23 / 42
キミの瞳に映るもの2
しおりを挟む
篤の打球がスタンドに入った瞬間、夏菜子の頭が真っ白になった。篤のホームランをみたのは中学の時以来だったから――。
ホントに打った。ホームに戻ってくるその時まで……いや、ベンチに入ってしまうその瞬間まで――夏菜子は一秒たりとも篤から視線を逸らしたくはなかった。でも……彼がホームベースを踏む頃にはもう涙で全然見えなかった――。
スタンドで応援している一年生部員達が興奮冷めやらぬ状態で盛り上がっていた。
「やっぱり緒方先輩スゲーよ!」
「あそこで打てるんだからなー」
その様子を見ていた夏菜子は満足そうに微笑んだ。
「まったく……いい加減コクってしまえばいいのに」
真美がため息交じりに呟いた。
座る場所を探そうと、スタンドのベンチ脇に続く階段を下り始めた時、一年生部員が夏菜子に気づいた。
「あ、木原さん! こんにちは!」
「こんにちは!」
「あ! オレが先に! こんにちは!」
我先に、と挨拶の大合唱が始まった。軽く騒ぎになったので頭だけ下げ、夏菜子は逃げるようにその場から退散し、少し離れた場所に落ち着いた。
不動のバッテリー篤と貴史の幼馴染ということに加え、その容姿。夏菜子は野球部員の中で有名人だった。
「夏菜子を振るバカな男はいないでしょ」
「なに言ってんのよ」
夏菜子は笑う。
「篤の視線の先にはね、白球とそれを一緒に追いかける仲間しかないの。私の入り込む隙間はどこにもないの」
負けず嫌いだった夏菜子は小学生の時、仲間だった篤と貴史に置いて行かれたくなくて三年生から野球を始めた。母の反対を押し切って、長かった髪もバッサリ切って……。
――あの頃なら篤の目に私は映っていたのかしら……。
「それでいいのぉ?」
真美も里奈も、ちょっと理解できない、と肩を竦めた。
「いいの。それが篤だもん」
「なんだかそうやって自分を納得させてるみたいね」
そうかもね――夏菜子は青い空を見上げた。
ホントに打った。ホームに戻ってくるその時まで……いや、ベンチに入ってしまうその瞬間まで――夏菜子は一秒たりとも篤から視線を逸らしたくはなかった。でも……彼がホームベースを踏む頃にはもう涙で全然見えなかった――。
スタンドで応援している一年生部員達が興奮冷めやらぬ状態で盛り上がっていた。
「やっぱり緒方先輩スゲーよ!」
「あそこで打てるんだからなー」
その様子を見ていた夏菜子は満足そうに微笑んだ。
「まったく……いい加減コクってしまえばいいのに」
真美がため息交じりに呟いた。
座る場所を探そうと、スタンドのベンチ脇に続く階段を下り始めた時、一年生部員が夏菜子に気づいた。
「あ、木原さん! こんにちは!」
「こんにちは!」
「あ! オレが先に! こんにちは!」
我先に、と挨拶の大合唱が始まった。軽く騒ぎになったので頭だけ下げ、夏菜子は逃げるようにその場から退散し、少し離れた場所に落ち着いた。
不動のバッテリー篤と貴史の幼馴染ということに加え、その容姿。夏菜子は野球部員の中で有名人だった。
「夏菜子を振るバカな男はいないでしょ」
「なに言ってんのよ」
夏菜子は笑う。
「篤の視線の先にはね、白球とそれを一緒に追いかける仲間しかないの。私の入り込む隙間はどこにもないの」
負けず嫌いだった夏菜子は小学生の時、仲間だった篤と貴史に置いて行かれたくなくて三年生から野球を始めた。母の反対を押し切って、長かった髪もバッサリ切って……。
――あの頃なら篤の目に私は映っていたのかしら……。
「それでいいのぉ?」
真美も里奈も、ちょっと理解できない、と肩を竦めた。
「いいの。それが篤だもん」
「なんだかそうやって自分を納得させてるみたいね」
そうかもね――夏菜子は青い空を見上げた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
ephemeral house -エフェメラルハウス-
れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。
あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。
あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。
次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。
人にはみんな知られたくない過去がある
それを癒してくれるのは
1番知られたくないはずの存在なのかもしれない
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ボッチによるクラスの姫討伐作戦
イカタコ
ライト文芸
本田拓人は、転校した学校へ登校した初日に謎のクラスメイト・五十鈴明日香に呼び出される。
「私がクラスの頂点に立つための協力をしてほしい」
明日香が敵視していた豊田姫乃は、クラス内カーストトップの女子で、誰も彼女に逆らうことができない状況となっていた。
転校してきたばかりの拓人にとって、そんな提案を呑めるわけもなく断ろうとするものの、明日香による主人公の知られたくない秘密を暴露すると脅され、仕方なく協力することとなる。
明日香と行動を共にすることになった拓人を見た姫乃は、自分側に取り込もうとするも拓人に断られ、敵視するようになる。
2人の間で板挟みになる拓人は、果たして平穏な学校生活を送ることができるのだろうか?
そして、明日香の目的は遂げられるのだろうか。
ボッチによるクラスの姫討伐作戦が始まる。
Black Day Black Days
かの翔吾
ライト文芸
日々積み重ねられる日常。他の誰かから見れば何でもない日常。
何でもない日常の中にも小さな山や谷はある。
濱崎凛から始まる、何でもない一日を少しずつ切り取っただけの、六つの連作短編。
五人の高校生と一人の教師の細やかな苦悩を、青春と言う言葉だけでは片付けたくない。
ミステリー好きの作者が何気なく綴り始めたこの物語の行方は、未だ作者にも見えていません。
かれん
青木ぬかり
ミステリー
「これ……いったい何が目的なの?」
18歳の女の子が大学の危機に立ち向かう物語です。
※とても長いため、本編とは別に前半のあらすじ「忙しい人のためのかれん」を公開してますので、ぜひ。
oldies ~僕たちの時間[とき]
菊
ライト文芸
「オマエ、すっげえつまんなそーにピアノ弾くのな」
…それをヤツに言われた時から。
僕の中で、何かが変わっていったのかもしれない――。
竹内俊彦、中学生。
“ヤツら”と出逢い、本当の“音楽”というものを知る。
[当作品は、少し懐かしい時代(1980~90年代頃?)を背景とした青春モノとなっております。現代にはそぐわない表現などもあると思われますので、苦手な方はご注意ください。]
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる