幻獣使役はアケコンで!

小曽根 委論(おぞね いろん)

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Chapter 2 とりあえず、トレモするんで。

scene 5

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 ウイドキア王国の成り立ちと現在の危機、神よりの使者が渇望されている現状を聞いた大介。次に、使役盤と幻獣についてより詳しい説明を受けるために、二人は場所を移動した。
 先ほど同様に殺風景な部屋だ。部屋の隅に使役盤と剣がいくつか飾られている以外は、本当になにもない。

「ここは、剣術や幻獣使役の腕を磨くための訓練場だ」

 確かに、広さはそこそこ担保されていて、天井も高い。何か運動をするには適しているように見える。
 が、

「……でも、さっきのピストを展開するだけの広さはないよな。どうするんだ?」

「その辺は、順を追って話すから気にするな。ほれ、これ被って」

 無造作に手渡されたのは部屋の外、入り口付近にかけられていた木製の帽子だった。クレールの話では、これを頭に装着することによって、幻獣と使役者の同期が解除された時の衝撃を緩和できるのだという。

「便利なものがあるんだな。これ、実戦では使えないのか?」

「幻獣の攻撃力が致命的に低くなるからな。とてもじゃないが、実戦投入は無理だ」

 いましがたの失言以降、クレールの態度がずいぶんフランクになった。舐められたのかもしれなかったが、正直こっちの方が大介も気が楽だ。

「じゃあ、本当に訓練用の道具なんだな」

「そういうこと。じゃ、使役盤の使い方を教えるぞ」

「うっす」

 クレールは、左の腰に括り付けられているホルダーから、左手で使役盤を手早く取り出した。そしてその手を、スムーズに板の下へ滑り込ませる。

「手際がいいな」

「慣れればどうということはない」

 彼女はそう言いながら、右手の人差し指で小さな門の絵を触る。先ほどの青い幻獣が再び姿を現す。

「さて。ではやってみてくれ。私か、こちらの幻獣に正対し、召喚円を2回押すんだ」



「召喚円……て、この、門が中に描かれている丸のことか」

「そうだ。こっちをちゃんと向いて、やってみろ」

 言われるがままにする大介。すると、今度はこちらが召喚した赤い幻獣がまた現れる。

「そうしたら『ヴニール・ピスト』と唱える。これで、ピストが出てくるはずだ」

「さっき、あんたがピストを出した時と、手順が少し違わないか?」

「よく見ているな。召喚円の操作と『ヴニール・ピスト』を唱える順番は、正直どちらでも良い。逆の方がやりやすいのなら、別にそれでもいいぞ」

「ああ、そうなのね」

 耳慣れない言葉だが、覚えきれないほど長文ではない。大介は指示通りに「ヴニール・ピスト」と口にする。
 次の瞬間、部屋の幅ちょうどのサイズで、先程の細長いピストが現れた。幻獣二体が、その中へスライドする。
 その時、

「……ん?」

 一瞬、見間違いかと思ったが、そうでもないようだ。明らかに、二体の大きさが縮小している。
 クレールは言う。

「ピストは基本、幅6ピエ、長さ43ピエのサイズで具現化されるが、狭い空間で展開しようとすると、その場所に合わせたサイズに縮小されて現れる。ただしその場合、召喚した幻獣もそれに合わせた大きさに変化するため、戦いそのものには影響ないんだ」

 ピエ、という単位に馴染みが全くなかったが、話の本質はそこではないと、大介は割り切った。

「ちなみにピストは張り損ねると、使役盤の操作感覚が大きく変わってしまう上に、幻獣どうしの戦いへ市民を巻き込む恐れが大きくなる。敵の幻獣に好き勝手させない為にも、ピストは必ず出してくれ」

「分かった」

「さてと。じゃあ、実際に幻獣を使役してみようか」

 クレールはそう言って、使役盤の左側に右手の指を当てる。

「こちらの円に描かれている八方向の矢印の先端を、決まった順に触れることによって、特定の術を幻獣が繰り出してくれる。試しにやってみるぞ。使役盤の方を見ててくれ」

 クレールの指が、矢印の下、左斜め下、左の順に素早く2回触れる。そして同じ指で、右側の、水を示している小さな丸に触った。
 次の瞬間、幻獣は胸の前に両手を構え、大きな水のボールを生成した。

「ああ、さっき見たやつだな」

「これで、あの水の塊を敵にぶつけるんだ」

 彼女が言い終わるや否や、水のボールは幻獣の手元を離れ、かなりゆっくり大介側の赤い幻獣に向かっていく。さっきは気が付かなかったが、ボールは高速でスピンしているようだ。

「これが使役の基礎だ。左側の指令円に使役紋と呼ばれる印を描き、右側の六つある効果円から適切なものを選んで触れる。こうすることによって、幻獣は術を発し、敵に攻撃を与えてくれる」

 ……。
 ……。

(いやいやいやいや。どう考えても格ゲーのコマンド入力だろ、コレ)

 大介が心の中でツッコミを入れている間にも、ボールは赤い幻獣に近づいていく。

「すまん。もしかしたら俺、これ普通に使えるかもしれん。ちょっとやってみていいか?」
「は?」

 唐突な発言にクレールは戸惑った様子だが、今は自分の直観を確かめる方が先だ。
 幸い、もらった返事は「好きにしろ」だった。大介は指令円をレバー、効果円をボタンに見立て、完全に格闘ゲームの要領で幻獣を操作することにした。もっとも、使役盤自体を左手で持っているため、右手のみでの操作にはなるのだが。
 目の前の水のボールを垂直ジャンプでよける。矢印の上を押すと、果たして幻獣は真上に跳ねた。その跳躍力は、いかにもゲームのキャラクターと言えるほどであった。

「……ほう」

 感嘆の声がクレールから漏れる。してやったり……と言いたいところだったが、タイミングが悪く、結局幻獣はボールを踏み、後ろに大きく吹っ飛んだ。

「うおお、びっくりした」

 刹那、軽い電流みたいな衝撃が脳天を直撃した。なるほど、これが被ダメージの合図か。

「よし。今度はこちらからも何か撃ってみるぞ」

 そう言うと、クレールが2回なでた矢印の順番を1回だけなでた。ただし、自分の幻獣はクレールのそれとは逆を向いているので、左向きではなく右向きに触ったのだが。

(本当に格ゲーの要領でいけるなら、こっちの方が正解のハズ……)

 そう思い、炎の効果円を触る。

「……何!?」

 驚くクレール。赤い幻獣は左手を真っすぐ前に構えると、そこから炎の弾を撃ち出したのだ。弾の大きさは、相手が放った水のボールと比べると小さかったが、そもそも何も知らないはずの大介がいきなり幻獣に術を使わせたことに対する衝撃の方が大きかったようだ。

「お前、やっぱり何か知ってるな?」

「知ってる、ていうか……コレ、昔俺がやってた遊びにスゲー似てるんだよ。多分大丈夫。俺、すぐにコイツを使いこなせるぜ」

 にわかには信じられないであろう大介の言葉。クレールはそれを聞き、ゆっくりと噛み締めるように頷いて、目を閉じた。

「神よ……感謝申し上げます。やはりこの方は、あなたが遣わした使者なのですね……」

 クレールは、敬虔な信仰を持っているようだった。大介には分からない境地であったが、大きな存在によって自分の立場が守られる感覚は、なんだかんだ言って悪いものではなかった。
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