パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

72

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「納得してないんだ。まぁ、そうかもね」

巴は出来の悪い生徒を見守るようにこっちを見つめる。 だけど、そんな顔で見られたってあの二人に共通点は見出せない。

「はい、タイムアップ。きっと賢太郎には分からないだろうって思ってたし、これ以上考えても仕方ないよね」

酷い言われようだが、言い返せないのが悔しい。俺は渋々と先生に解答を促した。

「共通点は色々ある。だけど、大きいのは"他人に興味が無い"って事かな」

「興味……」

そう言われても納得は出来ない。だって巴はあんなにも人気者で友達が居て……。

それに、"興味が無い"って、俺の事もーー。

「私、一匹狼なんだ。集団に居ながら孤独になる。私は他人を信じてないから、他人の事を思いやれない。場合によっては駒としても使える。私、そんな酷い奴なんだ。……軽蔑した?」

そう語る彼女には表情が無かった。
『いつもの笑顔は作り物なんだ』
そう言われているようで胸が苦しくなる。

巴は一匹狼なんかじゃない。俺はずっと見てきたんだ、みんなに慕われて愛されて、それをきちんと受け止めるこいつを。なに馬鹿な事言ってんだよ。そんな訳無いだろう。

そう思うのに、そうしか思えないはずなのに、何故だか俺は納得してしまっていた。

苦しくても笑顔を絶やさない強い巴。
それはただ、感情を綺麗に隠せる仮面を被っていただけだった。

他者を手玉に取って、思うがままに操る巴。そんな彼女を見たのは今日が初めてだったか?
そうじゃない。俺は不穏さを感じる度に見ないふりをしていただけだ。俺が信じる巴でいて欲しかったから、気づかないふりをしていただけ。

俺の幻想が崩れていく。篠崎巴が崩れていく。

俺は彼女の正体を知ってしまった。気づいてしまった納得してしまった。もう知らなかった俺には戻れない。

「……正直、軽蔑してる」

巴の顔に影が差す。素直な言葉だった。俺は人を尊重しないこいつを認めたくない。

「でも同時に、巴の本当が見えて嬉しいとも思ってる。結局俺は、お前がどんな奴だろうと嫌いになれないと思うし、友達で居ると思う。
なんか、俺自身も何言ってるかよく分からなくなってきた。
でも要するに俺は"一匹狼"のお前を軽蔑するけど、友達はやめない。友達としてお前を一匹狼なんかじゃなくしてやる」

感情をそのまま変換した言葉は、よく分からない物になっていた。でもーー。

「そっか……ありがとう。賢太郎に嫌われるの怖かったから、ホッとした。私もね、私自身を軽蔑してるんだ。変わりたいとは思ってる。だからなんか嬉しい。ありがとね」

気持ちは伝わったんだと思う。巴の瞳が潤んで見えるのはきっとその証だ。

「おう」

それだけ言って目を逸らした。涙を湛えた巴の笑顔は、どうしようもなく可愛かった。
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