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四.寮務員は合法ロリの化け狸
第三話
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教室の前を通らないルートを使い、坂井は少女を委員会室に案内する。
少女が本当に学校関係者であるならこんな案内は必要ないだろう。無用の混乱を避けるために坂井が付き添っているだけだ。少女もそれを理解しているのか、坂井の対応に文句はないようだ。
案内したルートがよかったのだろう。道中、誰にも出会う事なく委員会室にたどり着けた。
ドアノブに手をかけ、回す。硬い手応えと中途半端な回転。鍵がかかっている。
誰も来ていないようだ。
「どうしよう。こんな事になるなら委員長に鍵の場所聞いておくんだった」
鍵の保管場所が別にあるのは坂井も知っている。だが、どこに預けているのかや、どう受け取るのかは知らない。
時計を確認する。
鴇崎が来るまであと一五分から二〇分は掛かるだろう。
それまで外で待つしかなさそうだ。
「なに、私が開けてやろう」
少女がドアノブに手をかざす。
ガチャリと鍵が外れる音がした。
「これでいいじゃろう」
少女に促されるまま、ドアノブを回す。中途半端な手応えはない。軽く押すと、ドアはいつものように軽く開いた。
「あ、ありがとうございます?」
「あやつが来るまで待ちぼうけするより、こっちの方がいいじゃろう?」
少女は軽快に笑い、颯爽と部屋の中へ入っていく。
鴇崎がやって来た時に困惑しそうだと坂井は思うが、好意で少女が鍵を開けてくれたのには違いない。
「さて、少年」
ドカリと少女は豪快にソファに腰掛けた。足をハの字に開き、その上で腕を組んでいる。
威圧感、というより背伸び感が半端ない。少しでも大きく見せようと努力しているようにしか見えない。なんというか、とても微笑ましい見た目になっている。
「おぬし、何者じゃ?」
「何者って言われても……」
坂井からしてみれば、少女こそ何者だと問いたい。
見た目は小学生、口調は時代劇の公家のようだ。学生以外の学校関係者と言うなら成人しているのだろう。少女から感じられるのはチグハグとした印象が強い。
どう受け答えしていいのか分からず、坂井は途方に暮れそうになる。
そして一つの事を思い出した。
「質問に答える前に一つだけ。申し訳ないと思うんですが、お独りにして大丈夫ですか?」
「むう。なんじゃ、おぬしも儂を子供扱いするのか?」
「そういう事じゃなくてですね。僕ね、見廻りの途中だったんですよ」
そう言って坂井は話を切り出した。
まず、今の自分が見廻りの途中である事。それを鴇崎がやってくるまでに終わらせたい事。双方の誤解を生まないためにも話をするなら鴇崎がいた方がいいと思う事。客である少女を結果として放置してしまう事。
「戻ってくるのじゃな?」
「もちろんです」
坂井は当たり前だと言わんばかりに力強く頷いた。
「鴇崎がおらなんだらここで待つつもりじゃったし、気にする事はなかろう。行ってくるといい」
少女の確認は一度だけだった。帰ってくればそれでよいと思っているのだろう。
坂井がやったのは問題を先延ばしにしただけだ。それでも、やり残している事から手をつけていくのだった。
================
坂井は正面玄関に戻り、改めて掲示板をチェックする。
見廻りが済んでいない残りの掲示板の位置を思い出しながら、確認を進めていく。
「タツ!」
残り二、三ヶ所になった頃だ。
不意に声が掛かった。坂井を「タツ」と呼ぶのはこの学校では関本ぐらいだ。おそらく。と思って声の方向に振り返ると、案の定関本がいた。
「見廻り中か?」
「あと少しだけどね」
「俺もやらないととは思うんだが、悪い」
掲示板の見廻りは掲示委員会の仕事の一つだ。関本も委員なのでこなさなくてはいけないのだが、今日は見廻っていない。
関本の性格上、上級生に対して会話が成立しづらい。そのため、一年生が委員会の仕事をしても不自然ではない後期になるまで一人での見廻りは免除。と、鴇崎が言い渡していた。
もちろん、そう言った事情もあるが、もう一つ理由がある。
それが、部活だ。
高専にだって高校総体への参加権がある。参加できるのは一年生から三年生だけだが、それでも大会に参加できる部活のモチベーションは高い。なので、練習はするし勝つための努力は怠らない。
関本は中学の頃からバレーをしていた。所属しているのはもちろんバレー部だ。
今は筋トレのためにランニングをしていたようだ。
「仕方がないんじゃない? 部活もあるしさ」
「でもな」
関本は顔をしかめる。委員長である鴇崎の裁量とは言え、何か思うところはあるらしい。
「それに、今日みたいな事があったらナン一人じゃどうにもなんないでしょ」
「何かあったのか?」
ザッとではあるが、坂井は先ほどの出来事を関本に説明する。
「そりゃ無理だ。首突っ込むのは出来ない」
「でしょ?」
遠くから関本を呼ぶ声が聞こえる。中々帰ってこない関本を注意しているようだ。
「はーい! またあとでな」
「部活頑張って」
関本はその場をあとにする。
にこやかに手を振りながら坂井は関本を見送った。
少女が本当に学校関係者であるならこんな案内は必要ないだろう。無用の混乱を避けるために坂井が付き添っているだけだ。少女もそれを理解しているのか、坂井の対応に文句はないようだ。
案内したルートがよかったのだろう。道中、誰にも出会う事なく委員会室にたどり着けた。
ドアノブに手をかけ、回す。硬い手応えと中途半端な回転。鍵がかかっている。
誰も来ていないようだ。
「どうしよう。こんな事になるなら委員長に鍵の場所聞いておくんだった」
鍵の保管場所が別にあるのは坂井も知っている。だが、どこに預けているのかや、どう受け取るのかは知らない。
時計を確認する。
鴇崎が来るまであと一五分から二〇分は掛かるだろう。
それまで外で待つしかなさそうだ。
「なに、私が開けてやろう」
少女がドアノブに手をかざす。
ガチャリと鍵が外れる音がした。
「これでいいじゃろう」
少女に促されるまま、ドアノブを回す。中途半端な手応えはない。軽く押すと、ドアはいつものように軽く開いた。
「あ、ありがとうございます?」
「あやつが来るまで待ちぼうけするより、こっちの方がいいじゃろう?」
少女は軽快に笑い、颯爽と部屋の中へ入っていく。
鴇崎がやって来た時に困惑しそうだと坂井は思うが、好意で少女が鍵を開けてくれたのには違いない。
「さて、少年」
ドカリと少女は豪快にソファに腰掛けた。足をハの字に開き、その上で腕を組んでいる。
威圧感、というより背伸び感が半端ない。少しでも大きく見せようと努力しているようにしか見えない。なんというか、とても微笑ましい見た目になっている。
「おぬし、何者じゃ?」
「何者って言われても……」
坂井からしてみれば、少女こそ何者だと問いたい。
見た目は小学生、口調は時代劇の公家のようだ。学生以外の学校関係者と言うなら成人しているのだろう。少女から感じられるのはチグハグとした印象が強い。
どう受け答えしていいのか分からず、坂井は途方に暮れそうになる。
そして一つの事を思い出した。
「質問に答える前に一つだけ。申し訳ないと思うんですが、お独りにして大丈夫ですか?」
「むう。なんじゃ、おぬしも儂を子供扱いするのか?」
「そういう事じゃなくてですね。僕ね、見廻りの途中だったんですよ」
そう言って坂井は話を切り出した。
まず、今の自分が見廻りの途中である事。それを鴇崎がやってくるまでに終わらせたい事。双方の誤解を生まないためにも話をするなら鴇崎がいた方がいいと思う事。客である少女を結果として放置してしまう事。
「戻ってくるのじゃな?」
「もちろんです」
坂井は当たり前だと言わんばかりに力強く頷いた。
「鴇崎がおらなんだらここで待つつもりじゃったし、気にする事はなかろう。行ってくるといい」
少女の確認は一度だけだった。帰ってくればそれでよいと思っているのだろう。
坂井がやったのは問題を先延ばしにしただけだ。それでも、やり残している事から手をつけていくのだった。
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坂井は正面玄関に戻り、改めて掲示板をチェックする。
見廻りが済んでいない残りの掲示板の位置を思い出しながら、確認を進めていく。
「タツ!」
残り二、三ヶ所になった頃だ。
不意に声が掛かった。坂井を「タツ」と呼ぶのはこの学校では関本ぐらいだ。おそらく。と思って声の方向に振り返ると、案の定関本がいた。
「見廻り中か?」
「あと少しだけどね」
「俺もやらないととは思うんだが、悪い」
掲示板の見廻りは掲示委員会の仕事の一つだ。関本も委員なのでこなさなくてはいけないのだが、今日は見廻っていない。
関本の性格上、上級生に対して会話が成立しづらい。そのため、一年生が委員会の仕事をしても不自然ではない後期になるまで一人での見廻りは免除。と、鴇崎が言い渡していた。
もちろん、そう言った事情もあるが、もう一つ理由がある。
それが、部活だ。
高専にだって高校総体への参加権がある。参加できるのは一年生から三年生だけだが、それでも大会に参加できる部活のモチベーションは高い。なので、練習はするし勝つための努力は怠らない。
関本は中学の頃からバレーをしていた。所属しているのはもちろんバレー部だ。
今は筋トレのためにランニングをしていたようだ。
「仕方がないんじゃない? 部活もあるしさ」
「でもな」
関本は顔をしかめる。委員長である鴇崎の裁量とは言え、何か思うところはあるらしい。
「それに、今日みたいな事があったらナン一人じゃどうにもなんないでしょ」
「何かあったのか?」
ザッとではあるが、坂井は先ほどの出来事を関本に説明する。
「そりゃ無理だ。首突っ込むのは出来ない」
「でしょ?」
遠くから関本を呼ぶ声が聞こえる。中々帰ってこない関本を注意しているようだ。
「はーい! またあとでな」
「部活頑張って」
関本はその場をあとにする。
にこやかに手を振りながら坂井は関本を見送った。
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