ねぇ、大好きっていって

友秋

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思い出してしまったのは

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 遼ちゃん。遼ちゃんのモノがあたしのソコに……触れてるの。

「ぁあ……」

 包み込むように抱きすくめられて。

「ひよ」

 遼ちゃんの甘い囁き声が身体を痺れさせる。

 ソコが、遼ちゃんを求めてた――。



 チュンチュン、と窓の外から鳥のさえずりが聞こえた。

「あさ……」

 起き上がってボーッと一点を見詰める。昨日、ここでたくさんたくさん甘い言葉囁いてくれた遼ちゃん。

 あれは、夢? ……ううん、夢ではないけど、遼ちゃんをもっと感じたかったな。なんだか、抱きしめたものがフッと消えてしまったような。目を閉じると瞼の裏に遼ちゃんが。



 着替えて、キッチンに入るとママはちゃんと起きてもう朝ごはん作ってた。

「おはよ、ひよちゃん。昨夜はごめんなさいね」
「ううん」

 ママは前の日にどんなにバタバタしても、朝は何事もなかったみたいにキッチンに立ってる。

 相変わらず綺麗なの。

「遼ちゃんにはちゃんとお礼言わないとね」

……ホントだよ、ママ。

 あたしの身体の隅々まで残る遼ちゃんの感触。なんだか、消化不良です。

「ひよちゃん、食べないの?」

 ダイニングテーブルには、ママの手作りクロワッサン、バターロール、スクランブルエッグやサラダ。

「いただきます」

 座って手を合わせたあたしを見てママがニッコリ微笑んだ。




 茉奈ちゃん、最近同じクラスの若林君といい感じです。だからあたし、昼休みは1人で過ごす事が多くなっちゃった。

 ちょっとだけ買っておいた猫ちゃんのおやつを持って中庭に行く。あたしが何か持ってくる事知ってるからカワイイ猫ちゃん達が、ニーニー鳴きながら走り寄ってきた。

「待ってねー、大丈夫だよ、皆の分あるから」

 コンクリの階段に座ると足元に猫ちゃん達がたくさんスリスリ。かわいー。思わず頬が緩んじゃう。

「ひよりちゃん、昼休み最近よくここにいるよね」

 急に話しかけられて、ビックリして振り返ると。

 あ、頭、丸刈りの……。

「高橋先輩」
「猫、好きなんだ?」
「えっと、ホントは犬派なんですけど入学したての頃から見ていたら愛着湧いちゃって」

 あたし、初対面の人とお話しするの苦手だから友達なかなか出来なくて、いつもここにいたから。

 あ、茉奈ちゃんが話しかけてくれたのもここだったなぁ。

 先輩は屈んで猫ちゃんの頭を撫で撫でしながらあたしに優しく笑いかけてくれた。

「そうなんだ。俺のうちは猫飼ってる。猫ってね、こうしてあげると」

 先輩は猫ちゃんの顎の下を慣れた手つきで撫で撫で。

「ほらゴロゴロ言ってるでしょ」
「ホントだー」

 撫で撫でされた茶トラちゃんは、目細めて気持ち良さそうに先輩の手にスリスリゴロゴロ。

「やってみ」

 うん。

 あたしの足元にいた白黒牛さん柄の一番チビちゃん。そっと顎の下を撫でてみると、ニャゴニャゴニャゴ。

「わ……」

 先輩がクスクス笑う。あたし、嬉しくなって隣にいたブチ君にも。あれ?

「猫にも個人差?みたいなのがあるんだ。顎下にツボがある子ばかりじゃないみたいで」

 先輩がブチ君のお腹あたりをスリスリした。途端、ひっくり返ってゴロゴロと先輩の手に甘えだす。

「先輩、すごーい」

 先輩、照れて苦笑い。

「こんな事でひよりちゃんに誉めらると思わなかったよ」

 そこから猫ちゃんネタでお話し。丸刈りの頭と日に焼けた顔。先輩が白い歯を覗かせて明るく笑った時に、高校生の遼ちゃんがあたしの中で重なった。

 懐かしい記憶がフラッシュバックする。夕焼け空が辺りをオレンジ色に染めていたあの日――、

 おつかいの為に玄関を出たあたしは、学校から帰って来た学ラン姿の遼ちゃんにバッタリ会った。

「おぅ、ひより。出かけるのか?」
「うん。ママのおつかい」
「そっか。気を付けて行けよ」

 お家の前で遼ちゃんが頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。大きな手は、大好きで嬉しくて。でも、その隣には凄く綺麗なブレザーにネクタイの制服姿の女の人が立っていた。

「じゃあな」と言って遼ちゃんは女の人と一緒にドアの向こうに消えた時、あたしは胸が痛くなって、悲しくなって。喉の奥が締め付けられて。

 どうしてか分からないけどお家に飛び込んでママに抱きついてしばらく泣いたの。

 小学5年生だったあたしはまだわからなかったけど、今思い出してみると、あの頃からあたしはもう、遼ちゃんのことが――。

「……遼ちゃん」

 思わず声に出していた。

「え?」

 先輩が不思議そうな顔であたしを見た。

 あっ、あたしったら!

「ごめんなさいっ! 先輩のその、髪型? というか、その頭を見たら、ちょっと幼なじみのお兄ちゃんを思い出しちゃって」
「ああ、そうなんだ。その人、野球とかやってて?」
「うん、先輩と同じ高校球児で……」

 あたし、ちょっとしどろもどろになってしまう。

 うーんと、えっと。遼ちゃん、だけなら平田センセってバレない、よね?

「ふぅーん……。“りょうちゃん”、かー」

 猫ちゃんの頭を撫でながら、先輩が少し考えてる。そして、まるで閃いたみたいにあたしを見た。

「うちの監督、平田っちも“遼ちゃん”だよね、高校球児だった」

 アハハッと笑いながら言った先輩は、きっと冗談で言ったつもり、だったんだろうな。でも、あたしは――。

 ダメだった。

「あ、あ……」

 言葉が、詰まっちゃう。どうしよう、あたし、顔が火照ってる。

「ひよりちゃん、隠し事、絶対に出来ないタイプだね。やだな、冗談で言ったつもりだったのに」

 先輩が、困った顔してる。

「もしかして俺、知りたくない事、今たくさん知ってしまった?」

 ごめんなさい、先輩。

 うつむいてしまったあたしの頭を先輩は撫でる。

「ひよりちゃん、俺、この前はごめんな」

 この前――ああ、あの日の事。

 放課後の掃除の後、ごみ捨てしていたあたしを手伝ってくれた先輩。あの時、先輩の唇が微かに、触れた。

 あの時は一瞬の事だったし、何が起きたのか自分の中で整理出来なくて。

 夜、遼ちゃんに、何かされなかったか、って聞かれたけど、あたし答えられなかった。

 そうだ、あたし、あの時先輩に、キス……されたんだ。

「もう、あんな事はしないけど、俺ーー」

 優しい瞳が、あたしを見てる。

「負けないから」

 え? あたしの頭に置かれていた手が、もう一度柔らかく撫で撫で。

 先輩は立ち上がるとニコッと笑った。

「諦めないから。俺に、チャンスくれると嬉しい」

 ちゃんす?

 首を傾げたあたしに「またね」と手を振ると先輩は、予鈴のなる校舎に戻って行った。



 放課後、掃除当番で教室の中で履き掃除をするあたしを廊下の窓から茉奈ちゃんが見ていた。

「ひよりがまた1人でゴミ捨ていかされないように見張ってるの」

 茉奈ちゃんたら。

「やだー沖島さん、人聞きわるーい」
「あれー、ホントの事言っただけだよー。ひより1人にゴミ捨てとかちょっとヒドイよねー。ひより、なーんにも言わないもんねー」

 きゃぁ! 茉奈ちゃん!

 わ、わざわざ波風立てなくても! あたしは茉奈ちゃんに小声で「ダメだよ」と言いながら手を小さく横に振った。

 なんだか、バチバチと険悪な雰囲気になっちゃったけど、今日はゴミ捨ては他の子が行ってくれてなんとかお掃除無事終了。

「さ、ひより帰ろー」

 ニコニコ顔の茉奈ちゃんに、あたしは苦笑いしちゃう。その時だった。

「沖島!」

 ユニフォーム姿の若林君が息を切らせて教室に飛び込んで来た。

「どうしたの!?」
「すぐグラウンド来いよ! スゲーもんがみられるぞ!」
「すごいもの?」

 茉奈ちゃんとあたしは顔を見合わる。

 なんだろ?

「平田っち……監督が、野球部の練習グラウンドで高橋先輩と真剣勝負する!」
「え、それって?」

 茉奈ちゃんが若林君に詰め寄った。

「平田っちがバッターボックス入って高橋先輩と1打席勝負すんだよ!」

 遼ちゃん、が?




 必死に茉奈ちゃんと若林君にくっついて走ってグラウンドに出た。そこでは――。

「俺は、お前にはぜってー負けね――――っ!」

 マウンドからそう叫ぶ高橋先輩。そして、真剣な表情でバッターボックスに立ち、マウンドに立つ先輩と向き合う、遼ちゃん。

 ヘルメットを片手で押さえて手にしたバットを軽く回す仕草。

 ああ、遼ちゃんだ。

 胸がドキドキと高鳴る。あたしの中で空白になっていたあの頃の遼ちゃんに会えた、そんな錯覚。

 胸が苦しいよ、遼ちゃん。

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