幻獣使役はアケコンで!

小曽根 委論(おぞね いろん)

文字の大きさ
上 下
22 / 43
Chapter 5 まあ今回は、お手並み拝見で。

scene 20

しおりを挟む
 アデラによると、この像は大地を創造した母神の像であるという。母神像には特別な力が宿っており、これによって様々な奇跡を起こす事が出来るのだそうだ。

「私たち修道士は、この像に秘められた神の奇跡を具現化するために修行をしています。より善く、より清い存在となり、神様の御手御足となるために……ですね」

「なるほど。そうすると、やっぱり酒やタバコは御法度だったりするのか?」

「そうですね。お酒、タバコ……あとは魔法が禁忌となっています」

「へー、そいつは意外だな。……あ、もしかして」

 聞きそびれていたが、以前アデラは自分が修道女だと言って、使役盤の研究所へ入らなかった。当時は意味が分からなかったが、研究所内部で魔力云々という言葉が飛び交っていたのを大介は覚えている。ということは……

「はい。使役盤には魔法の技術が使われていますので、私たちはその製造現場にいてはいけないんです。一応完成品には、魔力の波動が外に漏れないようにコーティングされていますので、使役盤に触れること自体は問題がないのですが」

「敵の攻撃を受けて使役盤が割れた場合はどうなるんだ?」

「その状態の使役盤には触れられません」

「めんどくせーな」

 アデラと話していて、ふと気がつく。クレールがなんとも言えない顔でこちらを見ていた。

「ダイスケ、その……」

「?」

 やたら切り出しにくそうにモジモジしている。確かにあの時クレールとは目配せしたが、ハッキリ事情を説明すると確約をもらった訳ではない。

「そんな顔するな、クレール。別に緊急性のある情報じゃないんだ。俺は気にしてない」

「……すまない」

「ごめんなさい。クレール、ちょっと真面目すぎるところがあるので……」

 事情を知ってか知らずか、すかさずアデラがフォローを入れる。まあ、悪い奴じゃないんだよな。

 ちなみに、何故修道士が魔法を禁じられているのかという点だが、これは魔法が元々魔族の技であるからだという。考えてみれば、神へ仕える身の者が名前に『魔』とつく術に触れるのは、いかにもおかしい話ではある。

 疑問がひとつ解消された。魔族の襲撃も返り討ちに出来たし、展開は上々だ。

 その時。
「ん? 何の音だ?」

 大介が振り返ると、豪勢な馬車がこちらに近づいてきていた。白塗りの車体のところどころに、繊細な金細工が施されている。護衛のためか、馬に乗った騎士らしき人物も何人かいたが、馬の毛色やら騎士の鎧の色やらと、とにかく白が目立っていた。

「枢機卿の馬車か。あの方も忙しいな」

 クレールが簡潔に言う傍らで、アデラがその場に跪く。

「……これは、俺たちもやらなくていいのか?」

「枢機卿に跪拝きはいを義務づけられているのは、アデラのような神職者だけだ。我々がする必要はない」

「あ、そ」

 大介からすれば、クレールも充分神職者に近いマインドを持っているようにも見えたが……常識や風土というものは、来訪者からすると不可解に見えるものである。 

 馬車はさしてスピードを出すでもなく、ゆっくりこちらに近づき、そして何事もなく通り過ぎていった。たっぷり時間を空けて、アデラがゆっくり立ち上がる。

「……枢機卿、今回は南へ行かれるのですね」

「今回は、て……そのスウキケイって、いつもどこかへ行ってるのか?」

「月に一度、ラテカ域外の教会や聖堂を回って、説教をしたり民の懺悔を聞いたりしているのです。本来ならそのようなことをするお立場ではないのですが、人々の悩みに寄り添う姿勢を失ってはならないからと、枢機卿になられた今も精力的に活動をしておられるのです」

「はー、ご苦労なこったね。エラくなったんだから、椅子に座ってふんぞり返ってりゃ良いのに……あ」

 どうしても、口を滑らせてからしか気づけない性分のようだ。大介が我に返ってふたりを見ると、彼女たちは揃って非難の目をこちらに向けていた。

「……マジですまん」

「お前のいた世界というのは皆、お前のような不信仰者ばかりなのか?」

「いやー……まあ似たり寄ったりではあるが、いわゆる『不敬』な発言をしちまうのは、俺が特別ダメな人間だからだと思ってくれ。申し訳ない」

「分別のつきそうな歳に見えるのにな」

「だから悪かったって。本当に今のは言い訳しないから、許してくれ」

 信仰に疎い生活を送ってきた大介にとって、ふたりの反応は正直強い。そんなに怒るなよ、とも言いたい気分であったが、この国が信仰の厚いところだと既に知っている以上、神職者を軽んじた発言は慎むべきなのだ。頭では分かっているのにポロリと言ってしまうのは、昔から変わらない災いの元だった。

(それにしても……説教やら懺悔やらって、マジでキリスト教みたいな事するんだな)

 そもそもこちらの世界が西洋に似通った文化圏なのだから、別段特殊に思うようなことではない。
 ……かもしれないのだが、聞き馴染みのある言葉が出てくると、妙なリアリティを感じてしまう。

(いや、まあ今いるこの世界がリアルじゃないって言ったら語弊あるんだがさ……でも、現実感に乏しいからこそ、好き勝手に動けてる部分だってあるからなあ)

 このまま、ちょっとフワフワしてた方が、却って神の使者として振る舞えるような気もしている。現実はいつだって、彼にとっては『枷』であった。

 と。

「……ん?」

 またもや、どこからか視線を感じた。
 やっぱり、どうも気になる。

「どうか、しましたか?」

 ただならぬ雰囲気を察したのか、アデラが真面目な顔で尋ねてくる。

「うん、いや……気のせいかもしれんが、視線をちょっと感じてな」

「なんだと?」

 クレールもこれに反応し、三人は辺りを見回す。

「……誰もいないぞ?」

「そうですね。強いて言うなら、元々のここの住民さんがこっち見てるくらいで」

「そういう話じゃないと思うが?」

「いや、今回はアデラが正しいかもしれん。ちょっとここの雰囲気に飲まれちまったのかもしれんな。なにしろ俺のいた世界って、すげえ平和だったからさ」

「……」

 クレールは納得していない様子だった。しかし、視線の主が誰か知りようがない以上、詮索は時間の無駄である。

 大介はぼんやりと、開きっ放しの南門を見た。枢機卿の馬車はすでに見えなくなっている。

「……」
「……」

「……さ、帰って寝るか! 俺、もう疲れちまったよ」
「お前、何もしてないだろ」

 いずれにせよ、しばらくはここが仕事場になる。気晴らしの方法を考えといた方がいいな、と大介は内心でこっそり思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凶幻獣戦域ラージャーラ

幾橋テツミ
ファンタジー
ラージャーラ…それは天響神エグメドなる絶対者が支配する異空間であり、現在は諸勢力が入り乱れる戦乱状態にあった。目下の最強陣営は「天響神の意思の執行者」を自認する『鏡の教聖』を名乗る仮面の魔人が率いる【神牙教軍】なる武装教団であるが、その覇権を覆すかのように、当のエグメドによって【絆獣聖団】なる反対勢力が準備された──しかもその主体となったのは啓示を受けた三次元人たちであったのだ!彼らのために用意された「武器」は、ラージャーラに生息する魔獣たちがより戦闘力を増強され、特殊な訓練を施された<操獣師>なる地上人と意志を通わせる能力を得た『絆獣』というモンスターの群れと、『錬装磁甲』という恐るべき破壊力を秘めた鎧を自在に装着できる超戦士<錬装者>たちである。彼らは<絆獣聖団>と名乗り、全世界に散在する約ニ百名の人々は居住するエリアによって支部を形成していた。    かくてラージャーラにおける神牙教軍と絆獣聖団の戦いは日々熾烈を極め、遂にある臨界点に到達しつつあったのである!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

龍神様に頼まれて龍使い見習い始めました

縁 遊
ファンタジー
毎日深夜まで仕事をしてクタクタになっていた俺はどうにか今の生活を変えたくて自宅近くの神社に立ち寄った。 それがまさかこんな事になるなんて思っていなかったんだ…。 え~と、龍神様にお願いされたら断れないよね? 異世界転生した主人公がいろいろありながらも成長していく話です。 ネタバレになるかもしれませんが、途中であれ?と思うお話がありますが後で理由がわかりますので最後まで読んで頂けると嬉しいです!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...