26 / 42
父と息子
しおりを挟む
篤がリビングでグローブの手入れをしていると、玄関から美羽の賑やかな声が聞こえてきた。
「パパー、おかえりなさーい! 今日はじいじは出張だってー」
「おおー、そうかー!」
父の声が明らかに弾んでいる。
――あからさまだな、親父……。
あの一件以来、祖父大治郎と父和也は冷戦状態だった。
『親父ももう五十だ。いつまでもヘコヘコしていることないさ。放っておけ』
それは兄の忍の言葉。篤は、そうだな、と傍観を決め込んだ。
リビングに入ってきた和也は篤に気づくと、ネクタイを外しながら話しかけてきた。
「篤、少しキャッチボールしないか?」
「は!?」
唐突な申し入れに、グローブとオイルのボトルを落とした。床に落ちたそれがゴトン、と音をたてる。
「なんだよ親父、いきなり……」
篤は慌ててボトルを拾い、こぼれたオイルを拭いた。何とか事なきを得た床を見ながら胸を撫で下ろす。
「今さら親父とキャッチボール……」
「あっちゃん!」
美羽の高い声が、言い終わらないうちに遮り篤のそばに駆け寄ってきた。真剣な表情の中の瞳に真っ直ぐ見つめられ、思わず姿勢を正してしまう。
「今日はね、じいじがいないの。わかる? パパはね、ゆっくりとあっちゃんとキャッチボールがしたいの」
篤は改めて美羽を見る。彼女はニコニコと天使のような笑みを見せていた。
全然わかっていないのか、それとも、そうとうな小悪魔か……
いつまでも幼くて、何もわかっていないような美羽だが、時々周りがドキリとするような鋭い言動をすることがあった。和也が帰ってきた時の玄関で発した言葉もかなりの核心をついていた。
――うちの家族で一番侮れないのは美羽だったりしてな……
篤は肩をすくめる。
「親父、庭で待ってるよ」
振り向くことなく言うと、立ち上がった。
「パパー、おかえりなさーい! 今日はじいじは出張だってー」
「おおー、そうかー!」
父の声が明らかに弾んでいる。
――あからさまだな、親父……。
あの一件以来、祖父大治郎と父和也は冷戦状態だった。
『親父ももう五十だ。いつまでもヘコヘコしていることないさ。放っておけ』
それは兄の忍の言葉。篤は、そうだな、と傍観を決め込んだ。
リビングに入ってきた和也は篤に気づくと、ネクタイを外しながら話しかけてきた。
「篤、少しキャッチボールしないか?」
「は!?」
唐突な申し入れに、グローブとオイルのボトルを落とした。床に落ちたそれがゴトン、と音をたてる。
「なんだよ親父、いきなり……」
篤は慌ててボトルを拾い、こぼれたオイルを拭いた。何とか事なきを得た床を見ながら胸を撫で下ろす。
「今さら親父とキャッチボール……」
「あっちゃん!」
美羽の高い声が、言い終わらないうちに遮り篤のそばに駆け寄ってきた。真剣な表情の中の瞳に真っ直ぐ見つめられ、思わず姿勢を正してしまう。
「今日はね、じいじがいないの。わかる? パパはね、ゆっくりとあっちゃんとキャッチボールがしたいの」
篤は改めて美羽を見る。彼女はニコニコと天使のような笑みを見せていた。
全然わかっていないのか、それとも、そうとうな小悪魔か……
いつまでも幼くて、何もわかっていないような美羽だが、時々周りがドキリとするような鋭い言動をすることがあった。和也が帰ってきた時の玄関で発した言葉もかなりの核心をついていた。
――うちの家族で一番侮れないのは美羽だったりしてな……
篤は肩をすくめる。
「親父、庭で待ってるよ」
振り向くことなく言うと、立ち上がった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
ephemeral house -エフェメラルハウス-
れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。
あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。
あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。
次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。
人にはみんな知られたくない過去がある
それを癒してくれるのは
1番知られたくないはずの存在なのかもしれない
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
かれん
青木ぬかり
ミステリー
「これ……いったい何が目的なの?」
18歳の女の子が大学の危機に立ち向かう物語です。
※とても長いため、本編とは別に前半のあらすじ「忙しい人のためのかれん」を公開してますので、ぜひ。
Black Day Black Days
かの翔吾
ライト文芸
日々積み重ねられる日常。他の誰かから見れば何でもない日常。
何でもない日常の中にも小さな山や谷はある。
濱崎凛から始まる、何でもない一日を少しずつ切り取っただけの、六つの連作短編。
五人の高校生と一人の教師の細やかな苦悩を、青春と言う言葉だけでは片付けたくない。
ミステリー好きの作者が何気なく綴り始めたこの物語の行方は、未だ作者にも見えていません。
oldies ~僕たちの時間[とき]
菊
ライト文芸
「オマエ、すっげえつまんなそーにピアノ弾くのな」
…それをヤツに言われた時から。
僕の中で、何かが変わっていったのかもしれない――。
竹内俊彦、中学生。
“ヤツら”と出逢い、本当の“音楽”というものを知る。
[当作品は、少し懐かしい時代(1980~90年代頃?)を背景とした青春モノとなっております。現代にはそぐわない表現などもあると思われますので、苦手な方はご注意ください。]
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
僕とコウ
三原みぱぱ
ライト文芸
大学時代の友人のコウとの思い出を大学入学から卒業、それからを僕の目線で語ろうと思う。
毎日が楽しかったあの頃を振り返る。
悲しいこともあったけどすべてが輝いていたように思える。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる