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盈月
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「じゃあ今度は私から聞きますね。瑠璃と西山さんはどうなんですか? 瑠璃の話を聞いてると仲良さそうですけど」
「仲良い……のかな? いまいちそんな感じはしないけど。会話とかも少ないし」
「そうなんですか? もっと仲良いのかと思ってました」
巴は本気で驚いたようだ。目をいつもより見開いていて、声も少し上ずっている。
「逆に瑠璃がおれのことなんて言ってるか知りたいな」
「うーん。西山さんのことを何か言っているというより、瑠璃の話に西山さん以外出てこないって感じですね」
「……なるほど。それはそれで嬉しいような悲しいような感じだね」
苦笑するように笑ってオレンジジュースを一飲みする。言葉とは裏腹にその態度は悲しそうだ。
「でも、まぁ、巴ちゃん達と会話してるってだけでも良しとするべきなのかな、うん。かなり気難しい子だけど、仲良くしてあげてね」
今度は優しく笑ってこっちを見てくる。本当に表情がころころと変わる人だ。
「はい、そのつもりです」
巴の元気な声。
「……はい」
それに続いた俺の声。誰が聞いても分かるほどに覇気は無い。俺はあいつと仲良くする権利なんて無いから。罪を償わなければ、そんなことは約束できない。
俺の様子が気になったのか、西山さんの視線を感じた。 だけど何も言ってこない。辛い沈黙が緩やかに流れていく。
聞いてくれればいいのに。
そんなことを思ってしまう。俺は本当に最低だ。
空間は静かに迫ってきた。巴の助け船も今度は出ない。俺は逃げちゃいけない。
「あの……」
ピロリロン♪
意を決すと同時に軽快な電子音が流れ始めた。
「あ、ごめん。おれの携帯だ」
我に返ったように西山さんは携帯を確かめる。
「…………」
決意は行き場を無くしてわだかまる。不完全燃焼が歯痒さを残していく。今度は、早く話して楽になりたい。でもーー。
「ただいま」
その思いは単調な声に覆い隠された。
「仲良い……のかな? いまいちそんな感じはしないけど。会話とかも少ないし」
「そうなんですか? もっと仲良いのかと思ってました」
巴は本気で驚いたようだ。目をいつもより見開いていて、声も少し上ずっている。
「逆に瑠璃がおれのことなんて言ってるか知りたいな」
「うーん。西山さんのことを何か言っているというより、瑠璃の話に西山さん以外出てこないって感じですね」
「……なるほど。それはそれで嬉しいような悲しいような感じだね」
苦笑するように笑ってオレンジジュースを一飲みする。言葉とは裏腹にその態度は悲しそうだ。
「でも、まぁ、巴ちゃん達と会話してるってだけでも良しとするべきなのかな、うん。かなり気難しい子だけど、仲良くしてあげてね」
今度は優しく笑ってこっちを見てくる。本当に表情がころころと変わる人だ。
「はい、そのつもりです」
巴の元気な声。
「……はい」
それに続いた俺の声。誰が聞いても分かるほどに覇気は無い。俺はあいつと仲良くする権利なんて無いから。罪を償わなければ、そんなことは約束できない。
俺の様子が気になったのか、西山さんの視線を感じた。 だけど何も言ってこない。辛い沈黙が緩やかに流れていく。
聞いてくれればいいのに。
そんなことを思ってしまう。俺は本当に最低だ。
空間は静かに迫ってきた。巴の助け船も今度は出ない。俺は逃げちゃいけない。
「あの……」
ピロリロン♪
意を決すと同時に軽快な電子音が流れ始めた。
「あ、ごめん。おれの携帯だ」
我に返ったように西山さんは携帯を確かめる。
「…………」
決意は行き場を無くしてわだかまる。不完全燃焼が歯痒さを残していく。今度は、早く話して楽になりたい。でもーー。
「ただいま」
その思いは単調な声に覆い隠された。
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