
「ふざけやがって……戦いもしねえでノコノコ帰れるかよ」
言うが早いか、イジドールは使役盤を取り出して右上の部分を触る。大介が普段召喚しているものよりも、数段筋肉が発達しているサラモンドが現れた。
「なるほど、これが今時のサラモンドってわけか……ヴニール・ピスト!」
以前マリーに、自分の使役盤が旧式であるということを告げられてはいたが、それによって召喚される幻獣のビジュアルも変わってしまうことは知らなかった。だが、このタイプの幻獣を使うと決めたのは、他ならぬ大介本人である。特に臆することもせず、彼は自分のサラモンドを召喚する。
「……ヘッ、なんだよ。俺の運もそれほど枯れたわけでもねえんだな。随分みすぼらしい幻獣を使ってるじゃねえか。ええ? 強化してもらわなくて良いのか、それで?」
「俺にはこれが性に合ってるんだ」
使役盤をセッティングしながら放った大介の言葉に、値踏みするような視線を浴びせるイジドール。優勢を確信しているのが、その嫌らしいニヤニヤ笑いでよく分かった。
「ふざけやがって……それとも、物を知らねえ素人か? どっちにしろ、今日は楽勝……か。なあ、相棒よ?」
ピストの中に納まったサラモンドを満足げに眺めるイジドール。もちろん声をかけられたとて、幻獣がそれに応えるはずもない。しかしそれでも、この怪物の笑顔は一向に崩れなかった。
「悪い、ちょっと待った」
イジドールとドニを追い返して以降、南門は不自然なほど魔族の襲撃が来なくなった。思いがけず暇を持て余す形になった大介とクレールは、お互いの腕が鈍らぬよう模擬戦を繰り返していた。その最中、大介はおもむろにクレールを制止すると、こう言った。
「なんかこの前から不自然に思っちゃいたんだが……少しずつ、俺の幻獣だけ攻撃力が上がってるように感じるんだが、気のせいかな?」
大介の問いかけに、クレールは首を捻る。
「……正直、私は何も感じないが」
「そっか。じゃあ、いいや」
「いや。……多分、良くない。些細なことでも、思ったところがあるのなら上に報告した方がいいぞ」
「面倒くさいこと言うな、お前。そんなもんなのか?」
「そんなもんだよ、ダイスケ」
訝しむ大介をよそに、クレールは幻獣を召喚状態から解放する。
「ツール・アマーシャに書簡でも送っておこう。幻獣は自然の力が具現化したもの。ましてやお前の幻獣は炎を司るサラモンド……凶兆でなければ良いのだが」
「考え過ぎだと思うけどな」
「それならそれで構わんさ。見逃して後々悔やむことを思えば、無駄骨を折るくらいお安いものだよ」
「……つくづく真面目だよ、あんた」
会話をするのには何ら問題ないのだが、こちらの世界の文字はまったく大介には理解ができない。したがって、手紙を送るとなると誰かに代筆を頼む必要が出てくるのだ。
今回はクレールが書簡を書いてくれるらしい。大介は無駄に彼女の仕事を増やしてしまったことへ後ろめたさを感じていた。
ふたりが訓練場を出ると、そこにアデラがいた。アデラは大介に同行する際、ウモス聖堂から南門にほぼ隣接しているボサン聖堂へ所属が異動になっており、何かあった時には簡単にふたりと合流できるようになっていた。
「……どうした? そんな顔して」
大介が尋ねる。うつむいたアデラの顔色は優れなかった。表情も冴えない。何かあったと考える方が妥当に思えた。
「……ハタナ様……」
おもむろに、アデラは顔を上げて言う。
「大幻獣の様子がおかしいと、ツール・アマーシャから連絡がありました……ハタナ様。最近、サラモンドの調子はいかがですか?」
こちらから進言しようとしていた話を、王城側から振られた。大介は目を丸くした。
「いや……まさにその話をクレールとしていたところだ。俺の炎の幻獣、最近妙に強いんだ。攻撃力も上がってるし、炎の玉もサイズが気持ち大きくなってるような気もしている」
「……やはり、そうですか……」
「俺の幻獣と大幻獣って、関連性あるのか?」
「ダイスケ。大幻獣は、炎の幻獣なんだ」
不意にクレールが割って入ってきた。
「だから、大幻獣が活発化すると、共鳴して炎の幻獣も強化される」
「あー、そういう事ね。じゃ、俺の幻獣、勝手に強くなってラッキーじゃねえか?」
それだけのハズがない……と思いつつ、大介は敢えてそう言ってみた。案の定、ふたりは曇った顔を見合わせる。
「……て、やっぱ話はそんなに簡単じゃねえか。一体どういう不都合が起きるんだ? 大幻獣が眠りから醒めて、大暴れするってか?」
適当に思いついたままを告げると、返事がまったく返って来なくなった。アデラに至っては完全に下を向いてしまっている。
「……マジかよ」
それは、大介の予想が的中した事を示していた。沈黙が重くなる。
その時、
「Danger! Here Come The New Enemy!」
警報音が不自然に鳴り響いた。
「……勘弁してくれよ。今、割と忙しいところだぜ?」
うんざりした声をあげつつ外へ向かう大介。後ろのふたりがやたら静かなのは調子が狂うが、魔族を追っ払うのが仕事である以上、やらねばならない。
3人が外に出ると、イジドールがひとりで仁王立ちをしていた。
「おっと。リベンジマッチかい?」
「なんとでも言え。今がお前らを倒すチャンスなんだよ」
「ほー。じゃ、あんたも大幻獣の動きを察知してるってことかい?」
大介の言葉にイジドールは眉をひそめた。わずかに黙ったのち、このゴツゴツした怪物は不愉快を隠しもせずに言う。
「ち……とことんツイてねえな。じゃあ、お前が使ってる幻獣もサラモンドか」
「そういうこと。同じ幻獣どうしで戦うかい? それとも今なら、引き返してもいいんだが?」
「ふざけやがって……戦いもしねえでノコノコ帰れるかよ」
言うが早いか、イジドールは使役盤を取り出して右上の部分を触る。大介が普段召喚しているものよりも、数段筋肉が発達しているサラモンドが現れた。
「なるほど、これが今時のサラモンドってわけか……ヴニール・ピスト!」
以前マリーに、自分の使役盤が旧式であるということを告げられてはいたが、それによって召喚される幻獣のビジュアルも変わってしまうことは知らなかった。だが、このタイプの幻獣を使うと決めたのは、他ならぬ大介本人である。特に臆することもせず、彼は自分のサラモンドを召喚する。
「……ヘッ、なんだよ。俺の運もそれほど枯れたわけでもねえんだな。随分みすぼらしい幻獣を使ってるじゃねえか。ええ? 強化してもらわなくて良いのか、それで?」
「俺にはこれが性に合ってるんだ」
使役盤をセッティングしながら放った大介の言葉に、値踏みするような視線を浴びせるイジドール。優勢を確信しているのが、その嫌らしいニヤニヤ笑いでよく分かった。
「ふざけやがって……それとも、物を知らねえ素人か? どっちにしろ、今日は楽勝……か。なあ、相棒よ?」
ピストの中に納まったサラモンドを満足げに眺めるイジドール。もちろん声をかけられたとて、幻獣がそれに応えるはずもない。しかしそれでも、この怪物の笑顔は一向に崩れなかった。
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