愛の言葉を添えて

友秋

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「玲君、もしかして怒ってる?」

 間接照明の優しい光の中、玲の彫り深い顔の印影がいつもより少しだけ濃い気がした。咲希にしか気付かない微細な違いだ。

 玲はクスと笑った。

 咲希の肩をそっと撫でた手が、尻まで下りる。滑らかな躰を抱き締め、肩を軽く噛んだ。

「れいくん……」

 吐息と甘噛みに震え、玲の身体を抱き締める。

「どうして怒ってると?」
「う」

 言葉に詰まる。

 どうしてかは、分からない。でも。

「玲君の全てが分かるから。握る手、絡めた指、触れ合う肌、声、表情。全部。仕草で分からなくても、こうやって密着していると、何処か一つでも変化が有れば分かる」

 なるほどね、と玲は咲希の躰にキスをし、指を這わせる。

「ん……」

 触れる場所から媚薬が浸透していく。

 意識が溺れてしまう前に。

「やっぱり、怒ってる」
「うーん、普段の僕との違いは分かっても理由まで分からないなら三十点」
「低っ」

 横になったまま咲希の腰を抱き、玲はハハハと笑い出す。咲希は玲の胸に手を突き見上げる。

「ねえ、本当に怒ってるの?」
「どうかな」

 困った。理由に皆目見当がつかない。どうして、と聞くのは野暮だ。

 懸命に思考を巡らせ、咲希は心当たりを探す。

 何に対してなのか。まさか、私? だとしたら分からないなんて益々ヤバい。

 嬉しい仕事が来た、なんて浮かれている場合じゃなかった。

 うーん、と唸り始めた咲希に玲がため息を吐いた。

「全くあなたという人は……」

 小さな呟きが聞こえた気がした。顔を上げると、いつもより少しだけ荒い口づけが待っていた。

「……ん」

 長いキスを交わして、愛撫に溺れて、自らも引き締まった玲の身体をしっかりと抱き締める。

 首筋にキスをした玲がそっと囁いた。

「僕は、咲希の〝愛〟に絶対の自信を持っているから」
「?」

 顔を覗き込むと、妖しく美麗な笑みが向けられた。

「玲くーー、あっ、ちょっと待、ああっ」

 あっという間に開かれて、熱を受け入れ、突端を見る。

 伸ばした手が握られて、指を絡めて、求める。

「玲君っ!」

 抱き寄せられてキスをする。

 あなたに伝えたい事があるから、言葉だけではないそれ以上の、想いを伝える手段を私は持っているの。だから。

「愛してる」

 咲希は肌を密着させて何度も頷く。

 言葉だけじゃない、心揺さぶるもの。玲君に贈りたいの。

〝あなたはわたしの魂。わたしの命〟。


 抱き締め合って呼吸を整える間、玲は咲希に静かに言う。

「ずっと僕の傍に」
「うん、離れない、ずっと」

 まさかこの後、自分達の間を隔てる大きな波が押し寄せるなんて、思いもしなかった。
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