この夏をキミと【完結】

友秋

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試験期間2

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 夏菜子との最初に出会ったのは小学校の入学式の翌日、登校班の集合場所だった。

 保育園上がりで野生児の如く暴れまわる素行不良児童だった篤は、大人しいお嬢様のようだった夏菜子に、挨拶代りのスカートめくりをした。

 実際には決して大人しい女の子ではなかった夏菜子も、初登校の緊張に驚きとショックが加わり、まったく反撃出来ず泣き出してしまった。当時、長兄の忍が最上級生で登校班の班長をしており、篤はその兄から視界に星がチラつく程のゲンコツをくらい、泣いた。

 半分しか埋まらない答案用紙を目の前に、篤は頬杖をついて窓の外を眺めていた。

 昨夜から降り続く雨が校庭にいくつもの水たまりをつくり、そこに厚い雲のわずかな隙間から漏れた日の光が反射してキラキラと光っていた。

 夏菜子との最悪な思い出。しかも、一番最初、出会い頭の思い出だ。何故あんな事したのか。記憶を辿っていた篤は、そうだ、と口の中で呟いた。

 確か、完全に舞い上がってしまっていたのだ。

 リボンを結んだツインテール。毛先は軽くカールしていた。黒目がちの真っ直ぐな瞳に、今は小麦色の肌もその当時は真っ白で、夏菜子は人形のようだった。

 初めて見るそんな少女に、篤はどう接したら良いのかわからなくなったのだ。その結果の暴走だった。

 夏菜子との思い出に付随するもう一つの思い出が篤の脳裏に蘇る。次の日には、正真正銘の弱虫で、本当に大人しかった貴史をいじめて泣かせ、結果、忍から飛び上がるくらいの痛烈な蹴りをくらった。

 ろくな思い出じゃない。篤は苦笑を浮かべた。

 入学してひと月も過ぎた頃から、学校に慣れてきた夏菜子が少しずつ本来の姿を現し始めた。

 兄に怒られようとも懲りずに貴史を構い、時に泣かせていた篤に夏菜子はその都度掴みかかってきた。そうなるともう、兄の知るところではない。

 兄はその場に居合わせても止めに入ることなく無視を決め込み、貴史は取っ組み合いの喧嘩を始めた篤と夏菜子に挟まれておろおろしていた。

 今にして思えば、篤は、貴史を何故か放っておけなかったのだ。なんとか友達になろうとしていたのだ。ただ、あの頃から不器用で、どうすれば貴史のテリトリーに自分を入れてもらえるのか、その方法が分からなかったのだ。

 時に強引に踏み込もうとすれば、夏菜子という門番に門前払いをくらい、――。

 あれ、俺はどうやって貴史と夏菜子と仲間になったんだっけ、と、当時の記憶をもう少し引き出そうと、頬杖を外した時、篤はふと我に返った。答案用紙を見て、ため息をついた。目の前に拡がる現実も、幼い頃の思い出同様、ろくなものじゃなかった。

「窓の外なんて眺めて余裕だねぇ、緒方君。いやー、世界史もご立派な点数で俺は感動したね。……後で職員室来いや」

 この時間の試験終了間際、試験官が耳元で囁いた。

「か、監督……」

 この時間の試験官は野球部監督の木戸だった。篤が振り向き木戸を見上げた瞬間、キーンコーンカーン……と終了を告げる鐘が校舎に響き渡った。



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