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016.人を部屋に招きました
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「54番様がおいでですが、いかがなさいますか?」
ふかふかのベッドに寝転んで、今後の予定やルールが書かれた“手引書”を読んでいた僕に従僕のロードが声を掛けた。この三日間の僕専属の従僕になってくれたロードは、無表情だけど、とても落ち着いた声と態度で、僕に寄り添うように付いてくれる。
今ものんびりしている僕の代わりに扉をノックする音に応えてくれた。
「ん?54番、様……?」
誰だろう?と一瞬考えて、瑠璃色の視線を思い出す。53番のマロンの向こう側からの強い視線。あの視線の持ち主が54番だ。
でも、何の用? ふしぎに思う。
「昼食会場へご一緒に、とのことです」
問う前に教えてくれたロードの声に、僕は慌てて身を起こした。“手引書”をじっくり読み過ぎていたのだろうか。
『今後の予定』のページの先頭を確かめる。「13:00より食堂にて昼食」の文字。
「もうそんな時間?!」
「只今12:20です」
ああ、よかった。まだ40分もある。って、まさかの30分以上前行動!?早すぎない???それとも、
「食堂って遠いの?」
「この棟の1階中央にございます」
それなら、3階のこの部屋からでも5分もあれば十分。
食事会場に早く着きすぎるのは、食いしん坊に思われちゃうし、給仕にも迷惑だって思う。けれど、朝の集合時間30分前で後ろから3番目だったことを思えばマナーに自信がなくなっている。僕の常識は王城では非常識かもしれない。どうなのだろう。
「食事会場には30分前には行くもの?」
分からないことは、聞いてみるのがいちばん。
「5分から10分前が適当かと」
だよね。この常識は王城でも常識だった。
とはいえ、とにかく、誘いに来てくれたというのだから、急いで対応しなければ。
扉を開けると、そこには僕を見つめる瑠璃色の目があった。
ほんの少し角度をつけて見上げるように向けられた視線は、やっぱり吸い込まれそうなくらいきれいで力強い。
この角度で目が合うの好きだなって思って、ああそうか、イーサンと同じくらいの身長なのかと気付く。ストレートに下ろした柔らかいクリーム色の金髪が肩で少し跳ねていて可愛い。頭の中でイーサンの蜂蜜色の髪と重なって自然と口元が綻んだ。
「誘いに来てくれてありがとう」
笑顔で感謝を伝えれば、「うん」と小さく頷く。席は近かったけれど、小ホールで話をしなかった僕を誘いに来てくれるくらいだから人懐っこい積極的な子なのかな、って思ったら、そうでもなさそう。もしかして、一人でにやにやしてた変な僕を心配して来てくれたとか?それならとっても優しい子だ!
「ええっ・・・と、」
僕は、目の前の彼のことを“54番”という番号しか知らない。何て呼べばいいのだろう。
「ええっ・・・と、僕の仮名は“ゴルゴ52”。“ゴルゴ”って呼んでほしいんだけど、君は?」
僕の知ってるマナー通りにまずは自分から名乗って聞く。
「……。」
なぜだか、かすかに眉根が寄って、答えるのを迷っている感じ。
「君のことは、何て呼べばいい?仮名は?」
仮名が知りたいんだよって、わかりやすく聞いてみる。
「仮名はつけていない」
強い視線が逸らされて、うつむき加減になる。どうしてだろう。
「?? 受付で言われなかった?ルールで本当の名前はダメだから、仮名をつけるようにって」
ちょっと膝を曲げて、目線が合うようにして問えば、ますます頭が下がっていって、きれいに巻いた旋毛が見えた。
「・・・言われた。けど、変な仮名なんかつけたくない」
小声でつぶやくように言う。
自分でつけるんだから、変なのじゃなく、僕みたいにかっこいいのを考えればよかったのに、って思う。それに仮名がないと困るよねって思って、思ったことの3分の1くらいだけを言ってみる。
「仮名がないと困らない?番号で呼ばれちゃうよ。牢屋に入っている人みたいでちょっと嫌じゃない?」
言わなかったもう3分の1は、「仮名がないと代わりに勝手なあだ名をつけられちゃうかも。あだ名はまずは見た目で付けられることが多いから、“目力くん”とか“旋毛くるりん”とか言われちゃうかも」だったけど、そこまで言うと責めてるみたいに思われちゃうかもしれないからやめておく。
思ったことのちょっとだけでも声に出して言ってみると、「まぁ、僕も名前に番号が入っているんだけどね」って気付いたし。だけど、それは気付かないふりをして流すことにする。
すると、下げられていた視線がぱっと上がって、僕の目をしっかり見つめた。
「お前も名前に番号が入ってるじゃないか」
あっ、今、僕が流そうと思ったことをきっちり指摘してきたね。
「僕は、“ゴルゴ”の方がメインだから番号では呼ばれないよ」
たぶん。
“ゴルゴ”って呼んでって言ってるしね。
曲げていた膝を伸ばして胸を張る。そんな僕の口はちょっと尖ったかもしれない。けど、顔を上げた目力くんの口は完全にへの字。それを見ると、同い年のはずなのに、やっぱり可愛いと思ってしまう。僕の尖りかけていた口がむにゅっと笑顔の形になった。
「昼食には、まだもう少し時間があるよね。部屋の中で話をしない?」
訪ねてきてくれた人を部屋に招き入れるなんて、なんだかちょっと大人っぽい。立ち話もなんだしねって思い切って言ってみる。どうぞ、と手振りで部屋を示すとまた視線を外した旋毛くるりんは、それでもこくりと頷いた。
ふかふかのベッドに寝転んで、今後の予定やルールが書かれた“手引書”を読んでいた僕に従僕のロードが声を掛けた。この三日間の僕専属の従僕になってくれたロードは、無表情だけど、とても落ち着いた声と態度で、僕に寄り添うように付いてくれる。
今ものんびりしている僕の代わりに扉をノックする音に応えてくれた。
「ん?54番、様……?」
誰だろう?と一瞬考えて、瑠璃色の視線を思い出す。53番のマロンの向こう側からの強い視線。あの視線の持ち主が54番だ。
でも、何の用? ふしぎに思う。
「昼食会場へご一緒に、とのことです」
問う前に教えてくれたロードの声に、僕は慌てて身を起こした。“手引書”をじっくり読み過ぎていたのだろうか。
『今後の予定』のページの先頭を確かめる。「13:00より食堂にて昼食」の文字。
「もうそんな時間?!」
「只今12:20です」
ああ、よかった。まだ40分もある。って、まさかの30分以上前行動!?早すぎない???それとも、
「食堂って遠いの?」
「この棟の1階中央にございます」
それなら、3階のこの部屋からでも5分もあれば十分。
食事会場に早く着きすぎるのは、食いしん坊に思われちゃうし、給仕にも迷惑だって思う。けれど、朝の集合時間30分前で後ろから3番目だったことを思えばマナーに自信がなくなっている。僕の常識は王城では非常識かもしれない。どうなのだろう。
「食事会場には30分前には行くもの?」
分からないことは、聞いてみるのがいちばん。
「5分から10分前が適当かと」
だよね。この常識は王城でも常識だった。
とはいえ、とにかく、誘いに来てくれたというのだから、急いで対応しなければ。
扉を開けると、そこには僕を見つめる瑠璃色の目があった。
ほんの少し角度をつけて見上げるように向けられた視線は、やっぱり吸い込まれそうなくらいきれいで力強い。
この角度で目が合うの好きだなって思って、ああそうか、イーサンと同じくらいの身長なのかと気付く。ストレートに下ろした柔らかいクリーム色の金髪が肩で少し跳ねていて可愛い。頭の中でイーサンの蜂蜜色の髪と重なって自然と口元が綻んだ。
「誘いに来てくれてありがとう」
笑顔で感謝を伝えれば、「うん」と小さく頷く。席は近かったけれど、小ホールで話をしなかった僕を誘いに来てくれるくらいだから人懐っこい積極的な子なのかな、って思ったら、そうでもなさそう。もしかして、一人でにやにやしてた変な僕を心配して来てくれたとか?それならとっても優しい子だ!
「ええっ・・・と、」
僕は、目の前の彼のことを“54番”という番号しか知らない。何て呼べばいいのだろう。
「ええっ・・・と、僕の仮名は“ゴルゴ52”。“ゴルゴ”って呼んでほしいんだけど、君は?」
僕の知ってるマナー通りにまずは自分から名乗って聞く。
「……。」
なぜだか、かすかに眉根が寄って、答えるのを迷っている感じ。
「君のことは、何て呼べばいい?仮名は?」
仮名が知りたいんだよって、わかりやすく聞いてみる。
「仮名はつけていない」
強い視線が逸らされて、うつむき加減になる。どうしてだろう。
「?? 受付で言われなかった?ルールで本当の名前はダメだから、仮名をつけるようにって」
ちょっと膝を曲げて、目線が合うようにして問えば、ますます頭が下がっていって、きれいに巻いた旋毛が見えた。
「・・・言われた。けど、変な仮名なんかつけたくない」
小声でつぶやくように言う。
自分でつけるんだから、変なのじゃなく、僕みたいにかっこいいのを考えればよかったのに、って思う。それに仮名がないと困るよねって思って、思ったことの3分の1くらいだけを言ってみる。
「仮名がないと困らない?番号で呼ばれちゃうよ。牢屋に入っている人みたいでちょっと嫌じゃない?」
言わなかったもう3分の1は、「仮名がないと代わりに勝手なあだ名をつけられちゃうかも。あだ名はまずは見た目で付けられることが多いから、“目力くん”とか“旋毛くるりん”とか言われちゃうかも」だったけど、そこまで言うと責めてるみたいに思われちゃうかもしれないからやめておく。
思ったことのちょっとだけでも声に出して言ってみると、「まぁ、僕も名前に番号が入っているんだけどね」って気付いたし。だけど、それは気付かないふりをして流すことにする。
すると、下げられていた視線がぱっと上がって、僕の目をしっかり見つめた。
「お前も名前に番号が入ってるじゃないか」
あっ、今、僕が流そうと思ったことをきっちり指摘してきたね。
「僕は、“ゴルゴ”の方がメインだから番号では呼ばれないよ」
たぶん。
“ゴルゴ”って呼んでって言ってるしね。
曲げていた膝を伸ばして胸を張る。そんな僕の口はちょっと尖ったかもしれない。けど、顔を上げた目力くんの口は完全にへの字。それを見ると、同い年のはずなのに、やっぱり可愛いと思ってしまう。僕の尖りかけていた口がむにゅっと笑顔の形になった。
「昼食には、まだもう少し時間があるよね。部屋の中で話をしない?」
訪ねてきてくれた人を部屋に招き入れるなんて、なんだかちょっと大人っぽい。立ち話もなんだしねって思い切って言ってみる。どうぞ、と手振りで部屋を示すとまた視線を外した旋毛くるりんは、それでもこくりと頷いた。
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