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不吉な出来事
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「大きくなったらぼくと結婚しようね」
「うん、約束!」
こんなことあったな…。これは夢?というか私の過去。この頃はまだ明とよく遊んでいた。
そういえば私どうしたんだっけ。倒れたんだっけか…。
でも、戻らなきゃ。向こうに。
私は光の方に手を伸ばした。
目を開けるとそこには白い無機質な天井。規則正しい機械音
「…こよみ?あなた大丈夫なの?!」
お母さん…。そう言おうと思って口を動かすがどうも喋りにくい。その時私は初めて自分に酸素マスクと点滴がついていることを知った。
ナースコールを押すと看護師さんと医師がやってきて私の診察をした。
「それではまた、後からお話がありますのでしばらくお待ち下さい」
なんだろう、嫌な予感がしてならない。でも、まさかその予感が当たるなんてね。
「どうぞお掛け下さい。検査の結果…脳に悪性の腫瘍が見つかりました」
「どういうことですか」
お母さんがそう言うと医師は
「こよみさんの命はあとわずかです」
そう言った。
「家族とよく話し合ってください」
お母さんはショックを受けたように呆然としているのに対して私は何故か、それほど動じていなかった。
帰りの車の中は無言で、二人とも一言も話さなかった。
家に着くと男物の革靴。
「お父さん…?」
私の父、坂倉浩輔はほとんど家、というか日本にいない。
「私が電話したの」
私は着替えてからリビングに向かった。
「こよみ、お前はどうしたい」
どうしたい、か。ずっと考えてはいた。どちみち私は死ぬことになる。それなら、病院で一人でいるより、みんなといたい。
「延命治療は受けない。薬でなんとか残りを楽しむわ」
これが、私の運命なら、受け入れよう。どうあがいても、もう遅いのだから。
「私はこよみに生きて欲しいけど…こよみの意思を尊重します」
「それがこよみの思いなら反対はしないさ」
「二人ともありがとうございます」
私は二人に向かって深々と頭を下げた。二人だって、辛いに違いないのに、悲しそうな顔を見せることもなく私に接してくれている。だから、私が弱いことを言っていられない。
残りの人生、どう過ごす?限りがあると知る前はたくさんやりたいことはやった。でも、いざ限りが見えてしまうと、知る前にやりたいと思っていたことは、そこまで大事ではなかった気がする。
そうなると…恋、とか。恋は私の知らないものだし、してみたいとも思う。でも、たとえ私が誰かと恋愛しても私は長くない。絶対に相手を傷つけて悲しませるだけになってしまう。そんなのは嫌だ。
菜緒や明たちになんと伝えようか。菜緒はきっと泣くだろうか…。一緒にいられなくなるんだ。
「寂しいなぁ…」
そんな小さな呟きは一粒の涙とともにこぼれ落ちた。
「うん、約束!」
こんなことあったな…。これは夢?というか私の過去。この頃はまだ明とよく遊んでいた。
そういえば私どうしたんだっけ。倒れたんだっけか…。
でも、戻らなきゃ。向こうに。
私は光の方に手を伸ばした。
目を開けるとそこには白い無機質な天井。規則正しい機械音
「…こよみ?あなた大丈夫なの?!」
お母さん…。そう言おうと思って口を動かすがどうも喋りにくい。その時私は初めて自分に酸素マスクと点滴がついていることを知った。
ナースコールを押すと看護師さんと医師がやってきて私の診察をした。
「それではまた、後からお話がありますのでしばらくお待ち下さい」
なんだろう、嫌な予感がしてならない。でも、まさかその予感が当たるなんてね。
「どうぞお掛け下さい。検査の結果…脳に悪性の腫瘍が見つかりました」
「どういうことですか」
お母さんがそう言うと医師は
「こよみさんの命はあとわずかです」
そう言った。
「家族とよく話し合ってください」
お母さんはショックを受けたように呆然としているのに対して私は何故か、それほど動じていなかった。
帰りの車の中は無言で、二人とも一言も話さなかった。
家に着くと男物の革靴。
「お父さん…?」
私の父、坂倉浩輔はほとんど家、というか日本にいない。
「私が電話したの」
私は着替えてからリビングに向かった。
「こよみ、お前はどうしたい」
どうしたい、か。ずっと考えてはいた。どちみち私は死ぬことになる。それなら、病院で一人でいるより、みんなといたい。
「延命治療は受けない。薬でなんとか残りを楽しむわ」
これが、私の運命なら、受け入れよう。どうあがいても、もう遅いのだから。
「私はこよみに生きて欲しいけど…こよみの意思を尊重します」
「それがこよみの思いなら反対はしないさ」
「二人ともありがとうございます」
私は二人に向かって深々と頭を下げた。二人だって、辛いに違いないのに、悲しそうな顔を見せることもなく私に接してくれている。だから、私が弱いことを言っていられない。
残りの人生、どう過ごす?限りがあると知る前はたくさんやりたいことはやった。でも、いざ限りが見えてしまうと、知る前にやりたいと思っていたことは、そこまで大事ではなかった気がする。
そうなると…恋、とか。恋は私の知らないものだし、してみたいとも思う。でも、たとえ私が誰かと恋愛しても私は長くない。絶対に相手を傷つけて悲しませるだけになってしまう。そんなのは嫌だ。
菜緒や明たちになんと伝えようか。菜緒はきっと泣くだろうか…。一緒にいられなくなるんだ。
「寂しいなぁ…」
そんな小さな呟きは一粒の涙とともにこぼれ落ちた。
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