幻獣使役はアケコンで!

小曽根 委論(おぞね いろん)

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Chapter 4 レバーとボタンは、やっぱりマストで。

scene 16

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「それじゃ親方は、使役盤の操作は両手でやった方がいいって思ってたのか」

「そりゃそうよ。あんな狭いなかで幻獣どうしを戦わせるんでしょ? 使役術だけじゃ勝てないって思うじゃん」

 聞くと、使役術は格闘ゲームでいうところの必殺技にあたるもののようだ。一方で通常技に該当するものにも『単術』という呼び名がちゃんとあるとのこと。

「……紛らわしいから、通常技と必殺技に言い換えてもいいか?」

「だから、それやられると私たちが紛らわしいから勘弁してくれ」

「あら。ダイスケ君の地元だと呼び方が違うの?」

「まあ、色々な」

「今度時間があれば、君の地元の話も聞かせてほしいな……で、えっと、もうひとつの要望が?」

「指令円をレバー、効果円をボタンに置き換えて欲しいんだが」

「あ、そうそう。……でも、これはちょっと時間かかるわね。やれないことは全然ないんだけど、如何せんそういう部品を作るトコからやらないといけないしね」

「どれくらいかかるんだ?」

「物さえちゃんと揃えられれば、仕組みはそんなに複雑じゃないからね。普通でいけば2、3日ってトコだけど……ただし、ねえ……」

「?」

「いや、ね。ここ最近、使役盤を作る工定数がメッチャ増えてさ。新人がやたら多いのよ。だからその子たちを教育しがてらになるから……実際はもうちょっとかかる、と思ってほしいかな?」

「そうなのか」

「ダイスケ、多分ピストのせいだ。使役盤にピストの展開機能を付与させるために、使役盤の製作が大変になったって聞いたことがある」

「詳しいね。クレールちゃん、だっけか? 物分かりのいい子は、アタシ好きよ」

「あ……ありがとうございます」

 どことなく戸惑った様子でクレールが返事をする。マリーはそれへ、満面の笑みを浮かべて頷いた。終始機嫌が良さげながら有無を言わせぬ雰囲気は、戦車のキャタピラーを大介に連想させた。

「じゃあ、どうしようかね。とりあえず使者様の使役盤は預かるとして、クレールちゃんの使役盤も、立ち操作できるようにしとくかい? こっちの改造はすぐに終わるけど」

「では、やっていただけますか?」

「あいよ。じゃあ、確かに二人分の使役盤、を、預かりましたよーってね……ん?」

 終始テンションが高めだったマリーだったが、大介の使役盤を見た途端に、その顔を曇らせた。
 首を傾げる大介とクレールを尻目に、マリーは事務所のドアを開けた。そして男をひとり呼びつけるとクレールの使役盤を持たせて何か簡潔に説明をしている。
 男は勢いよく頷くと、渡された使役盤を持って奥へ消えていった。

 再びドアが閉められる。大介の使役盤は依然マリーの手の中だ。
 その場に立ったまま、振り返って彼女は言う。

「……ダイスケ君。この使役盤、相当古い型だけど、もうちょっと新しいヤツじゃなくても大丈夫?」

「ん? いや、正直俺はメチャクチャしっくり来てるから、そのままでもいいが?」

「でもこのタイプだと、敵にあんまりちゃんとしたダメージ与えられないよ? 本来サラモンドは攻撃力の高さが売りの幻獣なのに、これだと火力出るのがクープスペリアとブレット・デ・キャノンのふたつの術に限られちゃうし」

「でも、火力上げようとすると、神通力の消費が増えたりするんじゃないのか?」

「……詳しいね。その通りだけど」

「いや、知らんけどそんな気がしただけだ。それに、対空と超必殺技さえ火力があれば、俺の戦い方としては問題ない。飛び道具の消費が大きくなる方が俺にとってはイヤだからな」

 その言葉は、マリーにとって相当予想外だったようだ。彼女は腕を組み、しばし黙りこくった後に言った。

「ふーん……いっぺん、ダイスケ君の戦ってるとこ見てみたいな。どうやってるんだろう?」

「ここには、トレーニングルームみたいなのはないのか?」

「あ、あるよ。もしかして見せてくれるの?」

 マリーの目の奥にキラキラしたものが見えた、気がした。やっぱり気持ち的に圧倒される。

「俺の戦い方を見せるくらいなら、別にやぶさかじゃねえぞ。もっとも、付き合ってくれる対戦相手がいるのが前提だが」

「それならここにいるだろう、ダイスケ」

「バカ。お前、今使役盤持ってねえだろう」

「ああ、アレなら本当にすぐ終わるから大丈夫だよ」

「そうなのか?」

 そういうことなら……ということで、大介はクレールとここで再びトレーニングモードに入ることになった。ただし、そうは言っても少々時間があるようなので、大介は研究室の外にいるユーグに、時間がかかる旨を伝えにいくことにした。道案内がいなくなるが、それはマリーの部下が代わりにやってくれるとの事である。

「神の使者様御自ら行かなくても、それくらいアタシの部下にやらせるわよ?」

「あんまりじっとしてるのも性に合わないんだよ」

 適当に言って研究室の外へ一旦出る。ユーグはそこで、真っすぐに立ったまま大介らをただ待っていた。

「あんた……ずっとそんな姿勢でいたのか?」

「いつ、使者様がお戻りになられるか分かりませぬ故」

「それなんだけど、ちょっとまだ時間がかかりそうなんだ。悪いけど先に戻っててくれねえかな? そんで、アデラ……えっと、さっきの修道女ね。あいつにも、くつろげる部屋をあてがってくれると嬉しいんだが」

「かしこまりました」

 相変わらず、この男は終始無表情だ。
 思わず、大介は尋ねる。

「なあ、あんた。この仕事、楽しいか?」

 その質問に、ユーグの顔に困惑の色が浮かんだ。一応、初めて大介の前で見せた感情、ということにはなるのか。

「楽しい、とは? ……仕事とは、そう言った心持ちで勤めるものでもないと考えますが」

 ……あー、そうか。
 こういう手合いは、そう言うよね。

「すまん、なんでもない。忘れてくれ」

「お気遣いなく。こちらこそ、ぶしつけな返しを致しまして、失礼しました」

「いいって、いいって。どうせ俺たち、歳も近いだろうし、気にするな」

「……重ね重ね失礼ながら、それは歳が近いと気にしなくても良いものでしょうか?」

「アンタ、クレールよりも堅物だな」

 苦笑まじりに大介が言うと、ユーグはさらに困惑具合を強めていた。
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