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Chapter 4 レバーとボタンは、やっぱりマストで。

scene 15

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 研究所の中へ通されたふたり。そこは……

「先輩! 魔法銀の鋳造、終わりやした!」

「よーし! そしたらそれを型から外せ!」

「オッス!」

「おい、待てバカ! 素手でやろうとする馬鹿がいるか! 両手揃って使いモンにならなくなっても知らねえぞ!」


「親方、この図面どうっスか!」

「えー? ここの導線どうなってんの?」

「え? いや、だからここは……あれ?」

「あれ、じゃなくて。ハイ、修正修正。そんなんじゃ、幻獣呼ぶ前に魔力の過圧で使役盤爆発するわよ」

「オッス!」

 ……とても賑やか、だった。
 実際は、これらの台詞に加え、金属の打ち合う音や激しく水の蒸発する音なども随所で鳴っていて、とにかくうるさいの一言に尽きた。

「……こんな場所で会話とか、出来るのか?」

「私に訊くな」

 小声で言い合うのさえままならない。大介とクレールは、大きめに張った声で意見を交わす。
 数人が、こちらに気が付いた。その中でも、瓶底メガネにタンクトップとジーンズという、異世界らしからぬラフな格好をした女性がこちらに歩み寄って来る。若くてガタイの良い男に『親方』と呼ばれていた女性だ。年齢はアデラやクレールよりも一回りほど上に見える。作業の邪魔にならないためにか、二か所で結った三つ編みは両の側頭部でピンと立たせている。
 そして、

「……胸、でけえな」

「何か言ったか?」

「え? いや、なにも?」

 こういう時ばっかり地獄耳なのは、女性の特性なのだろうか? 大介はそう思ってみたが、過去の事例が無さ過ぎて検証は出来なかった。

「やー。ごめんね、うるさいところで!」

 女性はふたりの前に立つと、にっこり笑って言った。つられるようにして、大介は頭を下げる。何だこの陽キャパワーは。

「とりあえず、事務所まで来て! そこなら防音がしっかりしてるから!」

 世間話も挟まず、三人は場所を移動する。こんなロケーションでは無理もない。
 研究所というよりは広々とした工場、という印象の部屋の奥に、ひっそりと金属製のドアがあった。そそくさとその向こうにある小部屋に入ってドアを閉めると、不自然なくらいに雑音がしなくなった。

「……すご」

「これくらいちゃんと防音しないと、まともな会話出来ないからね」

 事務所は思いのほか広く、食堂のように椅子と机が並んでいた。三人はその内、ドアに近い辺りの席に固まって座る。

「さっき、ユーグとかいうオッサンが研究室の中と話してた時、かなり小声でやり取りしてたと思うんだけど……よく聞こえたよな、あんな騒音のひどいのに」

「それはアタシが対応したわけじゃないけど、多分あいつも聞こえてなかったと思うよ。多分、唇の動きを見て察したんだよ。正直ココじゃ、それくらい出来ないとコミュニケーション無理だからね」

「……まあ、分かる気はする」

「とりあえず自己紹介しない? アタシはマリー。一応、ここの研究所の所長やってるよ。みんなはアタシのこと何故か親方って呼ぶけどね」

「王国所属の幻獣召喚士クレールです。こちらは今朝クグシボンに降臨された神の使者ダイスケ……」

「あら! アナタが噂の。へー」

「……どうも」

 ジロジロと大介を見つめるマリー。容赦ない視線に耐え切れず、彼は目を横に逸らす。

「どうした、ダイスケ?」

「いや、なんでもない」

 不自然に机の端をみながら、上の空な返事をする大介。女性ふたりは顔を見合わせ、肩をすくめる。

「ま、いっか。じゃあ、早速で悪いけど本題に入ろう。えーっと確か、使役盤に対する要望、だったわね」

 じつにハキハキと喋る女性だ。普通の人なら好意的にとらえるのだろうが、こと大介に限って言えば、そういう人間ほど苦手であった。
 とは言え、いつまでも委縮していては話が始まらない。大介は、使役盤に関する要望をマリーに一通り伝えてみた。
 彼女の反応は予想外に大きく、すぐに目を見開いたと思うと、そこからは熱心に何度も首を縦に振っていた。

「……神よ、お導き感謝申し上げます」

 大介が一通り言い終わると、マリーは両手を胸の前で組み、神に祈った。

「どういうことだ?」

 訝しさに任せて尋ねる大介。マリーはそれへ悪戯っ子ぽく笑うと、少し待つように言い、事務所を一旦出てしまった。
 程なく戻って来たマリー。その右手には使役盤を、左手には何やら長い物を持っていた。

(棒……いや、三脚か)

 彼女は三つある脚を広げ、床の上にそれを立てた。そして使役盤をその上に乗せる。
 カチッ、と、何かがはまるような音がした。

「ちょっと、触ってみて。召喚円だけは触れないでね」

 マリーはそう言い、少し離れた椅子に座った。
 大介はクレールと一瞬顔を見合わせた後、ゆっくりと立ちあがって三脚付き使役盤の前まで移動する。

(……そりゃあ、高さ的には充分だけどさ。こんなん、ちょっと乱暴に扱ったら、すぐガタガタするだろうに)

 否定的な思いのまま、使役盤に触る大介。確かに、立ったまま操作するにはちょうどいい高さだ。

「良さげだな」

 あまり感情が表に出ていないが、口に出しては好意的な発言をするクレール。

「まだ分からんよ。……これ、ちょっと乱暴に扱ってもいいか?」

「どーぞどーぞ」

 マリーの承諾を受け、全盛期のゲーセンさながらに使役盤をバシバシに激しく操作する大介。

「おほー! こりゃパッションだね!」

 よく分からない言葉でテンションをあげるマリー。クレールは、自分が普段そんなノリで使役盤を操作していないためか、若干引いた目でこちらを見ている。
 そして、当の大介は、

「……これすげーな。こんな程度で実際の操作が安定するわけねーだろって思ったけど……」

「物理だけじゃなくて、魔法の力も使ってるからね。ダイスケ君、それ、ちょっと持ってみてよ」

 自分より一回りくらい下の女性に君づけで呼ばれるのに少々びっくりしたが、そもそもさらに一回り下っぽいクレールのタメ口と呼び捨てを許している時点で、これを咎める謂れはない。大介は黙って三脚部分を持ち、それを挙げる。

「え、軽!?」

「軽量化にも成功しております。どう? すごい?」

「いや……すごい。これ、本当にすごいぞ」

「普段その三脚は背負うかなんかしてもらって、使役盤はもちろんホルダーにしまう。で、いざ幻獣戦が始まったら三脚を広げてその上に使役盤をセット。ちょっと手間取るのが難点だけど、今のところはこれが一番アナタの要望に添うんじゃないかしら?」

 したり顔のマリー。まさか、すでに立ち操作のためのアタッチメントが開発されていたとは思っていなかった。展開の早さに、大介はむしろ困惑していた。
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