この夏をキミと【完結】

友秋

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戦闘開始

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「あー、一番ショート権田クン内野フラーイ」
「んなモン見りゃわかる。ヘボ実況してる暇あったら打てる球を考えろ。余裕ぶっこいてるとサクッと夏が終わるぞ」
「ヘイヘイ、キャプテン、仰せのとおり……つーか、あの手の打たせて取るタイプが一番やっかいなんだよな。力でグイグイ来てくれるヤツのほうがよっぽど料理しやすいわ」

 三番打者のライト室橋寛太はヘルメットをかぶりバットを持つと、ベンチを出て行った。

 期末試験が終わって間もなく、篤達三年生部員にとって最後の大会が幕を開けた。初戦は難なく勝ち、二回戦に入っていた。

 打席にはバントの名手として二番に入るの三年の倉元潤が立っていた。アウトは一つでランナーは無し。篤は監督のサインを見た。

 思い切り打てってか。そう思った次の瞬間、キン! と青空に爽快に響く金属バットの快音と共に打球は三遊間へ抜けて行った。打った倉元は一塁ベース上でガッツポーズをした。

「アイツ、犠打のサイン消えたら途端に張り切るよな、いつも」

 ネクストバッターサークルで立ち上がった室橋はヘルメットをグッとかぶり直し、打席に向かった。黒いヘルメットに強い夏の日差しが反射していた。

「バントがうまいから倉元二番に置いているが、本当はアイツのバッティングセンスはピカイチなんだ」

 監督の木戸がヘルメットを被りながらベンチから出た篤に言った。

「わかってましたよ。潤、必ず帰しますから」

 篤の言葉に木戸は黙って頷いた。

 自分のミスも取り返してみせる。胸の中でそう呟いた篤は、ベンチで肩からタオルを掛けて試合を見守る貴史を見た。


 貴史の相変わらずの立ち上がりで六回終わって2-0。二点のビハインドだった。こちらの打線は相手投手のノラリクラリとかわされるピッチングに簡単に調理されていた。

 それは初回。今日は球が走っている。そう判断してのサインだった。しかし――先頭バッターへの初球。完全に振り抜かれたのだ。

 しまった! と篤はマスクを外して立ち上がり、打球の行方を目で追った。右打者に思いっきり引っ張られた打球は風に乗ってグングン伸び、レフトスタンドに飛び込んだ。

 初球から、というデータにはなかった。篤はぐっと唇を噛んだが直ぐに気を取り直して主審からボールを受け取った。球を返球して貴史のフォローのサインを、とマウンドを見ると。

 やべえ、貴史が泣きそうだ。

 実際に泣きそうな顔をしているわけではないが、篤にはわかった。

「すみません、タイム」

 主審にタイムをお願いし、篤はマウンドに駆け寄った。

「悪い。今のは俺のミスだ。大丈夫だ。こんなところでお前を負け投手なんかにしねーよ」

 篤は貴史のグローブにボールを入れた。

「貴史、今日のお前はブルペンから絶好調だったよ」

 その一言で、貴史の顔がパッと明るくなった。

 その後、四球と長短打で一点は取られたが二回からはほぼ完ぺきな内容で失点は許さず、今に至っていた。

 鈍い金属音が立て続けに響く。

「寛太、粘るな……」

 ツーストライクから八球続けてファールだった。

「あの程度の技巧派ならそろそろ投げる球がなくなる頃だろ」

 木戸がほくそ笑んだ。

「室橋の倉元に対するライバル心は半端じゃないからな」

 篤は木戸を振り返った。木戸は腕組みをしたままベンチで満足気に仁王立ちしていた。

 それが狙いか。篤は肩を竦めて苦笑いした。

 キィーン!

 フィールドに響き渡った快音にベンチ内が色めき立った。全員飛び出さんばかりの勢いで立ち上がり、身を乗り出す。

 前進守備をあざ笑うかのようなライト方向へのヒットだった。足の速い倉元は三塁へ、室橋は二塁へと進塁し、ツーベースヒットにしてみせた。

 バント専門の二番打者にクリーンヒット打たれて、三番打者の自分がシングルじゃプライドガタガタってわけか。

 寛太、プライド高いからな。

 数回素振りをしてバットの重りを外した篤は二塁ベース上でどや顔にガッツポーズの室橋を見て苦笑いした。

「緒方」

 バッドを一振りして打席に向かおうとした篤を木戸が呼び止めた。

「倉元返す、って言ってたよな。有言実行、俺は好きだなぁ。センターの頭上超えるヤツ、よろしく」

 策士だよ、あんた……。篤は半ば呆れ気味の表情を浮かべて木戸を見やった。

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