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スキンシップの意味
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「きゃぁっ」
寝室にキャハハッ! 笑うとみちるの声が響いていた。広いベッドの上で3人がじゃれ合う。
「逃げるなって」
「やだっ、くすぐったいっ」
脇を締め身体を捩るみちるの腕を掴む星児が彼女の腰に手をやる。保は優しくみちるの首をくすぐった。
「ひゃあぁっ」
やだぁっ、と首を竦めるみちるを星児はフワリと抱き締めた。
保のスキンシップは、みちるを自然に笑わせる為の純粋なものに対し、星児は、みちるの躰を知る為に、触れていた。
みちるの将来的な商品価値を測る為。
そう。あくまでも、測る為だ。自身に言い聞かせる指針としていった。
決してブレないように。揺れないように。
結局、夜は1人で寝られないみちるの為に彼女用のベッドを購入する事を諦めた2人は、クイーンサイズのベッドを星児の部屋に入れていた。
「なんで俺の部屋?」と剥れた星児に保は「東向で寝室にはピッタリの部屋だからに決まってんじゃん」と取り合わなかった、という経緯もあった。
どんなに仕事が遅くても、どんなに生活のリズムがずれてはいても、必ず三人で並んで寝るのが習慣になっていった。
「眠っちゃったな」
二人の手を握ったままうつ伏せになったみちるが静かに寝息を立てていた。
「ああ」
優しく微笑みながら保は彼女の柔らかな頬を人差し指でそっと突いた。
星児は空いた方の手を伸ばしサイドテーブルからタバコとライターを掴むと、片手で器用に1本取り出しくわえ、火を点ける。
「保」
天井を見つめ煙を吐き出す。
「必要以上の〝情〟は禁物だぞ」
痛いトコロを突かれたような感覚に、保はムッと顔を上げた。
「分かってるさ、そんな事」
「そんならいいけどよ」
星児はそう言いながらタバコをくわえた。鼻筋の通った彼の横顔を保は見る。
〝血の通わぬ男〟
そう言われ恐れられている星児だが、みちるの手を握るその手に彼の深層が表れていることを保は知っている。
姉の麗子に対しても。
星児を見つめ、保は想う。
自分は、本当の星児を知る数少ない者として、幼い頃から傍にいるのだ。これまでも。この先も、ずっと。
ほんのりと紅を挿したように紅潮していたみちるの肌が、白さを取り戻していた。
露になっている彼女の肩が少しだけ冷たくなっている事に気付いた二人はブランケットをそっと掛けた。
「どうでもいいけどさ」
保がボソリと呟く。
「なんだよ」
「姉貴のヤツ、みちるにもう少し色気ねーパジャマとか着せる気はねーのか」
ブッ! と星児がタバコの煙を吹き出した。
麗子のご指導、らしく、みちるは夜着にパジャマは着ない。
上はブラの上に、シースルーのベビードールのみ。下は短いちょうちん型のタップパンツで長く細い足を惜し気もなく披露していたが、上同様シースルーの為にショーツが透ける。
「早く大人になるの」と麗子がみちるに言っていた。〝大人〟意味が分からない、と保は思う。
「別に気にする事じゃねーだろ。お前が〝その気〟にならなけりゃいいだけの話だ」
「〝ソノキ〟ってどんな〝キ〟だよ」
灯りを消した時、おもむろに星児が切り出した。
「今日源さんにみちるの事聞いてきた」
「源さんに」
いよいよ、か。
本当は目をつぶり、このままで、と垣間考えてしまっていた。保は首を振る。
〝情〟を消し去る。
「それで何が分かったんだよ」
焦りか。不安か。どちらともつかぬモヤモヤとする想いをひた隠しにし、保は聞く。
戸惑いなど暗闇に紛れ、星児に気付かれない事を祈りながら。
「源さんがみちるに履歴書っぽいモンを書かせてた。ソイツを貰ってきた」
⁑
都内某所。多くの人が行き交う近代的な街中で時を止めたように佇むレトロな喫茶店の店内は、しっとりとしたジャズが流れていた。
店の一番奥の席で保はコーヒーを飲みながらみちるが書いたという履歴書に目を通していた。
可愛らしいくせ字だ。一四、五歳の女の子というのはこんな字を書くのか。
みちるが一生懸命書いている姿をつい想像してしまい、保は苦笑いした。
バカなのは源さんじゃなく、俺か。
コーヒーを飲みながら外を見た時、カランというドアに付いた呼び鈴が鳴り「いらっしゃいませー」というウェイターの声が店内に響いた。
恰幅の良い50代後半の男が保を見つけ片手を挙げた。
寝室にキャハハッ! 笑うとみちるの声が響いていた。広いベッドの上で3人がじゃれ合う。
「逃げるなって」
「やだっ、くすぐったいっ」
脇を締め身体を捩るみちるの腕を掴む星児が彼女の腰に手をやる。保は優しくみちるの首をくすぐった。
「ひゃあぁっ」
やだぁっ、と首を竦めるみちるを星児はフワリと抱き締めた。
保のスキンシップは、みちるを自然に笑わせる為の純粋なものに対し、星児は、みちるの躰を知る為に、触れていた。
みちるの将来的な商品価値を測る為。
そう。あくまでも、測る為だ。自身に言い聞かせる指針としていった。
決してブレないように。揺れないように。
結局、夜は1人で寝られないみちるの為に彼女用のベッドを購入する事を諦めた2人は、クイーンサイズのベッドを星児の部屋に入れていた。
「なんで俺の部屋?」と剥れた星児に保は「東向で寝室にはピッタリの部屋だからに決まってんじゃん」と取り合わなかった、という経緯もあった。
どんなに仕事が遅くても、どんなに生活のリズムがずれてはいても、必ず三人で並んで寝るのが習慣になっていった。
「眠っちゃったな」
二人の手を握ったままうつ伏せになったみちるが静かに寝息を立てていた。
「ああ」
優しく微笑みながら保は彼女の柔らかな頬を人差し指でそっと突いた。
星児は空いた方の手を伸ばしサイドテーブルからタバコとライターを掴むと、片手で器用に1本取り出しくわえ、火を点ける。
「保」
天井を見つめ煙を吐き出す。
「必要以上の〝情〟は禁物だぞ」
痛いトコロを突かれたような感覚に、保はムッと顔を上げた。
「分かってるさ、そんな事」
「そんならいいけどよ」
星児はそう言いながらタバコをくわえた。鼻筋の通った彼の横顔を保は見る。
〝血の通わぬ男〟
そう言われ恐れられている星児だが、みちるの手を握るその手に彼の深層が表れていることを保は知っている。
姉の麗子に対しても。
星児を見つめ、保は想う。
自分は、本当の星児を知る数少ない者として、幼い頃から傍にいるのだ。これまでも。この先も、ずっと。
ほんのりと紅を挿したように紅潮していたみちるの肌が、白さを取り戻していた。
露になっている彼女の肩が少しだけ冷たくなっている事に気付いた二人はブランケットをそっと掛けた。
「どうでもいいけどさ」
保がボソリと呟く。
「なんだよ」
「姉貴のヤツ、みちるにもう少し色気ねーパジャマとか着せる気はねーのか」
ブッ! と星児がタバコの煙を吹き出した。
麗子のご指導、らしく、みちるは夜着にパジャマは着ない。
上はブラの上に、シースルーのベビードールのみ。下は短いちょうちん型のタップパンツで長く細い足を惜し気もなく披露していたが、上同様シースルーの為にショーツが透ける。
「早く大人になるの」と麗子がみちるに言っていた。〝大人〟意味が分からない、と保は思う。
「別に気にする事じゃねーだろ。お前が〝その気〟にならなけりゃいいだけの話だ」
「〝ソノキ〟ってどんな〝キ〟だよ」
灯りを消した時、おもむろに星児が切り出した。
「今日源さんにみちるの事聞いてきた」
「源さんに」
いよいよ、か。
本当は目をつぶり、このままで、と垣間考えてしまっていた。保は首を振る。
〝情〟を消し去る。
「それで何が分かったんだよ」
焦りか。不安か。どちらともつかぬモヤモヤとする想いをひた隠しにし、保は聞く。
戸惑いなど暗闇に紛れ、星児に気付かれない事を祈りながら。
「源さんがみちるに履歴書っぽいモンを書かせてた。ソイツを貰ってきた」
⁑
都内某所。多くの人が行き交う近代的な街中で時を止めたように佇むレトロな喫茶店の店内は、しっとりとしたジャズが流れていた。
店の一番奥の席で保はコーヒーを飲みながらみちるが書いたという履歴書に目を通していた。
可愛らしいくせ字だ。一四、五歳の女の子というのはこんな字を書くのか。
みちるが一生懸命書いている姿をつい想像してしまい、保は苦笑いした。
バカなのは源さんじゃなく、俺か。
コーヒーを飲みながら外を見た時、カランというドアに付いた呼び鈴が鳴り「いらっしゃいませー」というウェイターの声が店内に響いた。
恰幅の良い50代後半の男が保を見つけ片手を挙げた。
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