3 / 12
2
しおりを挟む
小学生の時から出場していた大きなコンクールの全国大会で、毎年会う少年がいた。
レオン時任。
咲希とレオンはいつも優勝と準優勝を競い、いつしか大切なライバルとなり、毎年会うのが楽しみとなっていた。
『僕らは織姫と彦星』
中学生になった頃、笑いながら話したレオンにドキンとしたのは、今思えば初恋の始まりだったのかもしれない。
イタリア人と日本人のハーフだったから、幼い頃からドキドキさせるセリフを呼吸をするように言えたのだろう、と咲希は思い出す。
「織姫と彦星、か」
ピアノの前に座り、譜面台の楽譜を眺めてフフと笑ってしまった。
シューマン作曲。
歌曲集『ミルテの花』。
レオンの中には、陽気な情熱家イタリア人の血と、堅実控えめ、シャイな日本人の血が上手くバランスを取って流れているらしい。
高校1年生で国内最高峰の日本音楽コンクールで優勝したレオンは、その後ピアノ界から姿を消した。
再会したのは十年後。
札幌で色々あった後の失意のウィーン。
レオンはなんと、テノール歌手になっていた。
オペラ歌手だ。
どんな転身⁈
抜群のスタイルを誇る長身に、舞台映えする目鼻立ち。
立居姿だけで絵になる容姿に加えて聴衆を虜にする甘い歌声と圧倒的な歌唱力。
初めて観たウィーン歌劇場での『ラ・ボエーム』で痛いほど納得させられた。
既に、一流の売れっ子歌手として引く手数多だった。
驚く咲希にレオンは言った。
『僕の織姫。僕はいつか会えると信じて頑張ってきたよ。いつか必ず、一緒に音楽をしよう』
〝音楽〟。
私達は、音楽で繋がってきたんだ。
ひと月前に、ウィーンでのジョイントコンサートとレコーディングのオファーがレオンから直接来た。
やっと、レオンと同じ舞台に立てるところまで来たんだ、私。
一瞬の迷いも無く引き受けた咲希は、舞い上がる感情そのままに愛する夫に報告したが、反応はイマイチだった。
「なんで、玲君? もっと喜んでくれると思ったのに」
鍵盤に手を置いた時、そばに置いてあったスマートフォンが着信を知らせた。
レオン時任。
咲希とレオンはいつも優勝と準優勝を競い、いつしか大切なライバルとなり、毎年会うのが楽しみとなっていた。
『僕らは織姫と彦星』
中学生になった頃、笑いながら話したレオンにドキンとしたのは、今思えば初恋の始まりだったのかもしれない。
イタリア人と日本人のハーフだったから、幼い頃からドキドキさせるセリフを呼吸をするように言えたのだろう、と咲希は思い出す。
「織姫と彦星、か」
ピアノの前に座り、譜面台の楽譜を眺めてフフと笑ってしまった。
シューマン作曲。
歌曲集『ミルテの花』。
レオンの中には、陽気な情熱家イタリア人の血と、堅実控えめ、シャイな日本人の血が上手くバランスを取って流れているらしい。
高校1年生で国内最高峰の日本音楽コンクールで優勝したレオンは、その後ピアノ界から姿を消した。
再会したのは十年後。
札幌で色々あった後の失意のウィーン。
レオンはなんと、テノール歌手になっていた。
オペラ歌手だ。
どんな転身⁈
抜群のスタイルを誇る長身に、舞台映えする目鼻立ち。
立居姿だけで絵になる容姿に加えて聴衆を虜にする甘い歌声と圧倒的な歌唱力。
初めて観たウィーン歌劇場での『ラ・ボエーム』で痛いほど納得させられた。
既に、一流の売れっ子歌手として引く手数多だった。
驚く咲希にレオンは言った。
『僕の織姫。僕はいつか会えると信じて頑張ってきたよ。いつか必ず、一緒に音楽をしよう』
〝音楽〟。
私達は、音楽で繋がってきたんだ。
ひと月前に、ウィーンでのジョイントコンサートとレコーディングのオファーがレオンから直接来た。
やっと、レオンと同じ舞台に立てるところまで来たんだ、私。
一瞬の迷いも無く引き受けた咲希は、舞い上がる感情そのままに愛する夫に報告したが、反応はイマイチだった。
「なんで、玲君? もっと喜んでくれると思ったのに」
鍵盤に手を置いた時、そばに置いてあったスマートフォンが着信を知らせた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中

召喚先は、誰も居ない森でした
みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて──
次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず──
その先で、茉白が見たモノは──
最初はシリアス展開が続きます。
❋多視点のお話もあります
❋独自設定有り
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私の大好きな彼氏はみんなに優しい
hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。
柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。
そして…
柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

不倫した挙句に離婚、借金抱えた嬢にまでなってしまった私、だけど人生あきらめません!
越路遼介
大衆娯楽
山形県米沢市で夫と娘、家族3人で仲良く暮らしていた乾彩希29歳。しかし同窓会で初恋の男性と再会し、不倫関係となってしまう。それが露見して離婚、愛する娘とも離れ離れに。かつ多額の慰謝料を背負うことになった彩希は東京渋谷でデリヘル嬢へと。2年経ち、31歳となった彼女を週に何度も指名してくるタワマンに住む男、水原。彼との出会いが彩希の運命を好転させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる