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盈月
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授業が終わる。結局、西山が教室に戻ってくる事は無かった。多分、混乱を恐れた学校側が家に帰したんだろうが、あの性格上教師達に嫌われている彼女が今後どうなるのか、それだけが心配だった。
「賢太郎、帰ろう」
「……あぁ」
リュックを背負い、立ち上がる。目の前を歩く少女はいつもと何も変わらない。今朝の不安も不安定も見せることなく彼女は、いつもと同じように一日を過ごしていた。
俺はそんな巴がよく分からなくなっていた。
夕焼けが朱に染める道、無言で歩く二つの影。巴は俯き加減で表情が見えない。俺はそんな彼女から少し距離を置くようにして歩いている。沈黙が一歩ごとに重さを増していくようで気分は沈む。
「賢太郎」
「えっ」
勢いよく巴を見る。表情は全く見えなかった。
「私、今日、そんなに変かな」
顔を上げた彼女は不安を噛み殺すようにして笑っていた。
「え、いや、そんな事……」
「あるでしょ? まったく、賢太郎、分かりやすいんだから」
巴は笑い、「賢太郎、このままウチ来て」と続ける。
「あぁ」
彼女は笑ってはいるが、どこか悲しそうでもある。さっきとは違った重い雰囲気。俺は一体何を言えばーーって、え?
「今、巴ん家に来いって言ったか?」
「うん、言った」
あっけらかんと頷く少女。え? え…………ぇ? 頭が素早く空回りを始めた。
巴の家なんて小学生以来行ってねぇぞ。いくら幼馴染と言っても俺と巴は男と女でそんな簡単に、しかもあそこの家、共働きだからほとんど親居ねぇじゃん!
顔が赤くなっていっているのが自分でもはっきりと分かった。そういうんじゃない、多分西山の話をするだけだ。そう分かってはいるはずなのに、何故だか鼓動は速くなるし、身体が熱くなっていく。
「賢太郎、ちょっと待ってて。着替えてくるから」
「あぁ」
頭は白い。なんかフワフワしている。よく分からないままに返事した。
ーーって、キガエテクル?
ぱんっと目の前が弾けて現実が認識され始める。
「え?」
黄色いカーテンに白とピンクの花柄のベッド、薄茶色した勉強机、その上に乗る見るからに高性能な赤と黒のメタリックなデスクトップパソコン、きちんと整理された本棚、クマのぬいぐるみ……。
ーーここ、巴の部屋だ。
記憶と異なってはいるけれども、いくつかの家具は見覚えがある。ここは間違いなく昔よく遊んだあの部屋だった。
ーーいつの間に? ってか、巴の部屋で二人きり?
あぁ、俺はもう駄目かもしれない。いい匂いのするこの部屋に、これ以上居たら壊れてしまうかもしれない。
「はい、りんごジュース」
「ありがと」
星柄のコップを受け取り、ぐびりと飲んで出されたクッキーを口に含む。味はよく分からない。
戻ってきた巴は赤を基調としたパーカーに白いシャツ、デニムというラフな格好だった。でもそれですら彼女が着る輝いている。よく似合っている。
はっきり言って可愛い。
幼馴染だ。巴が可愛い事なんて嫌という程知っている。いつも傍に居て、ドキドキしない程度には慣れたつもりでいた。なのに……こんな女の子らしい部屋でなんて反則だ。
「賢太郎、聞いてる?」
「あ……ごめん。聞いてなかった」
「はぁ、まったく」
やれやれと首を振る巴。その動作にまた一つ心臓は跳ねたが、少しの冷静さを取り戻した頭脳がそれを諌めた。
Q.
何故巴は異性が部屋で二人きりといった状況の中でこんなにも普通でいられるのか?
A.
俺に何も感じていないから。
酷い倦怠感と共にパニック状態が終わりを迎える。頭が出したその答えが真実なんだと気づいてしまったから。
「はぁ」
俺はあいつにとってただの幼馴染でしかない。
悲しい現実。泣きたくなる。
「ため息なんてついてないでシャンとして。真面目な話をしてるんだから」
そんな俺を叱るように声が響き、厳しい瞳がこっちを向いた。怒るような鋭い光はやましい思考を消し去って、脳を急速にに冷却させる。
ーーそうだ、俺らは西山の話をしに来たんだった。
さっきまでの愚かな自分が一気に恥ずかしくなる。
「ふぅ」
深呼吸を一つして彼女の瞳を真正面から見つめ返した。俺もここから真剣になる。
巴は小さく頷いて再び口を開き始めた。
「賢太郎、帰ろう」
「……あぁ」
リュックを背負い、立ち上がる。目の前を歩く少女はいつもと何も変わらない。今朝の不安も不安定も見せることなく彼女は、いつもと同じように一日を過ごしていた。
俺はそんな巴がよく分からなくなっていた。
夕焼けが朱に染める道、無言で歩く二つの影。巴は俯き加減で表情が見えない。俺はそんな彼女から少し距離を置くようにして歩いている。沈黙が一歩ごとに重さを増していくようで気分は沈む。
「賢太郎」
「えっ」
勢いよく巴を見る。表情は全く見えなかった。
「私、今日、そんなに変かな」
顔を上げた彼女は不安を噛み殺すようにして笑っていた。
「え、いや、そんな事……」
「あるでしょ? まったく、賢太郎、分かりやすいんだから」
巴は笑い、「賢太郎、このままウチ来て」と続ける。
「あぁ」
彼女は笑ってはいるが、どこか悲しそうでもある。さっきとは違った重い雰囲気。俺は一体何を言えばーーって、え?
「今、巴ん家に来いって言ったか?」
「うん、言った」
あっけらかんと頷く少女。え? え…………ぇ? 頭が素早く空回りを始めた。
巴の家なんて小学生以来行ってねぇぞ。いくら幼馴染と言っても俺と巴は男と女でそんな簡単に、しかもあそこの家、共働きだからほとんど親居ねぇじゃん!
顔が赤くなっていっているのが自分でもはっきりと分かった。そういうんじゃない、多分西山の話をするだけだ。そう分かってはいるはずなのに、何故だか鼓動は速くなるし、身体が熱くなっていく。
「賢太郎、ちょっと待ってて。着替えてくるから」
「あぁ」
頭は白い。なんかフワフワしている。よく分からないままに返事した。
ーーって、キガエテクル?
ぱんっと目の前が弾けて現実が認識され始める。
「え?」
黄色いカーテンに白とピンクの花柄のベッド、薄茶色した勉強机、その上に乗る見るからに高性能な赤と黒のメタリックなデスクトップパソコン、きちんと整理された本棚、クマのぬいぐるみ……。
ーーここ、巴の部屋だ。
記憶と異なってはいるけれども、いくつかの家具は見覚えがある。ここは間違いなく昔よく遊んだあの部屋だった。
ーーいつの間に? ってか、巴の部屋で二人きり?
あぁ、俺はもう駄目かもしれない。いい匂いのするこの部屋に、これ以上居たら壊れてしまうかもしれない。
「はい、りんごジュース」
「ありがと」
星柄のコップを受け取り、ぐびりと飲んで出されたクッキーを口に含む。味はよく分からない。
戻ってきた巴は赤を基調としたパーカーに白いシャツ、デニムというラフな格好だった。でもそれですら彼女が着る輝いている。よく似合っている。
はっきり言って可愛い。
幼馴染だ。巴が可愛い事なんて嫌という程知っている。いつも傍に居て、ドキドキしない程度には慣れたつもりでいた。なのに……こんな女の子らしい部屋でなんて反則だ。
「賢太郎、聞いてる?」
「あ……ごめん。聞いてなかった」
「はぁ、まったく」
やれやれと首を振る巴。その動作にまた一つ心臓は跳ねたが、少しの冷静さを取り戻した頭脳がそれを諌めた。
Q.
何故巴は異性が部屋で二人きりといった状況の中でこんなにも普通でいられるのか?
A.
俺に何も感じていないから。
酷い倦怠感と共にパニック状態が終わりを迎える。頭が出したその答えが真実なんだと気づいてしまったから。
「はぁ」
俺はあいつにとってただの幼馴染でしかない。
悲しい現実。泣きたくなる。
「ため息なんてついてないでシャンとして。真面目な話をしてるんだから」
そんな俺を叱るように声が響き、厳しい瞳がこっちを向いた。怒るような鋭い光はやましい思考を消し去って、脳を急速にに冷却させる。
ーーそうだ、俺らは西山の話をしに来たんだった。
さっきまでの愚かな自分が一気に恥ずかしくなる。
「ふぅ」
深呼吸を一つして彼女の瞳を真正面から見つめ返した。俺もここから真剣になる。
巴は小さく頷いて再び口を開き始めた。
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