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壱.道案内は業務の一つ
第六話
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坂井がゲートを通り抜けると途端に視線が刺さってきた。
その数、十四本。七人分の視線だ。
背中にツーっと汗が流れるのを坂井は感じた。嫌な予感しかしない。
そして、その予感は的中する。
案の定、質問責めにあってしまう。
現実世界に戻ってきているため、狭間における記憶の処理がどこまで適応されるのかよく分からない。そのため、迂闊に説明できない。
だから言葉を濁すしかないのだが、それで納得してくれるほど七人は甘くない。
話を逸らしたいのは山々なのだ。逸らせる話題がないのである。
いよいよ切羽詰まった坂井はある事を思いついた。
「とりあえず、片付けてからにしない? あのままにしておくのあまり良くないんだよ」
坂井が指さした先には狭間とつながるゲートが開いたままになっていた。
「僕は向こうの片付けしてくるからこっちの片付け頼んだよ」
それだけ言って坂井はゲートに飛び込んだ。
背後からは罵声のようなものが聞こえなくもないが、声はスロー再生をかけたように間延びしていき、すぐに聞こえなくなった。
ゲートを抜けた先は校門。ではなく、何もない部屋の中。
先ほどまでいた調理室の中だった。
「ちゃんとここに戻ってこれるんだな」
坂井がゲートの往復を実践するのは初めて。鴇崎に話だけは聞いていた。
曰く、現実世界と狭間の同じ位置にゲートがあれば往復が可能。まったく同じ位置にある必要はないのだが、それなりに近しい位置になければならない。
同じ位置にゲートがなければどうなるか。
現実世界から狭間に向かうなら校門前に跳ばされる。狭間から現実世界は分からないそうだ。絶対に試すなと先代から口酸っぱく言われているようだ。
何が起こるか分からないらしく、鴇崎も危険を冒すつもりはないとの事だった。
坂井が狭間に戻ってきたのは質問責めから逃れるためだけではない。本当に片付けをするためでもある。
する事は単純で、ゲートを開くのに使用した鏡を元の位置に戻すだけ。つまり、現実世界へのゲートを壊す事だ。
「よっと」
「ああ、今壊すところか?」
鏡の縁に手をかけた時、不意に声をかけられた。
ここは狭間であり、こんな所で声をかけてくるのは坂井の知る限り一人しかいない。
「早いですね、委員長」
「坂井もあれくらいはやってもらうからな」
「僕にあれは無理ですって」
入り口に鴇崎がいた。
派手に幻獣の相手をしていたが、傷一つないようだ。
坂井が初めて出会った幻獣よりも弱い区分けのモノだったようだが、一人で相手をしろと坂井が言われたなら丁重にお断りする相手だ。
そのうち相手にしなければならないかも知れないが、今はどう考えても無理だ。自身の実力の過小評価。ではなく、純粋に経験値が足りないためである。
将来的には出来るようになるのかも知れないが、現状では想像できなかった。
調理室にガラスが割れるような音が響く。
鏡を動かしたことでゲートが壊れた音だ。
「で、そちらはどちらさん?」
「はい?」
何を言われたのか分からず、鴇崎が指さす方に視線を向ける。
何が起こっていたのか、一瞬分からなかった。
同時に冷や汗なのかなんなのかよく分からない汗が全身から吹き出るのを感じる。
「なんで?!」
あまりの事に目が白黒しているように思えた。
言いたい事はたくさんある。言わなければならない事もある。だが、言葉にならず口をパクパクさせる。
軽く混乱しているのが自覚できた。
「なんでって、手伝いに」
大きな図体に小首をかしげる何ともいえない仕草。
関本阿男がそこに立っていた。
鴇崎の持つ小さな水晶玉を坂井はのぞき込んでいる。
水晶玉は苦い表情をしている坂井を映し出しているだけで何の反応もない。
「これは確定だな」
「やっぱり。寮って仕込みはないんですよね」
「ウチのとこだけかな。あれは仕込みじゃなくて本式か」
「何の事だ?」
頭を抱える坂井と何の事なのかよく分かっていない関本。そして、どう説明しようかと思案している鴇崎。三者三様である。
坂井には分かっていた。関本が善意でこちらに来たであろう事を。
関本を一言であらわすなら「お節介の大男」だろう。
小さい頃から関本と付き合ってきた坂井は身に染みて分かっているはずだった。今回もこうなりそうな事に。
釘を刺し損ねた坂井のミスとも言えなくはない。
「あー、坂井? 気にするなよ。これはミスでもなんでもないだろう。こんな事で叱りはしないよ」
「委員長」
よほどな表情を坂井はしていたのだろう。慰めるような口調で鴇崎は声をかけた。
「委員長?」
怪訝そうな顔で関本は鴇崎を見ていた。
坂井が説明しようとしたが、鴇崎が制する。
「三年の鴇崎だ。掲示委員会の委員長を務めている」
「なるほど」
一応合点がいったらしい関本は何度か頷いていた。
「移動しよう。無駄に時間が過ぎてしまうからな」
鴇崎の提案を拒否する理由は何もなかった。
その数、十四本。七人分の視線だ。
背中にツーっと汗が流れるのを坂井は感じた。嫌な予感しかしない。
そして、その予感は的中する。
案の定、質問責めにあってしまう。
現実世界に戻ってきているため、狭間における記憶の処理がどこまで適応されるのかよく分からない。そのため、迂闊に説明できない。
だから言葉を濁すしかないのだが、それで納得してくれるほど七人は甘くない。
話を逸らしたいのは山々なのだ。逸らせる話題がないのである。
いよいよ切羽詰まった坂井はある事を思いついた。
「とりあえず、片付けてからにしない? あのままにしておくのあまり良くないんだよ」
坂井が指さした先には狭間とつながるゲートが開いたままになっていた。
「僕は向こうの片付けしてくるからこっちの片付け頼んだよ」
それだけ言って坂井はゲートに飛び込んだ。
背後からは罵声のようなものが聞こえなくもないが、声はスロー再生をかけたように間延びしていき、すぐに聞こえなくなった。
ゲートを抜けた先は校門。ではなく、何もない部屋の中。
先ほどまでいた調理室の中だった。
「ちゃんとここに戻ってこれるんだな」
坂井がゲートの往復を実践するのは初めて。鴇崎に話だけは聞いていた。
曰く、現実世界と狭間の同じ位置にゲートがあれば往復が可能。まったく同じ位置にある必要はないのだが、それなりに近しい位置になければならない。
同じ位置にゲートがなければどうなるか。
現実世界から狭間に向かうなら校門前に跳ばされる。狭間から現実世界は分からないそうだ。絶対に試すなと先代から口酸っぱく言われているようだ。
何が起こるか分からないらしく、鴇崎も危険を冒すつもりはないとの事だった。
坂井が狭間に戻ってきたのは質問責めから逃れるためだけではない。本当に片付けをするためでもある。
する事は単純で、ゲートを開くのに使用した鏡を元の位置に戻すだけ。つまり、現実世界へのゲートを壊す事だ。
「よっと」
「ああ、今壊すところか?」
鏡の縁に手をかけた時、不意に声をかけられた。
ここは狭間であり、こんな所で声をかけてくるのは坂井の知る限り一人しかいない。
「早いですね、委員長」
「坂井もあれくらいはやってもらうからな」
「僕にあれは無理ですって」
入り口に鴇崎がいた。
派手に幻獣の相手をしていたが、傷一つないようだ。
坂井が初めて出会った幻獣よりも弱い区分けのモノだったようだが、一人で相手をしろと坂井が言われたなら丁重にお断りする相手だ。
そのうち相手にしなければならないかも知れないが、今はどう考えても無理だ。自身の実力の過小評価。ではなく、純粋に経験値が足りないためである。
将来的には出来るようになるのかも知れないが、現状では想像できなかった。
調理室にガラスが割れるような音が響く。
鏡を動かしたことでゲートが壊れた音だ。
「で、そちらはどちらさん?」
「はい?」
何を言われたのか分からず、鴇崎が指さす方に視線を向ける。
何が起こっていたのか、一瞬分からなかった。
同時に冷や汗なのかなんなのかよく分からない汗が全身から吹き出るのを感じる。
「なんで?!」
あまりの事に目が白黒しているように思えた。
言いたい事はたくさんある。言わなければならない事もある。だが、言葉にならず口をパクパクさせる。
軽く混乱しているのが自覚できた。
「なんでって、手伝いに」
大きな図体に小首をかしげる何ともいえない仕草。
関本阿男がそこに立っていた。
鴇崎の持つ小さな水晶玉を坂井はのぞき込んでいる。
水晶玉は苦い表情をしている坂井を映し出しているだけで何の反応もない。
「これは確定だな」
「やっぱり。寮って仕込みはないんですよね」
「ウチのとこだけかな。あれは仕込みじゃなくて本式か」
「何の事だ?」
頭を抱える坂井と何の事なのかよく分かっていない関本。そして、どう説明しようかと思案している鴇崎。三者三様である。
坂井には分かっていた。関本が善意でこちらに来たであろう事を。
関本を一言であらわすなら「お節介の大男」だろう。
小さい頃から関本と付き合ってきた坂井は身に染みて分かっているはずだった。今回もこうなりそうな事に。
釘を刺し損ねた坂井のミスとも言えなくはない。
「あー、坂井? 気にするなよ。これはミスでもなんでもないだろう。こんな事で叱りはしないよ」
「委員長」
よほどな表情を坂井はしていたのだろう。慰めるような口調で鴇崎は声をかけた。
「委員長?」
怪訝そうな顔で関本は鴇崎を見ていた。
坂井が説明しようとしたが、鴇崎が制する。
「三年の鴇崎だ。掲示委員会の委員長を務めている」
「なるほど」
一応合点がいったらしい関本は何度か頷いていた。
「移動しよう。無駄に時間が過ぎてしまうからな」
鴇崎の提案を拒否する理由は何もなかった。
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