１分で読めるストーリー集

鬼の花

　男はどうしようもない悪党だった。

　自分の欲望の為なら躊躇なく窃盗も暴行も、行くは殺生もした。

　ある日、神は男に説いた。

「人には心がある。傷付けられた者の気持ちを考えよ」

　男に神の声は届かない。自らの為だけの人生。他人の事など考えない。

　神も匙を投げる悪党は、一人の娘を愛した。村一番の優しい娘は、男を抱きしめ包み込んでくれた。

　男は初めて自分以外の誰かの為に窃盗をした。愛する娘の喜ぶ顔を見たい一心で、窃盗を繰り返す。

　娘は全てを知った時、嘆き悲しんだ。泣き続け、涙と共に姿を消した。

　失う悲しみを知った男に残されたのは娘の、年老いた両親だった。娘を失い悲しみに暮れる両親の為に男は働いた。

　初めて人の為に真っ当な事をした男の前に、神は花の種を落とした。

「お前の善行に一つ、花の種をやろう。その種で畑をいっぱいにしてみせよ。畑が花でいっぱいになった時、娘を返してやろう」

　善行とは何か。

　男は優しく生きる事を始めた。