1 / 17
第一章 日常
001 はじまり
しおりを挟む
ーー都内某所。
『右、右右右右右左左左、左ですセンパイ。』
「どっちだよ。」
『3秒前は左でした。』
「過去形で指示されてもさぁ。」
『あ、確定しました。5秒後に右から来ます。』
「了解。」
深い夜の闇に紛れるように、漆黒の青年が細い路地裏に立っていました。右手には刃渡り2mくらいの黒い長剣。その根元に埋め込まれた深紅の結晶からは、まばゆい赤い光が放たれています。明らかに銃刀法違反ですが、とある事情により許されています。
『あ、やっぱり左。』
「ふざけんなテメエおらあああああッ!!!!」
いつものことで反射神経が鍛えられているらしく、凄まじい勢いで跳ね返った青年の剣が影を切り裂きました。バン、という音とともに破裂したその物体から吐き出されるのは”黒い液体”。それが見事なまでに青年にぶっかかります。
「・・・チッ。しくった。」
『うわー、大丈夫ですかセンパイ。またやっちゃいましたね、ドンマイドンマイ。』
「さて、誰のせいだったかな?」
『責任追及は時間の無駄だ、って偉い人が言ってました。』
「はは、そりゃ偉い人はそう言うだろうな。」
『んー相変わらず笑えない冗談好きですよね、センパイ。』
返事をせずに、青年は垂れ落ちる液体を腕で簡単に拭いました。そしてその足元でびくびくと跳ねているモノを一瞥します。焦点の合わない4つの目、微細な牙がずらりと生えた口、真っ二つに切り裂かれた隙間から覗く黒い血肉、いまだぐねぐねと蠢く7本の手足ーー悪魔。
少しずつ”黒塵”になりながら消えていくそれを見ながら、青年は無表情のまま口を開きました。
「兄弟、ね。三匹ぶっ殺したからあと一匹だ。」
『それが魔力反応ないんですよー。』
「さっきからレーダーイカれてんのか。いねえ訳ねえだろ。」
『同胞を失った個体って可能性もありますし、最近増えてきてる変異体かもしれません。とにかくセンパイの周囲にそれらしい反応はないです。』
「・・・んなことある?」
さっきのさっきでいまいち信用しきれない青年でした。これ以上ないほど渋い顔してます。
「・・・戻るか。たりぃし。」
『そうですねー、状況整理しましょ状況整理。』
「シャワー浴びてからな。」
色んなことを諦めたように深くため息をつくと、青年はジーンズのポケットから白い球体を取り出しました。
「ー”展開”。」
その瞬間、球体は宙に浮き上がり、何やら地面に円形の幾何学模様を映し出します。薄く発光しているその”転移魔方陣”の傍で、ぼんやりと浮かび上がる黒い塊。黒塵として消え去った悪魔が食い残したもの。
無惨に引き千切られた名も知らぬその"死体"を、青年は相変わらずの無表情で見つめていました。どこか諦念を湛えた赤い瞳からは、何を考えているか読み取ることは出来そうにありません。ただ、何かしらの思う所はありそうです。
『ーーッ、センパイ後ろッ!?!』
だから、青年は背後から忍び寄る"もう一匹"に気付くのが遅れました。姿なき声の悲鳴で我に返り、考えるよりも早く身体が剣を振るいます。しかし、このままだと悪魔の鋭利な牙の方が届くのは先でしょう。
このままだと。
『ーー〈因果の祝福〉ッ!!』
「〈運命の裁き〉。」
『右、右右右右右左左左、左ですセンパイ。』
「どっちだよ。」
『3秒前は左でした。』
「過去形で指示されてもさぁ。」
『あ、確定しました。5秒後に右から来ます。』
「了解。」
深い夜の闇に紛れるように、漆黒の青年が細い路地裏に立っていました。右手には刃渡り2mくらいの黒い長剣。その根元に埋め込まれた深紅の結晶からは、まばゆい赤い光が放たれています。明らかに銃刀法違反ですが、とある事情により許されています。
『あ、やっぱり左。』
「ふざけんなテメエおらあああああッ!!!!」
いつものことで反射神経が鍛えられているらしく、凄まじい勢いで跳ね返った青年の剣が影を切り裂きました。バン、という音とともに破裂したその物体から吐き出されるのは”黒い液体”。それが見事なまでに青年にぶっかかります。
「・・・チッ。しくった。」
『うわー、大丈夫ですかセンパイ。またやっちゃいましたね、ドンマイドンマイ。』
「さて、誰のせいだったかな?」
『責任追及は時間の無駄だ、って偉い人が言ってました。』
「はは、そりゃ偉い人はそう言うだろうな。」
『んー相変わらず笑えない冗談好きですよね、センパイ。』
返事をせずに、青年は垂れ落ちる液体を腕で簡単に拭いました。そしてその足元でびくびくと跳ねているモノを一瞥します。焦点の合わない4つの目、微細な牙がずらりと生えた口、真っ二つに切り裂かれた隙間から覗く黒い血肉、いまだぐねぐねと蠢く7本の手足ーー悪魔。
少しずつ”黒塵”になりながら消えていくそれを見ながら、青年は無表情のまま口を開きました。
「兄弟、ね。三匹ぶっ殺したからあと一匹だ。」
『それが魔力反応ないんですよー。』
「さっきからレーダーイカれてんのか。いねえ訳ねえだろ。」
『同胞を失った個体って可能性もありますし、最近増えてきてる変異体かもしれません。とにかくセンパイの周囲にそれらしい反応はないです。』
「・・・んなことある?」
さっきのさっきでいまいち信用しきれない青年でした。これ以上ないほど渋い顔してます。
「・・・戻るか。たりぃし。」
『そうですねー、状況整理しましょ状況整理。』
「シャワー浴びてからな。」
色んなことを諦めたように深くため息をつくと、青年はジーンズのポケットから白い球体を取り出しました。
「ー”展開”。」
その瞬間、球体は宙に浮き上がり、何やら地面に円形の幾何学模様を映し出します。薄く発光しているその”転移魔方陣”の傍で、ぼんやりと浮かび上がる黒い塊。黒塵として消え去った悪魔が食い残したもの。
無惨に引き千切られた名も知らぬその"死体"を、青年は相変わらずの無表情で見つめていました。どこか諦念を湛えた赤い瞳からは、何を考えているか読み取ることは出来そうにありません。ただ、何かしらの思う所はありそうです。
『ーーッ、センパイ後ろッ!?!』
だから、青年は背後から忍び寄る"もう一匹"に気付くのが遅れました。姿なき声の悲鳴で我に返り、考えるよりも早く身体が剣を振るいます。しかし、このままだと悪魔の鋭利な牙の方が届くのは先でしょう。
このままだと。
『ーー〈因果の祝福〉ッ!!』
「〈運命の裁き〉。」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる