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第1話 - A part

ドロップ・アウト - Ⅵ(ミコト)

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「戦争? そんなものに興味があったとは、貴様もつくづくつまらん男だな。まあ、軍の犬にはピッタリだが」

 そのとき行動を起こしたのは、カミングスの隣にいた男だった。腰から大型の銃を取り出すと、銃口をリンゼイに向けた。

 ミコトにとっては一瞬の動作だったが、その刹那的な時間も、彼女にとっては十分すぎるぐらいだった。ミナズキと呼ばれる少女の姿が、カミングスの後ろに移動していた。斧はカミングスの後頭部を刺すように狙っている。

 カミングスが言う。

「よせ、ムケン。我々は争うために来たわけじゃない。奴さんがその気なら、話は変わってくるがな。こちらから仕掛けるのは得策じゃあない。戦争と同じさ、「正当防衛」ってのがお偉いさんの座右の銘だからな」

 その顔に浮かぶ笑みは、銃口を向けられていてもなんら変わらない。

「さて、どうするかな、この状況。あなたはどうしたいんですか、リンゼイさん? Dのオヤジだって、ここでどんぱちってのは望んじゃいないはずですが」

 リンゼイの態度もまた毅然としたままだ。葉巻を地面に放り投げ、ヒールで踏み潰すと、

「銃を下げろ、ミナズキ。帰るぞ」

 と言うと、くるりと踵を返し、裏路地を後にする。

「そこの人間は処理していかないのですか? そちらがヤらないなら、こちらが後始末しておいてもいいですが」

 男の顔に浮かぶ笑みは、まるで彼そのものを表すペルソナのよう。人間がみなそれぞれに持つ欺瞞という仮面《ペルソナ》が、すっかり顔に張り付いて離れなくなっている。

 ミコトの目は表層で見ることのできない、もっと深い部分ーー見せ掛け《ペルソナ》よりももっと深い感情をそこに見ていた。ミコトの理性を破壊した他者の真実。

 悪意で満ちたカミングスのような存在は、彼にとっての痛みでしかなかった。

 そのときミコトの心を鷲掴みにしたのは、理性ではなく狂気だった。
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