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参.試験終わりは新規業務の始まり

第八話

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 最初にやってきたのは三年生メインの合計一〇人の集団だ。私服の人物も二人いるので四・五年生も混ざっている。
 男ばかりのこの集団は、どうやら血の気が多いらしい。
 気の向くまま行動しようとする集団にこの場所に潜む危険を伝え、帰還をすすめる鴇崎ときさき。だが、この集団の大半は鴇崎ときさきに食ってかかろうとしていた。
 が、その内の一人が自分達を止めようとしている人物が鴇崎ときさきである事に気付いたようだ。

「姐さんじゃん」
「知ってるのか?」
「同じクラスの奴で、三年最速ですわ」
「三年最速ぅ? デブじゃないか」

 鴇崎ときさきのクラスメイトの表情が固まったのは一目瞭然だった。
 発言者は私服なので四年生か五年生。
 を当人が聞こえる所で言うデリカシーのなさに坂井も閉口する。体育会系なのだろうが、言って良い事と悪い事くらい判別はつけた方がいいだろう。

「三年の鴇崎ときさきさんっスよね。去年の対抗リレーでゴボウ抜きした」

 三年生の話で二年生の一人も目の前の人物が鴇崎ときさきである事に思い当たったようだ。果たして、あの、当人が聞いたら怒り出しそうなあだ名は思い出せなかったのか、それとも。

「去年のリレー? ……最速デブか、こいつ」

 先ほどの上級生が地雷を踏み抜いた。
 坂井から鴇崎ときさきの表情は見えないが、凄味が一段と増しているようにしか感じられない。

「伊東さん。あの人、やっちゃってもいいかな?」
「ごめん姐さん。先輩も悪気はないと思うんだ。……たぶん」

 坂井の脳内では「やる」が「殺る」にしか変換できなかった。こらしめるとか言うレベルではない。声が怒りに震えている。
 当の上級生は「何言ってるんだ、コイツ」と言わんばかりの、何も考えてなさそうな表情を浮かべている。
 一触即発。
 あまりこの場に居たくない雰囲気が漂い始めていた。

 ゴツン。

 と、いい音が鳴り響く。

「いってぇ! 何しやがん……ですか、久保サン」

 上級生の頭にもう一人いた私服の拳骨が落ちていた。
 咄嗟に上級生が敬語を使った事を考えると相手は最上級生、五年生だろう。そうなると、鴇崎ときさきの怒りを買ったのは四年生だと考えられる。
 久保と呼ばれた五年生は四年生の頭を掴み、そのまま頭の位置を固定させていた。四年生は突然の事で抵抗しようとしたが、久保の目を見たのだろう。すぐに抵抗を止めた。

「目の前にいる人間が怒ってるのに気付け。そんなんだからただの脳筋だって馬鹿にされるんだ」
「いや、でもですね……」
「でももへったくれもねぇ。伊東の方がよっぽど気配りできてるじゃねぇか」

 ギロリと四年生を睨みつける久保の目付きはまるでその筋の人間であるかのような印象を受けた。
 坂井は端で見ているだけだが、その威圧と恐ろしさは十二分に感じられる。
 正直、怖い。
 体育会系、怖い。

「これは私が手を出すより効果があるな」

 鴇崎ときさきからすっかりと凄味というか怒気が消え失せている。
 殺る気を削がれたといったところだろうか。

「すまんな、掲示委員会の」
「ん? ああ、体育委員会の補佐さんか」

 どうやら鴇崎ときさきと久保は顔見知りのようだ。
 久保が体育委員会の補佐という事はこの集団は体育委員会有志一同なのだろう。

「お、そうだ。二・三年、良く憶えておけ。この人が学生会の次に敵に回しちゃいかん委員会、掲示委員会の委員長だ」
「敵に回したらどうなりますか?」
「委員会の掲示物が全滅するから覚悟しておけ」

 四年生は顔面蒼白。
 鴇崎ときさきとそのクラスメイトの伊東は「姐さんって偉かったの?」「偉かったの」といったやりとりをしている。
 残りは衝撃を受けているようだ。中には何がマズいのかよく分からず、周りに説明を求める者もいる。理解できた瞬間、やはり衝撃を受けていた。

「そっちも肝試しかい?」
「いえ。ウチは仕事です」

 思いがけなかったのだろうか、久保がキョトンとしている。先ほどまで凄味を効かせていたとは思えない変わりっぷりだ。

「先ほども説明しましたが、ここは異世界で化け物が出る危険な場所です。上の学年の方なら探検していただいてもおそらく問題ないと思います。ですが、化け物以外にもいくつか問題があるので、自分達が案内してさっさと送り返しているといったところでしょうか」
「……自主的に?」
「驚くかもしれませんが、掲示委員会の業務の一環です」

 鴇崎ときさきはいたって真面目に答えているのだが、久保には冗談に聞こえたようだ。「本当に?」と聞き返している。
 冗談に聞こえても仕方がないように思う。
 坂井だって助けられて委員会に足を突っ込んでなければ信じられない。

「詳しい話は道中この二人に聞いてくれると助かります」

 どこか他人事のように話を聞いていたが、突然関本と一緒に突き出されてしまった。

「体育委員会は六号館だ。ゲートの場所はたぶん一階。場所はちゃんと確認するように」

 小声ではあるが、指示を受け取る。
 鴇崎ときさきが動かないのは四年生の事もあるだろうが、二人に経験を積ませるためでもある。

「出口に案内しますのでよろしくお願いします」

 不安はあるが、関本もいる。
 なんとかなるはずだ。と、坂井は鴇崎ときさきからバトンを受け取るのだった。
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