パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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ベッドの上で跳ね起きる。うるさく鳴り響く電子音時計を見るとまだ目覚ましが鳴る時間ではない。

ーーああ、電話か。

「はい、もしもし」

寝ぼけた声で電話に出る。電話だと気づいた瞬間に出たので、相手の名前を見る余裕は無く、相手は分からない。

『賢太郎! ツイッター見て』

「ん? 巴か。そんなに慌ててどうしたんだよ」

『いいから。携帯じゃ見れないでしょ、パソコンで。ほら、早く』

珍しくその声は慌てている。無理やり荒げられて裏返っている。久しく聞いていなかったような声に触発され、俺は急いでパソコンでツイッターを開いた。

友人達のくだらないようなツイート。それが蔓延しているこのサイト上で一体何を見ろってーーーーーーーー!?

適当にスクロールしていた指が止まる。昨日の夜を境に色んな所で見知った名前が呟かれていた。

「なんだよこれ……」

〈7組の西山って奴が万引きしてたらしいよ。これ、証拠。回ってきた写真〉

〈あー、知ってる。でもそいつ生意気なんでしょ? ちょっといい気味かも〉

〈巴ちゃんにひっついてる奴だよね。へー、そんな事してたんだ〉

おおよそ西山と面識が無さそうな奴らまでこぞって彼女を貶めている。

ーーなんだよ万引きって。

あいつがそんな事するとは思えない。だけど確かに写真に写っているのは西山だ。訳分かんねぇ。

「これ一体どういう事だよ!」

『知らないよ! 私の方が聞きたいくらいだもん』

怒鳴った声はピシャリと弾き返される。

『電話かけても出ないし、万引きなんてするはず無いと思うけど、写真に写ってるのは紛れもなく瑠璃だし、全く、どうなってんのさ』

強い語調なのにどこか泣き出しそうだ。 はっとする。俺なんかより巴の方がずっとずっと心配なんだ。

「ひとまず学校行って西山に直接話し聞くぞ。それが一番手っ取り早いだろ」

『……そうだね。うん、じゃあ準備出来次第いつもの場所で』

電話を切ると、俺はパジャマを脱いで制服に着替え始めた。巴はいつもの冷静さを欠いている。だから、俺が支えなきゃいけない。

逸る鼓動に乗りながら俺は頭を回転させた。 
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