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「……く……っ……」
一瞬顔をしかめた星児が、自分の上に跨いだ状態で座り、しがみつく麗子の耳元に囁く。
「麗子、欲求不満だったか?」
色気を含む甘い声に、麗子の躰がフルッと震えた。しがみついていた腕を少し緩め、星児の顔を覗き込む。
「……やだ……っ……そういう言い方……しないで……」
星児は麗子の髪を優しく梳きながらキスをした。星児の首に絡めていた腕に再び力を込めて、麗子はしがみつく。
「星児、今夜は、満月なの。綺麗」
「ああ……」
麗子は星児の肩越しに大きな窓から見える月を見ていた。少し汗ばむ肩に顔を埋める。
スリムに見えるのに、実際に触れると胸板は厚く、腕は筋肉が隆起する。右上腕にはぐるりと紋様が施された腕輪のようなタトゥー。
麗子はたくましい躯に身を預け目を閉じた。
昔からケンカが強く、ヤンチャな少年だった星児。けれど、ていつも筋は通っていた。
十九歳の時に暴行傷害事件を起こしているが、それは麗子の為だった。
東の空が明るくなる頃まで肌を重ね、最後に麗子の胸に顔を埋めた星児が肩で息をしていた。
麗子は星児の髪の毛をそっと撫でる。覆い被さるような星児の躯の重みが心地良い。
顔を上げた彼と指を絡めて、もう一度キスをした。
†
「麗子……」
シャワーを浴びる為に起き上がった星児が麗子を見る。
「なぁに?」
「ちょっと頼みがある」
「頼み?」
麗子が星児の方を向く為に寝返り、豊かな胸が大きく波打った。
「みちるに〝踊り〟を教えてやってくれ」
麗子は星児の顔を見た。表情を探る為だ。
静かに口を開く。
「〝踊り〟言っても、私が教えているのは、特殊なものよ?」
牽制するかのような麗子の問いかけに、星児がフッと笑う。
「麗子なら、言わなくたって分かるだろ? みちる、バレエをやってたらしい。身体付きと動きを見ればだいたい分かる。恐らく筋はいい」
麗子は目を閉じた。
「保が黙ってないと思うけど?」
「いよいよまでは話さねーよ。まだ十六だ。どんなカラダに成長するかわかんねーしな」
「みちるちゃんの躰は私が保証する。それよりも、この先の、保のみちるちゃんに対する〝情〟を心配した方がいいと思うわよ」
星児、貴方も。
この一言は呑み込んだ。
麗子の胸に、不穏な雲がかかり始めている。
杞憂でありますように。
麗子は縮まるような刺すような痛みに耐える胸を隠すように手を添えた。
「保には、釘刺しておく」
言いながら、星児は立ち上がった。
均整の取れた美しい躯が朝日に映える。見上げる麗子は眩しそうに目を細めた。
「いつまでも俺達がこの状況でみちるを養えるワケじゃねぇ。この先、何があるかわからねんだ。アイツには一人でも生きていく力を身につけさせなきゃいけねーんだからよ」
「何があるか?」
星児の言葉に、ふと不安になった麗子が怪訝そうに問いかけた。
「あの男が、郡司武が、見つかった」
麗子の顔が強張った。
郡司、武ーー!
私達の大事な家族を、愛しい故郷を、あんな残忍な形で奪ったあの男!
「どんな形でアイツを潰すかは、これからゆっくり練り上げる」
それだけ言うと、星児は部屋から出ていった。
一人部屋に残された麗子は、ベッドの上で膝を抱えそこに頬をのせた。
また危ない橋を渡ろうとしてるのかもしれない。そして、みちるをどうするつもりなのか。
麗子は目を閉じた。
案ずる事が多過ぎる。
自分達は何処へ向かって行くのだろう? 行く手に幸せはあるのだろうか。
それぞれの想い、思惑が複雑に絡み合い、月日は流れる。静かな時は、嵐の前の静けさとなる。
一瞬顔をしかめた星児が、自分の上に跨いだ状態で座り、しがみつく麗子の耳元に囁く。
「麗子、欲求不満だったか?」
色気を含む甘い声に、麗子の躰がフルッと震えた。しがみついていた腕を少し緩め、星児の顔を覗き込む。
「……やだ……っ……そういう言い方……しないで……」
星児は麗子の髪を優しく梳きながらキスをした。星児の首に絡めていた腕に再び力を込めて、麗子はしがみつく。
「星児、今夜は、満月なの。綺麗」
「ああ……」
麗子は星児の肩越しに大きな窓から見える月を見ていた。少し汗ばむ肩に顔を埋める。
スリムに見えるのに、実際に触れると胸板は厚く、腕は筋肉が隆起する。右上腕にはぐるりと紋様が施された腕輪のようなタトゥー。
麗子はたくましい躯に身を預け目を閉じた。
昔からケンカが強く、ヤンチャな少年だった星児。けれど、ていつも筋は通っていた。
十九歳の時に暴行傷害事件を起こしているが、それは麗子の為だった。
東の空が明るくなる頃まで肌を重ね、最後に麗子の胸に顔を埋めた星児が肩で息をしていた。
麗子は星児の髪の毛をそっと撫でる。覆い被さるような星児の躯の重みが心地良い。
顔を上げた彼と指を絡めて、もう一度キスをした。
†
「麗子……」
シャワーを浴びる為に起き上がった星児が麗子を見る。
「なぁに?」
「ちょっと頼みがある」
「頼み?」
麗子が星児の方を向く為に寝返り、豊かな胸が大きく波打った。
「みちるに〝踊り〟を教えてやってくれ」
麗子は星児の顔を見た。表情を探る為だ。
静かに口を開く。
「〝踊り〟言っても、私が教えているのは、特殊なものよ?」
牽制するかのような麗子の問いかけに、星児がフッと笑う。
「麗子なら、言わなくたって分かるだろ? みちる、バレエをやってたらしい。身体付きと動きを見ればだいたい分かる。恐らく筋はいい」
麗子は目を閉じた。
「保が黙ってないと思うけど?」
「いよいよまでは話さねーよ。まだ十六だ。どんなカラダに成長するかわかんねーしな」
「みちるちゃんの躰は私が保証する。それよりも、この先の、保のみちるちゃんに対する〝情〟を心配した方がいいと思うわよ」
星児、貴方も。
この一言は呑み込んだ。
麗子の胸に、不穏な雲がかかり始めている。
杞憂でありますように。
麗子は縮まるような刺すような痛みに耐える胸を隠すように手を添えた。
「保には、釘刺しておく」
言いながら、星児は立ち上がった。
均整の取れた美しい躯が朝日に映える。見上げる麗子は眩しそうに目を細めた。
「いつまでも俺達がこの状況でみちるを養えるワケじゃねぇ。この先、何があるかわからねんだ。アイツには一人でも生きていく力を身につけさせなきゃいけねーんだからよ」
「何があるか?」
星児の言葉に、ふと不安になった麗子が怪訝そうに問いかけた。
「あの男が、郡司武が、見つかった」
麗子の顔が強張った。
郡司、武ーー!
私達の大事な家族を、愛しい故郷を、あんな残忍な形で奪ったあの男!
「どんな形でアイツを潰すかは、これからゆっくり練り上げる」
それだけ言うと、星児は部屋から出ていった。
一人部屋に残された麗子は、ベッドの上で膝を抱えそこに頬をのせた。
また危ない橋を渡ろうとしてるのかもしれない。そして、みちるをどうするつもりなのか。
麗子は目を閉じた。
案ずる事が多過ぎる。
自分達は何処へ向かって行くのだろう? 行く手に幸せはあるのだろうか。
それぞれの想い、思惑が複雑に絡み合い、月日は流れる。静かな時は、嵐の前の静けさとなる。
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