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ナツノキセキ
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十月になり、気づけば季節は秋を迎えていた。秋季大会が始まった為、運動部が試合に出かけ、グラウンドが静かになる日があった。
誰もいない野球部のグラウンドに、三年の元レギュラー五人組が集まっていた。
「あの~、俺たち受験生なんスけど~」
「グローブ持ってグラウンド集合ってなんだよ」
「俺、これから予備校だし」
「まあまあ、何だかんだ言って、みんなちゃんとグラブ持って集まってるじゃん」
ぶーぶーと次々に文句を言う権田、倉元、室橋を貴史が笑いながらなだめた。彼らはみんな、キャプテン篤の招集礼に文句を言いつつも集まってきたのだった。全員グローブ片手にジャージ姿だ。集まる条件は、グラブ持参、だけだったはずなのだが。
何が始まるかは言われてないが、篤の考えていることは簡単に予測はついた。
四人の姿を見た篤は満足そうに言った。
「よーしっ、始めるぞ――!」
「何をだよっ!」
「ばーか、決まってんだろ! グラブ持ってサッカーするか? 野球だよ、試合だよ!」
一同、はあ!? と聞き返す。
「五人でか!?」
「じゅーぶん。俺ピッチャーなー」
さっさとマウンドに向かおうとする篤を慌てて権田が追う。
「ちょっと待てー!」
室橋がため息交じりに呟いた。
「あと二か月くらい落ち込んでてくれりゃよかった」
「なんか言ったかー?」
「なんも言ってねーよっ!」
三階の教室の窓から、野球部のグラウンドが見えた。当然、そこで繰り広げられているまるでコントのような篤たち五人の〝野球ゲーム〟が見渡せる。
「楽しそうだねー」
夏菜子と真美は窓辺で頬杖を突いてグラウウドを見つめていた。わーわー言いながらやっている彼らの楽し気な雰囲気がここまで伝わってくる。夏菜子は「うん」と笑いながら頷いた。
爽やかで心地よい秋の風が、夏菜子の髪をふわりと揺らした。今が一番いい季節だ。遠く見える連山の尾根が赤く色づくのが微かに見えていた。
「結局さー」
隣で真美がため息交じりに話し出した。
「夏菜子は、鈍感男の緒方をこうして遠くから眺めるだけで高校生活を終えるのかしら。もう受験生だし、進展は難しいのかなあ」
夏菜子は頬杖を外して顔を上げ、真美を見た。
どうしよう、話そうか。夏菜子の顔に迷いの色が差した。
「うーん、そう、だねぇ……」
妙な言葉の詰まらせ方をした夏菜子に、真美は敏感に反応した。身体を起こして夏菜子の方を向いた。
「あれ? ちょっとー、夏菜子、私に何か話してないことあるんじゃないの?」
詰め寄られ、夏菜子は困った顔をした。
「あ、あのね……」
言いかけて、夏菜子は口を噤んだ。
やっぱり、やめよう。
「なんでもない」
真美は、えー! と声を上げた。
「気になるじゃないの! もしかして、緒方と何かあった?」
ニッと笑う真美に、夏菜子の頬が真っ赤に染まった。
「あーっ! やっぱりだ! 話しなさい! この真美サマに話しなさい!」
肩を掴まれ揺すられて、夏菜子は笑った。
「ごめん、まみサマー、今度ちゃんと話すからー」
えーっ、と残念がる真美に、夏菜子は「ごめん」と顔の前で手を合わせた。
「今度、ちゃんと話してよ」
軽くむくれる真美に頷き、また二人で並んで窓からグランドを見た。
ちょうど、ピッチャーをやっていた篤が倉元にホームランを打たれていたところだった。がっくりとする篤に、仲間たちが笑っていた。夏菜子も真美と一緒に笑った。
私は、無心に白球を追う篤を好きになった。そんな篤を見ているだけでいいと思った。でも最近、ほんの少しだけ、欲張りになった。
『夏菜子、今度これ、一緒に観に行こう。受験勉強の合間でいいからさ』
数日前、夕焼け空の下ではにかみながら、グイッと差し出した映画のチケット。ハリウッドのアクションものだった。
白球と、仲間しか映っていなかったその目の端でいいから、私を映して。
夏の終わりにきっと少しだけほんの僅かに、距離が縮まったのかもしれない。夏菜子は思う。
ちょっとだけ、期待してもいい?
一緒に、大人になろうよ。
一緒に、キセキを描いていこうよ。この夏のような。
「ゆっくりで、いいんだから」
聞こえるか聞こえないかの声で呟いた夏菜子の顔を、真美は見た。そして静かに言った。
「いいんじゃない?」
グラウンドからは相変わらず陽気で元気な声が聞こえていた。
Fin.
誰もいない野球部のグラウンドに、三年の元レギュラー五人組が集まっていた。
「あの~、俺たち受験生なんスけど~」
「グローブ持ってグラウンド集合ってなんだよ」
「俺、これから予備校だし」
「まあまあ、何だかんだ言って、みんなちゃんとグラブ持って集まってるじゃん」
ぶーぶーと次々に文句を言う権田、倉元、室橋を貴史が笑いながらなだめた。彼らはみんな、キャプテン篤の招集礼に文句を言いつつも集まってきたのだった。全員グローブ片手にジャージ姿だ。集まる条件は、グラブ持参、だけだったはずなのだが。
何が始まるかは言われてないが、篤の考えていることは簡単に予測はついた。
四人の姿を見た篤は満足そうに言った。
「よーしっ、始めるぞ――!」
「何をだよっ!」
「ばーか、決まってんだろ! グラブ持ってサッカーするか? 野球だよ、試合だよ!」
一同、はあ!? と聞き返す。
「五人でか!?」
「じゅーぶん。俺ピッチャーなー」
さっさとマウンドに向かおうとする篤を慌てて権田が追う。
「ちょっと待てー!」
室橋がため息交じりに呟いた。
「あと二か月くらい落ち込んでてくれりゃよかった」
「なんか言ったかー?」
「なんも言ってねーよっ!」
三階の教室の窓から、野球部のグラウンドが見えた。当然、そこで繰り広げられているまるでコントのような篤たち五人の〝野球ゲーム〟が見渡せる。
「楽しそうだねー」
夏菜子と真美は窓辺で頬杖を突いてグラウウドを見つめていた。わーわー言いながらやっている彼らの楽し気な雰囲気がここまで伝わってくる。夏菜子は「うん」と笑いながら頷いた。
爽やかで心地よい秋の風が、夏菜子の髪をふわりと揺らした。今が一番いい季節だ。遠く見える連山の尾根が赤く色づくのが微かに見えていた。
「結局さー」
隣で真美がため息交じりに話し出した。
「夏菜子は、鈍感男の緒方をこうして遠くから眺めるだけで高校生活を終えるのかしら。もう受験生だし、進展は難しいのかなあ」
夏菜子は頬杖を外して顔を上げ、真美を見た。
どうしよう、話そうか。夏菜子の顔に迷いの色が差した。
「うーん、そう、だねぇ……」
妙な言葉の詰まらせ方をした夏菜子に、真美は敏感に反応した。身体を起こして夏菜子の方を向いた。
「あれ? ちょっとー、夏菜子、私に何か話してないことあるんじゃないの?」
詰め寄られ、夏菜子は困った顔をした。
「あ、あのね……」
言いかけて、夏菜子は口を噤んだ。
やっぱり、やめよう。
「なんでもない」
真美は、えー! と声を上げた。
「気になるじゃないの! もしかして、緒方と何かあった?」
ニッと笑う真美に、夏菜子の頬が真っ赤に染まった。
「あーっ! やっぱりだ! 話しなさい! この真美サマに話しなさい!」
肩を掴まれ揺すられて、夏菜子は笑った。
「ごめん、まみサマー、今度ちゃんと話すからー」
えーっ、と残念がる真美に、夏菜子は「ごめん」と顔の前で手を合わせた。
「今度、ちゃんと話してよ」
軽くむくれる真美に頷き、また二人で並んで窓からグランドを見た。
ちょうど、ピッチャーをやっていた篤が倉元にホームランを打たれていたところだった。がっくりとする篤に、仲間たちが笑っていた。夏菜子も真美と一緒に笑った。
私は、無心に白球を追う篤を好きになった。そんな篤を見ているだけでいいと思った。でも最近、ほんの少しだけ、欲張りになった。
『夏菜子、今度これ、一緒に観に行こう。受験勉強の合間でいいからさ』
数日前、夕焼け空の下ではにかみながら、グイッと差し出した映画のチケット。ハリウッドのアクションものだった。
白球と、仲間しか映っていなかったその目の端でいいから、私を映して。
夏の終わりにきっと少しだけほんの僅かに、距離が縮まったのかもしれない。夏菜子は思う。
ちょっとだけ、期待してもいい?
一緒に、大人になろうよ。
一緒に、キセキを描いていこうよ。この夏のような。
「ゆっくりで、いいんだから」
聞こえるか聞こえないかの声で呟いた夏菜子の顔を、真美は見た。そして静かに言った。
「いいんじゃない?」
グラウンドからは相変わらず陽気で元気な声が聞こえていた。
Fin.
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準決勝、嫌な予感はしましたけど、やっぱり負けてしまったんですね(^_^;)
でも勝つことが全てじゃないし、負けたからこそ社会人野球って選択肢が出て、進路が決まるんですもんね~。人生なんてわからないですよね(о´∀`о)
篤と夏菜子ちゃん、良かったです d(⌒ー⌒)!
読んだ後の率直な感想は
『甘酸っぱいなぁ(///ω///)♪』です。
若いっていいですね(笑)。大人になると色々考え過ぎちゃうので。
そうそう、篤のことも最後辺りには結構お気に入りになりましたよ(o^-^o)
うさぎさん、最後までありがとうございました!
初めて書いた思い入れのある作品をうさぎさんに読んでいただけて感想までいただけて、これ以上ない幸せを感じてます(*^^*)
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<(_ _*)>
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お気遣い嬉しいです。
ありがとうございます(*´∇`*)
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本当に感謝ですm(_ _)m
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ご指摘、ありがとうございますm(_ _)m
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うさぎさん、本当にありがとうございます!
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