この夏をキミと【完結】

友秋

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父と息子

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 篤がリビングでグローブの手入れをしていると、玄関から美羽の賑やかな声が聞こえてきた。

「パパー、おかえりなさーい! 今日はじいじは出張だってー」
「おおー、そうかー!」

 父の声が明らかに弾んでいる。

――あからさまだな、親父……。

 あの一件以来、祖父大治郎と父和也は冷戦状態だった。

『親父ももう五十だ。いつまでもヘコヘコしていることないさ。放っておけ』

 それは兄の忍の言葉。篤は、そうだな、と傍観を決め込んだ。

 リビングに入ってきた和也は篤に気づくと、ネクタイを外しながら話しかけてきた。

「篤、少しキャッチボールしないか?」
「は!?」

 唐突な申し入れに、グローブとオイルのボトルを落とした。床に落ちたそれがゴトン、と音をたてる。

「なんだよ親父、いきなり……」

 篤は慌ててボトルを拾い、こぼれたオイルを拭いた。何とか事なきを得た床を見ながら胸を撫で下ろす。

「今さら親父とキャッチボール……」
「あっちゃん!」

 美羽の高い声が、言い終わらないうちに遮り篤のそばに駆け寄ってきた。真剣な表情の中の瞳に真っ直ぐ見つめられ、思わず姿勢を正してしまう。

「今日はね、じいじがいないの。わかる? パパはね、ゆっくりとあっちゃんとキャッチボールがしたいの」

 篤は改めて美羽を見る。彼女はニコニコと天使のような笑みを見せていた。

 全然わかっていないのか、それとも、そうとうな小悪魔か……

 いつまでも幼くて、何もわかっていないような美羽だが、時々周りがドキリとするような鋭い言動をすることがあった。和也が帰ってきた時の玄関で発した言葉もかなりの核心をついていた。

――うちの家族で一番侮れないのは美羽だったりしてな……

 篤は肩をすくめる。

「親父、庭で待ってるよ」

 振り向くことなく言うと、立ち上がった。
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