ねぇ、大好きっていって

友秋

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保健室から~ちょっぴり番外、東矢編~

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 グラウンドからは体育の授業をしている教師と生徒達の声が微かに聞こえる。授業中の校舎内は――最近は授業を抜け出して暴れる生徒が減ったから――静かだ。

「ぁあ、ん……川井先生……もっと……」

 目のやりどころに困るくらいグラマラスな音楽教諭が、椅子に座る俺に股がり腰をふる。いやもう、その揺れる胸がもう。

「まりあ先生っ、僕全てを吸い取られそうです……っけどっ?」
「ァんっ!そんな事っ、レディーに言わない……で……ああ゛っ!」

 グンッと強く突き上げ、まりあ先生は大きく上半身を反らし、果てた。ぐったりと俺にもたれかかる。

「やっぱり川井先生サイコーよ。やみつき……」
「それはどうも」

 ハアハアと肩で息をしながら彼女がフフッと微笑んだ。

 やっぱ、色っぺーわ。堪らん。あ、またムクムクと……。

「……ぁ……」

 まりあ先生が敏感に反応した。まだ繋がったままだった。

 ええい、もういっちょやってしまえー!

「ああ……っん! 川井……先生……っ」



 まりあ先生がブラウスのボタンを留め、服の乱れを直しながら言った。

「川井先生、どうしてゲイなんて噂流れたのかしら? こんなに女の人が大好きなのに」

 涙ボクロがまたいい。

「敢えて僕が流したようなモンだよ。ここで授業サボってばかりの困ったクンがいたから寝込みを襲ってみたらすぐだった」
「まあ」

 桜色のそそられる唇から驚嘆の声。

「お陰様で、女のコはゲイになら女の子の気持ちも分かるかもと気兼ねなくなんでも相談するし、男どもは襲われるリスクを恐れてか保健室でサボろうなんて考えない」

 まりあ先生は驚きながら聞いていたが、フフッと笑った。

「そういえば、あんなに荒れてた校内が去年くらいからずいぶん落ち着いた気がするんだけど」

 服の乱れを直し終えると彼女はアップの長い髪を結い直す。

「ああそれは……」

 俺だけじゃないな。アイツだ。

「平田先生によるところのモンが大きいな」
「ああ、平田先生ね」

 まりあ先生は首を竦めた。

「職員室でも若い女のセンセ達の争奪戦が熾烈よ。私は脱落したタチだけど」
「へぇ!?」

 狙ってたんだ!? あからさまに驚いた俺を見てまりあ先生が笑った。

「一応、独身、現在フリーですから。獲物となりそうなモノは女豹のごとく」

 めひょー……。

 良かったな、遼太、毒牙にかかんなくて、とは言っても、まりあ先生はモテモテだ。普通は男子生徒が敬遠しがちな音楽の授業。

 うちの学校は男子生徒の音楽選択率がべらぼうに高い。

 ……奴ら恐らく授業なんて聞いてねぇな。思春期の少年達には刺激強すぎボディーだ。

「川井先生、次の時間は?」
「生徒が誰も来なければ……英語の虻川先生」
「不良先生」
「生徒に何かをするよりはいいでしょ」
「それは女のコも男のコも、ネ」

 そう言い、キャハハッと笑いながらまりあ先生は出て行った。



 保健室での情事は、昨年末くらいから。不特定多数の先生達と。

 まりあ先生が一番長い。特別な感情はないけど。ひょうんな事からちょっと関係を持ってみたのが始まりだ。

 まりあ先生、仲間のセンセ方々に教えたらしい。

『川井先生は絶倫よぉ』みたいな。

 にしても。

「男の子も女の子も、か……」

 さすがはまりあ先生、めっちゃ鋭い。そう、俺はゲイではない。バイセクシャル、に近いな。

 どっちでもいいんだ。自分を虜にしてしまう魅力があれば、それが女であろうと男であろうと。



「ぁあんっ! ……はっあ! ……川井……せんせ……もっと……もっと……もっとぉ――!」

 机に掴まる虻川先生を後ろから。ガンガン。

 虻川先生は普段は全く隙を見せない真面目なタイプ。あんま感じる顔とかイク顔とか、見られたくないようだから、バックで突きまくる事が多い。

 まぁ、胸もBカップで仰向けとか騎乗位とかよりはバックの方が揉みがいはあるかな。小さくても胸の感度は抜群だ。

「ぁああっん!」

 ちょっと先端を摘まんで転がして……だけで物凄くアソコが締まる。

「虻川先生……サイコーです……っ」
「私も……気持ち……いいっ! ……あぁっ」

 まりあ先生がボディーで悩殺して勃たせるタイプなら、虻川先生は挿れて、馴染んでからどんどん勃たせてくれるタイプ。

 俺、基本顔はあんま関係ないから。



 休み時間にちょっと職員室で用事を済ませ、保健室に戻る途中、廊下に遼太が立っていた。珍しく、立ち止まって窓から外を見ていた。

 俺に全く気付かない。何が見えるんだ? と遠巻きに伺ってみると、1年の女のコ達。

 遼太が、2年の野球部新キャプテンの高橋の狙ってる子となにがしかの関係にある、というのは天性の勘で最近分かってる。

 転んだらしく友達に助けられている子が3階の窓から見えた。あの子だったな、確か。心配そうにずっと見ている遼太に、ちょっと意地悪してやりたくなった。

 それは、ガキが好きな子をいじめる感情に似ている。

「お前がロリコンとは知らなかったな」
「年齢差的にはそのカテゴリに収めるのは微妙だな、東矢」

 振り向きもせずに切り返しやがる。こういうとこが……好きなんだ。

 でもな、遼太。俺はお前の教師としての将来性に凄く期待してるんだ。もしも、生徒と関係を持ったりでもしたら。

 お前の教師としてのこれからに傷を付けて欲しくないんだよ。俺はね、徹底的に阻止してやるつもりだよ。その子との関係。



 授業が始まる直前だった。コンコン、とノックの音がした。

「どうぞー」
「しつれいしまーす」

 そう言ってドアを開けて顔を出したのは、1年生のお元気娘、沖島茉奈……と。さっきすっ転んでいた、宮部ひよりだな。

 来る事は推察出来ていたけど、血だらけかよ。


 宮部ひよりを連れて来た沖島は「お願いしまーす」とサッサとドアの向こうに消えた。宮部はまるで捨てられた仔猫みたいに不安そうな顔をしている。

「取って食いやしないよ。それより」

 傷だらけの顔を見て笑いを堪えた。

「どういう転び方したらそんなケガができんの~?」

 泣きそうな顔を見たら、余計に言いたくなってしまった。


 白い肌。綺麗な黒髪。潤んだ黒い瞳。

 ふぅん。正直、美人ではない。

 俺は遼太の今までの彼女はだいたい知ってる。みんな美人だった。しかもアイツはバカな女が嫌いで才女ばかり。

 この子、全く正反対じゃないか? どうしてこんなガキンチョ? と思っていたが。

 おでこの消毒、少ししみるらしく彼女は目を閉じた。睫毛が長いな。色白だが、微かに紅を挿したような健康的な白い肌。首筋から下が綺麗で、思わず生唾を飲んでいた。

 不思議な子だ。優しくて邪気がない無垢な子だというのは知ってる。少々鈍くさくてたまにいじめられてるのも、知っている。遼太は守りたくなったのか。

 この子の気持ちはどうなんだ? ちょっとカマをかけてみた。

「平田センセの事が好きなんでしょ、宮部ひよりさん?」

 素直すぎだ。まるわかりだ。一瞬で頬をピンク色に染めて、瞬きを忘れた大きな黒目が俺に向けられた。これは益々、阻止しなきゃだろ。

 阻止……そうだ、これは遼太の教師としてのキャリアに傷を付けない為の。そう、遼太の為だ。

 ちょっと彼女を見ていて想像してしまう。

 遼太はもう?

 体操着の胸元の膨らみはまだ小さいけれど、艶がある小さなサクランボみたいな唇が、一瞬の表情にドキッとさせる力を持っていた。

 ちょっと興味を持ってしまいそうだった。いやいや、あり得ない。

「先生ばっか追いかけてないでさ、周りにも目を向けてみなよ」

 この子にはもっと痛烈な忠告をしてやるつもりだった。これじゃ“牽制”だ。鈍そうだから俺の意図は伝わらんな。

「あたしはそんな……」

 これ以上話したら、ちょっと変な気持ちになりそうだから、早々に授業に戻そう。

「今からならきっと遅刻扱いにはならないよ。もう転ばないようにグラウンドに行くんだよ」

 何かを言おうとした彼女の言葉に自分の言葉を被せ、ドアを開けてあげる。戸惑いながら頭を下げて、振り向きながら廊下をよたよた走り出した。

 保健室に来た生徒を見えなくなるまでお見送り、なんて俺は今までした事ない。やっぱり遼太、俺は彼女との仲は邪魔してやりたいな。

 そんな事をぼんやり考えながら、足元くじいてつんのめりそうになりながら走る彼女の後ろ姿を見ていた。









 
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