溺れる月【完結】

友秋

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3独占欲

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 浴槽の湯が、ゆらゆらと揺れ、時折ぱちゃんと静かな音を上げていた。

 美夕は背中に、引き締まった楊の胸板を感じながら身を捩らせる。

「あ、……あっ」

 鈍く断続的に刺激する機械音が、美夕を加速度的に乱れさせていく。

「いや、だめ、やだ……あっ、あっ」

 堪らず躰を仰け反らせた美夕の顔を、振り向かせた。

 濡れた髪から落ちる水滴が頬を伝う楊の美しい顔は、妖艶に揺れる。

 時折、哀し気な影が差すその表情が、美夕の心を惑わせた。

「美夕」

 二人きりの時にだけの、優しく甘い呼びかけも、美夕の抗う力を奪い取る。

 楊の次の言葉を待とうとした時、

「っあ、ああっ」

 美夕は躰を跳ねさせた。

 膣内に埋め込まれたローターの刺激が波が押し寄せるが如く強くなった。

「あっ、やっあん、ああっ」

 美夕は涙が溢れて曇っていく目で楊を見据えて哀願した。

「お願い、これ外して……っあ、あ」

 今度の強い刺激は長い。

 悶絶する美夕を抱く楊は耳元で囁くように言った。

「駄目だよ、これは外せない」

 美夕の長い髪の毛をそっと梳いた楊は、吐息の漏れる唇を塞ぐようにキスをした。

 帰宅した貴臣の言葉ですっかり気分を害した滉は、出掛けて行った。

 今は広い浴場は美夕と楊の二人きりだった。

 行為の後、楊はいつも美夕を風呂に入れる。

 今夜もそうだった。数時間前に入っていた筈の風呂にまた、こうして入っている。

「あっ、ああっ!」

 美夕は突然襲った刺激に堪らず思い切り顔を仰け反らせた。

「いやっ、だめ、そこはやめてっ!
楊君、これ以上はもう……ああああっん!」

 美夕の捩った躰に合わせて波が起こる。

 しぶきの合間から、美夕の白い両脚が伸び上がった。

「あああ―――――っ」

 頭の中がスパークする。

 真っ白になる。

 もう、何もかもがどうでもよくなっていく。

 美夕の全身の力が抜けたところでその躰を抱き留め、楊はフワッと微笑んだ。

「美夕のイッた顔、可愛いよ」

 虚ろになった瞳を見つめ、続ける。

「その顔は、僕らにしか見せてはいけないよ。だからこれは外さない。僕らの〝印〟だからね。一度でも外せば直ぐに分かるからね」

 美夕の、苦し気な吐息が漏れる唇を楊は再び塞いだ。

 優しいキス。

 いつも美夕を困惑させる。当惑させる。

 いつも躰を蹂躙する行為の全てに優しさはないのに、このキスだけは違った。

 甘くて、今までの全てを浄化してしまうくらいに心を優しく抱いて離さない。

 どうしてこの人は、こんなキスをするの。

 美夕の頬を、涙が伝った。


 マウストゥーマウスのキスをするのは、楊だけ。

 滉は決してしない。

 あの男も――。





「なるほど、考えたな。美夕を自分達以外の誰かが抱かないように、っていう苦肉の策って訳か」

 美夕に足を開かせた貴臣は、クックと笑い出した。

「まあこれは性癖的な要因も大きいんだろうけどな」

 陰部を指でいじられ躰を震わせた美夕の両手は、頭を置く枕を握りしめていた。

 唇を噛みしめて、微かに頭を振る。

 直前まで激しく抱かれた躰は敏感になっていた。

 熱い。

 ドクンドクンと激しく打つ脈が、敏感な部分に集中するのが分かる。

 美夕はこの、目の前にいる男に気付かれないよう懸命に祈っていた。

 陰部に触れていた手が、スッと離れた。

「もし外すような事があればちゃんと分かるように入れたな。アイツら、美夕が自分達以外の誰かが抱いているって勘付いたんだろう」

 美夕は両手で顔を覆った。

「今日は取った事バレたの。だからいつにも増して激しくされた。バレるから。今度またバレたら……だから貴臣兄さん、今夜はやめて、お願い」

 くぐもる声は、口元が両手で覆われていたせいだけじゃない。

 何時間にも及んだ休みない激しい行為は、美夕の心も身体も擦り減らした。

「バレてなくともアイツらのやる事は変わらないだろ」

 冷ややかな声に美夕はビクリと身体を震わせた。

 そっと手を外すと腕を組んで思案する貴臣の姿があった。

 黙って立っていれば、それだけで絵になる男だった。

 しかし、麗しい貴公子の姿を纏ったその実は――。

「今日はカーセックスだったからな。証拠隠滅出来なかっただけだ。どのみち、」

 貴臣が、クッと笑う。

 氷のように、切れ味の鋭いナイフのように冷たく光る目を細め、貴臣は言った。

「アイツらがこの俺を出し抜ける訳がない」




 美夕の白い躰がベッドの上で激しく跳ねた。

「ああっ、いやっあ!」

 美夕を抱き上げた貴臣は、乳房を揉み、乳首を口に含んだ。

 胎内を強く突く刺激に加えて乳首を激しく吸われ、美夕は顔を仰け反らせた。

「あああっ、ん」

 両手で懸命に貴臣の身体を押すが、離れない。

 繋がったまま乳首を噛まれて美夕は悲鳴を上げた。

「ひっ、あ! いやぁっ」

 ここは、母屋とは別棟の、貴臣だけが住まう離れだった。

 どんなに声を上げても、誰にも気づかれる事はない。

 そう、あの日も、貴臣はここでこうやって美夕を抱いた。

 美夕が処女を失ったあの雨の日も。



 
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