上 下
13 / 43
Chapter 3 初っ端なのに、ヤバい相手で。

scene 12

しおりを挟む
 ゴーチェが文字通り姿を消すと、間髪を空けずクレールの体を拘束していた小悪魔たちも次々と消えていった。
 ゆっくりと体を起こすクレール。衛兵ふたりも目を覚ましたようで、ガチャガチャと鎧の音を鳴らしている。

「無事か?」

「ああ、大丈夫だ。すまない……そちらは?」

 クレールが衛兵たちに確認を取る。どうやら、彼らにも負傷は無いようだ。
 しかし鎧が重いのか、衛兵たちは起き上がるのに苦労をしている。クレールは彼らに駆け寄り、サポートに入った。
 無事全員が立てたところで、そのまま三人は小声で何か話し始める。大介はそれへ大した感情を抱くでもなく、使役盤をじっと見ていた。

 実戦の感覚として、頻繁に指令円の中央に触れなければならない操作性が、大きなストレスであった。さらに座ると幻獣の耐久値が半減するのも問題だ。このふたつさえ解消できれば、もっと良いパフォーマンスになるのだが……。

「ダイスケ、だったな」

 少ししてクレールに名を呼ばれ、大介は彼女たちのいる方を向く。

「悪いが、少し付き合ってくれるか? 先ほど自由にしてくれ、と言った手前申し訳ないのだが、神の使者が降臨したことを、陛下にご報告しなければならない。ウイドキア王城はここから歩くと少しかかるが、同行してもらえるだろうか?」

 低姿勢で頼まれてはいるが、話の内容を考えると軽々に断れるものではなかった。事実、今の襲撃で魔王軍に『神の使者』の存在が知られているのは明白だ。対策を練るにも、まず肝心の使者本人の存在を王城側が知らなければどうしようもない。

「断る道理はないな。こちらとしても、身寄りのいない世界をただウロウロするよりも、お前みたいのと行動を共にする方が気が楽だ」

「信用はしてもらえているようだな。恐縮だ」

 話がまとまったところで、早速出立の準備にかかる。もっとも、大介はこの世界に身一つで来たので、準備が必要なのはもっぱらクレールの方であったが。

「なあ。クレールが城へ行くってことは、あいつここからいなくなるんだが、大丈夫なのか?」

 時間を持て余した大介は、二人の衛兵に質問攻めをしていた。今はすでに城門は閉じられ、彼らと共にその囲いの外にいたが、あまり大介自身に危機感はなかった。
 衛兵たちは、気さくに答える。

「召喚士なら、もう一人いるから大丈夫だよ。今はまだ仮眠中だから顔を見せないだけさ。もっとも、クレールが出て行ったら起こさないといけないがな」

「あらら、なんか悪い事したな」

「こういう時のための交代人員だから気にするな。その代わり城に着いたら、人の補充をちゃんとしてもらわないと困るが……まあ、これはクレールの仕事だから、あんたが気にすることじゃないよ」

 クレールから言われたのか、彼らの大介への接し方もフランクだ。神の使者、などと言われると大袈裟に過ぎるため、これはわりと本気で助かる。

「ところで、魔王の襲撃を受けているっていうのはさっき経験したから分かったが、実際被害はどんなもんなんだ? ここだと城壁の損傷も見られないし、正直あまり深刻には思えないんだが」

「こっちはそうだが、南門はかなり大変だな。あっちは城壁が本格的に壊されて、一度城壁を作り直している」

「げ、マジか」

「おおマジさ。しかも、再建築された城壁は最初の城壁よりもラインが下がっている。新しい城壁の外に取り残された住民は日々、魔王軍におびえてるってウワサだよ」

「それというのも、奴らはそこに、魔族だけが行き来できる時空の歪みを作りだしたんだ。南門は常に緊張状態さ。ピストの発明で無駄な被害は発生しなくなったが、いつ奴らが仕掛けてくるかは全く分からんからな。うっかりピストに敵の幻獣を入れ損ねたら、どんな大暴れをするか分かったもんじゃない……お?」

 衛兵が、話を途中で切った。彼の兜が向いた先を見ると、城門脇の扉の前にクレールとアデラが立っていた。

「ん? お前もいるのか」

「ウモス聖堂に報告は済ませました。そのうえで、神の使者様を『ツール・アマーシャ』までお連れしろと指示をいただきましたので」

 ツール・アマーシャが分からず、大介は思わず隣の衛兵を見る。彼は丁寧に、それがウイドキア王城の名前であることを教えてくれた。

「聖堂からの命令だっていうので、彼女も一緒に連れて行く。悪く思うな」

「別に悪くは思わんが」

「むしろ、なんでクレールが一緒に来るの?」

「悪いけど、私、あんたを信用してないから」

「えー、それはひどくない?」

「うるさい。ダイスケに何も説明しないで使役盤を渡すなんて、よくもまあ危なっかしい真似してくれたわね。下手したら命を落とすところだったのよ」

 ふたりの態度が、やたら砕けている。会話の内容は口喧嘩っぽくも聞こえるが、実際はそれなりに仲が良いのだろう。

「それは枢機卿からの指示が……何も言わなくても分かっているはずだからってことだったし」

「あんたには、ダイスケが分かってるふうに見えたの?」

「なんか、よく分かってなさそうな感じだった。だから、とりあえず使役盤を持たせれば分かってくれるのかなって……」

「ホラ、そこそこ。なんでそこでそうなるのよ」

 やり取りが止まらない。これ、割って入った方がいいのか?
 大介がやきもきし始めた頃合いで、衛兵が言った。

「お前たち、ここでずっとおしゃべりしてていいのか? 神の使者様がお待ちだぞ?」

 指摘にこちらを振り向いたのは、クレールだけだった。少し焦りが顔色に浮かんでいる。

「ああ、すまん……ダイスケ、とりあえず出発しよう」

「なんでそうなるって、枢機卿が何も言わなくても大丈夫って……」

「アデラ、一回中断しよ。まずは出発、いい?」

「えー、クレールが訊いて来たのに?」

(めんどくせー女だな、こいつ。思った以上に)

 アデラをなだめるクレール。ふたりはそのまま脇の小門に消えた。

「……と、いかん。俺も行かないと」

「クレールのこと、よろしく頼むよ。特に、アデラで苦労するだろうから、フォローしてもらえると助かる」

「はいよ」

 彼女たちの関係性は、衛兵たちも知るところのようだ。大介が苦笑いを見せると、二人は北門の両脇、護衛の定位置へ戻った。先程までの気さくさが嘘のように、直立不動となる。

(さて、と。呼ばれる前に行きますか)

 大介は一度伸びをすると、気ままな小走りで脇の小門へ入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

役立たず王子のおいしい経営術~幸せレシピでもふもふ国家再建します!!~

延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。 ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。 人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。 「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」 温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。 しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。 「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」 これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。 旧タイトル 「役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~」

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

アイスさんの転生記 ~貴族になってしまった~

うしのまるやき
ファンタジー
郡元康(こおり、もとやす)は、齢45にしてアマデウス神という創造神の一柱に誘われ、アイスという冒険者に転生した。転生後に猫のマーブル、ウサギのジェミニ、スライムのライムを仲間にして冒険者として活躍していたが、1年もしないうちに再びアマデウス神に迎えられ2度目の転生をすることになった。  今回は、一市民ではなく貴族の息子としての転生となるが、転生の条件としてアイスはマーブル達と一緒に過ごすことを条件に出し、神々にその条件を呑ませることに成功する。  さて、今回のアイスの人生はどのようになっていくのか?  地味にフリーダムな主人公、ちょっとしたモフモフありの転生記。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...