27 / 27
eternity~永遠に
しおりを挟む
花から花へと飛び移る事しか出来なかった蝶は、たった1つの花に恋をする。
その花は傷ついた蝶に、優しく語り掛けた。
『君はずっとここに、僕の中にいていいんだよ』
*
『龍吾。凛花はお前の子供を産み、必死に1人で育てている。
この事実を知った上で、自分の生きるべき道を考えて決断しろ』
兵藤からの手紙に書かれていた最後の言葉は、龍吾に決意させる。
凛花を、迎えに行く!
*
無我夢中で海に飛び込み助けた子供はむせて咳き込みながら龍吾の腕の中で泣いていた。
良かった、助かったな。
ずぶ濡れの龍吾は安堵した。
「スゲーな兄ちゃん!」
「とりあえずは良かったなぁ!」
子供を抱く龍吾を海から引き上たガタイの良い男達が感心したように笑っていた。
ありがとうございます、と頭を下げた龍吾は彼らを見回し思う。
漁師だ。
中の1人が子供を覗き込み声を上げた。
「ああ、こりゃ凛子ちゃんのチビじゃねーか!」
凛子? 凛花だ!
龍吾は、むせていたた咳が落ち着き、今度は「ママー!ママー!」と泣き出した子供の顔を改めて見た。
この子が!
「けんご――!」
龍吾は顔を上げた。
「凛子ちゃん、だぁめだぁ。目ぇ離したらー」
その場にいた年配の漁師が声を上げた。
凛花。
龍吾が、腕に抱いた子供の背中を撫でながら立ち上がる。取り囲む漁師達の先に、見えた。
立ち尽くす凛花が。
「ママ――――!」
龍吾に抱かれる子供が母親である凛花に気付き声を上げ、腕の中で手を伸ばし身を乗り出した。
「兄ちゃん、あん人がこの子ん母親ね」
「良かったなあ、憲吾」
「もう落ちんなぁ」
安堵の空気に包まれる漁師達が口々に声を掛け、片付けやそれぞれの仕事に戻る達に散らばり始めた。
龍吾は彼等に頭を下げながら、ゆっくりと凛花に歩み寄り、前に立った。
「ママ!」
子供は凛花に抱き移る。凛花はその子供を「憲吾!」と強く抱き締めた。
憲吾を抱き締める凛花がゆっくりと顔を上げた。
本当に感極まった時、人は言葉など出て来ない。
込み上げる想いに、凛花の胸が熱くなる。
夢……?
瞬きも忘れ、胸に抱く泣きじゃくる憲吾の背中を優しく撫でるが、地は足に着いていないようだった。
今、私の目の前にいるのは。
ああ、あの日と同じ。
もう会えないかもしれない、そう覚悟して別れ、会えたあの日の感情が、蘇ってくる。
龍吾が優しく微笑んだ。
「けんごって名前、つけたんだな」
ああ、やっぱり龍吾だ!
優しく甘い声に、凛花の涙が堰を切ったように溢れ出した。
「ええ、ええ、そうなの、そうなの……」
止まらない涙を、片手で憲吾を抱きながら必死に拭う。
顔が見たいのに、涙で見えない。
ずっと、ずっと会いたかった。
会いたかったのよ、龍吾!
ただならぬ母の様子に、泣いていた筈の憲吾が目を見開き見上げる。
「ママは、泣き虫?」
憲吾の顔を見ながら龍吾が優しく尋ねた。
「ちがうもん、ママ、ないたことなんてないもん!」
お前が泣かせた、と言わんばかりの勢いで憲吾は龍吾を睨む。少し前まで泣いていたのに、まるで凛花を守るかのようにしがみついた。
「憲吾、違うの、違うのよ」
涙を拭う凛花が言う。龍吾が大きな手で憲吾の頭を撫でた。
「ママ、守っていてくれたんだな」
優しく語り掛ける龍吾を、憲吾は真っ直ぐな瞳でじっと見詰めた。
目が自分に似てる、と龍吾の胸に温かいものが拡がる。
「私……」
凛花が掠れる声を出した。
「私、頑張って、龍吾との約束守ってきたのよ」
龍吾の言葉が蘇る。
『なにがなんでも生き抜くんだ!』
いつか会えると信じていたから。
「ああ、よく頑張ったな」
龍吾の優しい手がゆっくりと凛花の頬に添えられた。
「ごめんな、待たせて。それから、ありがとう」
凛花は目を閉じた。
ありがとう。
何に対してかなど、聞かなかった。
きっと言葉に出来ない沢山の事に対する〝ありがとう〟だから。
ゆっくりと唇を重ねる二人を、憲吾はキョトンとしたまま見詰める。
もう離れない。
『いつかこの束の間が、永遠になる日が来るから』
あの日の言葉は、真になったのね、龍吾。
†
「電話の彼は、凛子ちゃんと会えたかのぅ」
宿屋の女将が呟いた。
手に持つお茶の湯呑み茶碗から立ち上る湯気の向こうに海が見える。
「会えただろ。信じて待ち続ける者を神さまは裏切らんだろ」
縁側で女将と並んでお茶をすする主人は呟いた。
抜けるような青空に、ゆっくりと流れる雲。その下を、小さな白波を立てる群青色の静かな海が何処までも続いている。
昨日までの台風で荒れた空と海が嘘のように。
「どんなに荒れた海でも、それをじっと乗り切ればちゃんと穏やかな海に戻ってくるだよ」
†††
美しい蝶は、舞い降りた愛しいその人の中で、ゆっくりとその羽根を閉じる。
~Fin.~
その花は傷ついた蝶に、優しく語り掛けた。
『君はずっとここに、僕の中にいていいんだよ』
*
『龍吾。凛花はお前の子供を産み、必死に1人で育てている。
この事実を知った上で、自分の生きるべき道を考えて決断しろ』
兵藤からの手紙に書かれていた最後の言葉は、龍吾に決意させる。
凛花を、迎えに行く!
*
無我夢中で海に飛び込み助けた子供はむせて咳き込みながら龍吾の腕の中で泣いていた。
良かった、助かったな。
ずぶ濡れの龍吾は安堵した。
「スゲーな兄ちゃん!」
「とりあえずは良かったなぁ!」
子供を抱く龍吾を海から引き上たガタイの良い男達が感心したように笑っていた。
ありがとうございます、と頭を下げた龍吾は彼らを見回し思う。
漁師だ。
中の1人が子供を覗き込み声を上げた。
「ああ、こりゃ凛子ちゃんのチビじゃねーか!」
凛子? 凛花だ!
龍吾は、むせていたた咳が落ち着き、今度は「ママー!ママー!」と泣き出した子供の顔を改めて見た。
この子が!
「けんご――!」
龍吾は顔を上げた。
「凛子ちゃん、だぁめだぁ。目ぇ離したらー」
その場にいた年配の漁師が声を上げた。
凛花。
龍吾が、腕に抱いた子供の背中を撫でながら立ち上がる。取り囲む漁師達の先に、見えた。
立ち尽くす凛花が。
「ママ――――!」
龍吾に抱かれる子供が母親である凛花に気付き声を上げ、腕の中で手を伸ばし身を乗り出した。
「兄ちゃん、あん人がこの子ん母親ね」
「良かったなあ、憲吾」
「もう落ちんなぁ」
安堵の空気に包まれる漁師達が口々に声を掛け、片付けやそれぞれの仕事に戻る達に散らばり始めた。
龍吾は彼等に頭を下げながら、ゆっくりと凛花に歩み寄り、前に立った。
「ママ!」
子供は凛花に抱き移る。凛花はその子供を「憲吾!」と強く抱き締めた。
憲吾を抱き締める凛花がゆっくりと顔を上げた。
本当に感極まった時、人は言葉など出て来ない。
込み上げる想いに、凛花の胸が熱くなる。
夢……?
瞬きも忘れ、胸に抱く泣きじゃくる憲吾の背中を優しく撫でるが、地は足に着いていないようだった。
今、私の目の前にいるのは。
ああ、あの日と同じ。
もう会えないかもしれない、そう覚悟して別れ、会えたあの日の感情が、蘇ってくる。
龍吾が優しく微笑んだ。
「けんごって名前、つけたんだな」
ああ、やっぱり龍吾だ!
優しく甘い声に、凛花の涙が堰を切ったように溢れ出した。
「ええ、ええ、そうなの、そうなの……」
止まらない涙を、片手で憲吾を抱きながら必死に拭う。
顔が見たいのに、涙で見えない。
ずっと、ずっと会いたかった。
会いたかったのよ、龍吾!
ただならぬ母の様子に、泣いていた筈の憲吾が目を見開き見上げる。
「ママは、泣き虫?」
憲吾の顔を見ながら龍吾が優しく尋ねた。
「ちがうもん、ママ、ないたことなんてないもん!」
お前が泣かせた、と言わんばかりの勢いで憲吾は龍吾を睨む。少し前まで泣いていたのに、まるで凛花を守るかのようにしがみついた。
「憲吾、違うの、違うのよ」
涙を拭う凛花が言う。龍吾が大きな手で憲吾の頭を撫でた。
「ママ、守っていてくれたんだな」
優しく語り掛ける龍吾を、憲吾は真っ直ぐな瞳でじっと見詰めた。
目が自分に似てる、と龍吾の胸に温かいものが拡がる。
「私……」
凛花が掠れる声を出した。
「私、頑張って、龍吾との約束守ってきたのよ」
龍吾の言葉が蘇る。
『なにがなんでも生き抜くんだ!』
いつか会えると信じていたから。
「ああ、よく頑張ったな」
龍吾の優しい手がゆっくりと凛花の頬に添えられた。
「ごめんな、待たせて。それから、ありがとう」
凛花は目を閉じた。
ありがとう。
何に対してかなど、聞かなかった。
きっと言葉に出来ない沢山の事に対する〝ありがとう〟だから。
ゆっくりと唇を重ねる二人を、憲吾はキョトンとしたまま見詰める。
もう離れない。
『いつかこの束の間が、永遠になる日が来るから』
あの日の言葉は、真になったのね、龍吾。
†
「電話の彼は、凛子ちゃんと会えたかのぅ」
宿屋の女将が呟いた。
手に持つお茶の湯呑み茶碗から立ち上る湯気の向こうに海が見える。
「会えただろ。信じて待ち続ける者を神さまは裏切らんだろ」
縁側で女将と並んでお茶をすする主人は呟いた。
抜けるような青空に、ゆっくりと流れる雲。その下を、小さな白波を立てる群青色の静かな海が何処までも続いている。
昨日までの台風で荒れた空と海が嘘のように。
「どんなに荒れた海でも、それをじっと乗り切ればちゃんと穏やかな海に戻ってくるだよ」
†††
美しい蝶は、舞い降りた愛しいその人の中で、ゆっくりとその羽根を閉じる。
~Fin.~
0
お気に入りに追加
20
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです
星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。
2024年4月21日 公開
2024年4月21日 完結
☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
女嫌いな伯爵令息と下着屋の甘やかな初恋
春浦ディスコ
恋愛
オートクチュールの女性下着専門店で働くサラ・ベルクナーは、日々仕事に精を出していた。
ある日、お得意先のサントロ伯爵家のご令嬢に下着を届けると、弟であるフィリップ・サントロに出会う。聞いていた通りの金髪碧眼の麗しい容姿。女嫌いという話通りに、そっけない態度を取られるが……。
最低な出会いから必死に挽回しようとするフィリップと若い時から働き詰めのサラが少しずつ距離を縮める純愛物語。
フィリップに誘われて、庶民のサラは上流階級の世界に足を踏み入れるーーーー。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
そうなんですか❗️
短編長編関係なく、ともあきさんの作品が大好きですが、長く楽しめるんですね~🎵
嬉しいです😆
色々慌ただしい毎日ですが、ますます更新を楽しみに頑張りますよ〰️❗️
o(^o^)o
『舞姫』は感想を受け付けてないようですが、どうしてもウズウズしたら、どこかに書かせて頂くかもで~す😁
よろしくお願いします🙋
ありがとうございます❗️
うさぎさんのおかげで書き続けてこられてると言っても過言ではありません(T ^ T)
暑い季節が来ますが、お身体ご自愛くださいませ😌
舞姫、知らずに感想受け付けない設定にしてました💦
教えてくださってありがとうございます!
一気に読んでしまいましたよ〰️😆
ラストがとってもドラマチックですね❤️
良かったです~😍
『舞姫』のせいじ&保の初期のエピソード的な感じなのかな。『舞姫』も楽しみに読ませて頂いてます🎵夜の世界とか、あちら側のことは全然知らないので、ドキドキです〰️😵
何作か並行になってますが、どれも楽しく読ませて頂いてますので、お身体に気をつけて頑張って下さい☺️
いつも応援してます🙋
うさぎさん、ありがとうございます❣️
読んでいただけて、すごく嬉しいです😊
実は、こちらも舞姫も、昔書いた拙い作品なんです。
少しでも読みやすい状態にしてこちらで保存したいと思い、ちまちまと直しながら移し作業を続けてます。
とても長い作品なのですが、コンスタントに更新していきます。
楽しんでいただけたら嬉しいです😊
うさぎです!
実はまだ読んでないんですけど、『内容』を読んだだけで、ドキドキしちゃいました💦💦
裏社会とか、全くもって無縁なので😅
楽しみに読ませていただきますね〰️😆
うさぎさん、ありがとうございます😊
実は、書き始めたばかりの頃の、多分2作目くらいの作品を全く手直しせずに公開したので読みにくいかもしれません…
すみません(>_<)💦