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盈月
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しかしーーーーーーー。
その幸せなシンクロは突然に終わりを告げた。
「…………」
地面に尻餅をついた教師と唾液まみれの口元を拭う生徒。西山瑠璃はキスの途中で森本を突き飛ばしたのだ。
「おまっ……こんな、だい……」
抵抗されたことへの驚きか、森本はごもごもと言葉にならない喚きを散らす。それを冷たく見下す少女は、生意気でブレない沙羅の知っている西山瑠璃だった。
「この写真、誰にもらったの?」
森本が持っていた写真を奪い、今までのことなど無かったような口調で問いかける。
「答えると思ってるのか? それに、俺に逆らってーー」
「あなたは知らないのか。なら、あっちかな」
心でも読んだように断言すると、こっちの方へと歩き出した。
「おい、西山! いいのか、この写真ばら撒いても」
後ろで騒ぐ生物教師には目もくれず、一直線に向かってくる。
「なんなの! ここにいたのバレてたってこと? なに、キモ!」
「どうする? 逃げる?」
ユウコとミカは騒いでいるけど、全然頭に入ってこない。最高の快楽の余韻とそれを止められた怒りが混ざり合い、あの子を襲うことしか考えられない。
あの快楽を直接得られる。憎きあの子をこの手で壊せる。頭の中は錯覚で得たキスの感覚。彼女を支配するあの感覚だけに蝕まれていく。
「ひっ」
ガチャガチャと鳴った扉にユウコとミカは悲鳴を上げた。だけど沙羅にとっては幸福の再来。
「え、沙羅、何するの」
「ちょっと!」
二人の制止を聞かないで生物室と準備室をつなぐ扉の鍵に手をかける。これを開ければ、憎くて憎くて愛しいあの子に会える。
悲鳴が聞きたい。泣かせたい。鳴かせたい。沙羅のこの手で悶えさせたい。イカせたい。反抗する気力も無くなるほどに犯しまくってあの子の全てを壊したい。支配したい。
横になっていた鍵を縦にする。
快感。快感。あの子を壊せば壊すほど沙羅はもっと高くへ飛んでいける。
手近にあったハサミを掴んで振り上げた。ドアの奥から出てくる黒髪。一直線に振り下ろす。
痛みに歪むはどんな顔? 赤にまみれて動けぬあの子をぶち犯してやる。考えるだけでーー。
「がっ」
突然の鈍痛。思考が一瞬飛んでいく。 次の瞬間、背中にも痛みが走った。
「「沙羅!」 」
聞き慣れた声が沙羅を呼ぶ。
ーー 一体何が……。
状況を把握する為、ゆっくりと顔を上げる。頭を動かすことだけで鈍痛が走り、身体のあちこちが悲鳴を上げた。
さっきよりも西山瑠璃が遠くに見える。ユウコやミカも……。そして沙羅は座ってる? 足を前に投げ出して、背もたれは多分、実験器具の棚。ハサミは、遠くに転がっている。そして、みぞおちの辺りから、痛みが全身に広がっていて、全く動けない。
ーー殴られたの……かな。
ここまで自己分析が出来たなら、沙羅でも状況くらい読み取れる。沙羅がハサミで刺す前に、あの子が沙羅を吹き飛ばしたんだ。
小さな身体のどこにそんな力があったのかも分からない。でも、何がどうであれ現実はこれ。あの子がその気になれば、襲われるのは沙羅の方だ。
痛みで目覚めて冷静になった頭はしなくてもいい自己分析を続けていた。
「これ、何処で手に入れたの?」
「こ……答える訳ないでしょ! バッカじゃないの」
「早くそこに土下座しなさい。そしたら、写真バラまくの待ってあげるから」
三つの声は遠くに聞こえる。
「そう、答えないんだ。でも今わたし、そんなに余裕無いんだよね」
「ひっ」
西山瑠璃の声がいつもよりも低く下がった。ミカとユウコが怯えているのが声だけでもはっきりと分かる。
原因は、吹き飛ばされたまま動かない沙羅なんだろうな。他人事のように考える。されるがままだった獲物が突然仲間を瞬殺する。怖くない訳がない。
ーー怯えるくらいなら、出処なんて話しちゃってもいいのに。
「タ……タラクサカムって奴から、沙羅の所にLINEが来たの。『西山瑠璃が憎いなら使えって』誰が撮ったとかあたし、知らないし」
心が通じたようにミカがゲロった。
「……そう」
一つの気配がこちらを向いた。沙羅、どうなるのかな。これも他人事だった。
沙羅は主格。脅した。襲わせた。刺そうとした。最後までやっていないとはいっても、あの子はあんなキモい教師に犯された。それは女として最大の苦痛。ただで済む訳ーー。
ガラリと扉が開く音がした。無理やりに頭を上げてそちらを見つめる。
廊下へ繋がるドアの所に西山瑠璃は立っている。遠くを見つめ、何かを噛み締めるようにして。
「タンポポ……か」
そして一度も沙羅を見ないまま、変な呟きだけを残して扉の向こうへ消えていった。
「「沙羅!」」
ピシャリと扉が閉まり、彼女が姿を消した途端、二つの足音が近づいてきた。
「大丈夫?」
「なんなの! あいつ」
心配するように声をかけられ、身体を二人が見てくれる。だけど、その存在は遠かった。近くに居るのに意識の中に入ってこない。沙羅の心を占めているのはーー。
"西山瑠璃"
あの憎くき少女。あんな事をしたのに、澄ました顔で去っていった。沙羅の事なんて眼中に無いように振る舞った。
許せない。
人生で感じた事の無いような怒り。今までだって壊したいほどに憎んでいたのに、それを遥かに超えた憎しみが身体の中に満ちていた。
壊すだけなんてぬるい。
社会的にも抹殺して、あの気高さも無表情も全部ぶち壊すくらいまで調教して、自尊心なんて欠片も残らないくらいまでいたぶって、奴隷としても、肉奴隷としてもこき使った後に、痛みに泣き叫ぶあの子を切り刻んで殺してやる。
またゾクゾクが帰ってきた。白んでくる頭が心地よい。狂った夢だというのは分かっている。でも、何を利用してでも叶えたかった。安河内財閥の令嬢としての力も、学校内での地位も、ユウコやミカも……。
あの子を壊せるなら、あの快感がもう一度得られるなら、もう何がどうなっても良い気がしていた。
その幸せなシンクロは突然に終わりを告げた。
「…………」
地面に尻餅をついた教師と唾液まみれの口元を拭う生徒。西山瑠璃はキスの途中で森本を突き飛ばしたのだ。
「おまっ……こんな、だい……」
抵抗されたことへの驚きか、森本はごもごもと言葉にならない喚きを散らす。それを冷たく見下す少女は、生意気でブレない沙羅の知っている西山瑠璃だった。
「この写真、誰にもらったの?」
森本が持っていた写真を奪い、今までのことなど無かったような口調で問いかける。
「答えると思ってるのか? それに、俺に逆らってーー」
「あなたは知らないのか。なら、あっちかな」
心でも読んだように断言すると、こっちの方へと歩き出した。
「おい、西山! いいのか、この写真ばら撒いても」
後ろで騒ぐ生物教師には目もくれず、一直線に向かってくる。
「なんなの! ここにいたのバレてたってこと? なに、キモ!」
「どうする? 逃げる?」
ユウコとミカは騒いでいるけど、全然頭に入ってこない。最高の快楽の余韻とそれを止められた怒りが混ざり合い、あの子を襲うことしか考えられない。
あの快楽を直接得られる。憎きあの子をこの手で壊せる。頭の中は錯覚で得たキスの感覚。彼女を支配するあの感覚だけに蝕まれていく。
「ひっ」
ガチャガチャと鳴った扉にユウコとミカは悲鳴を上げた。だけど沙羅にとっては幸福の再来。
「え、沙羅、何するの」
「ちょっと!」
二人の制止を聞かないで生物室と準備室をつなぐ扉の鍵に手をかける。これを開ければ、憎くて憎くて愛しいあの子に会える。
悲鳴が聞きたい。泣かせたい。鳴かせたい。沙羅のこの手で悶えさせたい。イカせたい。反抗する気力も無くなるほどに犯しまくってあの子の全てを壊したい。支配したい。
横になっていた鍵を縦にする。
快感。快感。あの子を壊せば壊すほど沙羅はもっと高くへ飛んでいける。
手近にあったハサミを掴んで振り上げた。ドアの奥から出てくる黒髪。一直線に振り下ろす。
痛みに歪むはどんな顔? 赤にまみれて動けぬあの子をぶち犯してやる。考えるだけでーー。
「がっ」
突然の鈍痛。思考が一瞬飛んでいく。 次の瞬間、背中にも痛みが走った。
「「沙羅!」 」
聞き慣れた声が沙羅を呼ぶ。
ーー 一体何が……。
状況を把握する為、ゆっくりと顔を上げる。頭を動かすことだけで鈍痛が走り、身体のあちこちが悲鳴を上げた。
さっきよりも西山瑠璃が遠くに見える。ユウコやミカも……。そして沙羅は座ってる? 足を前に投げ出して、背もたれは多分、実験器具の棚。ハサミは、遠くに転がっている。そして、みぞおちの辺りから、痛みが全身に広がっていて、全く動けない。
ーー殴られたの……かな。
ここまで自己分析が出来たなら、沙羅でも状況くらい読み取れる。沙羅がハサミで刺す前に、あの子が沙羅を吹き飛ばしたんだ。
小さな身体のどこにそんな力があったのかも分からない。でも、何がどうであれ現実はこれ。あの子がその気になれば、襲われるのは沙羅の方だ。
痛みで目覚めて冷静になった頭はしなくてもいい自己分析を続けていた。
「これ、何処で手に入れたの?」
「こ……答える訳ないでしょ! バッカじゃないの」
「早くそこに土下座しなさい。そしたら、写真バラまくの待ってあげるから」
三つの声は遠くに聞こえる。
「そう、答えないんだ。でも今わたし、そんなに余裕無いんだよね」
「ひっ」
西山瑠璃の声がいつもよりも低く下がった。ミカとユウコが怯えているのが声だけでもはっきりと分かる。
原因は、吹き飛ばされたまま動かない沙羅なんだろうな。他人事のように考える。されるがままだった獲物が突然仲間を瞬殺する。怖くない訳がない。
ーー怯えるくらいなら、出処なんて話しちゃってもいいのに。
「タ……タラクサカムって奴から、沙羅の所にLINEが来たの。『西山瑠璃が憎いなら使えって』誰が撮ったとかあたし、知らないし」
心が通じたようにミカがゲロった。
「……そう」
一つの気配がこちらを向いた。沙羅、どうなるのかな。これも他人事だった。
沙羅は主格。脅した。襲わせた。刺そうとした。最後までやっていないとはいっても、あの子はあんなキモい教師に犯された。それは女として最大の苦痛。ただで済む訳ーー。
ガラリと扉が開く音がした。無理やりに頭を上げてそちらを見つめる。
廊下へ繋がるドアの所に西山瑠璃は立っている。遠くを見つめ、何かを噛み締めるようにして。
「タンポポ……か」
そして一度も沙羅を見ないまま、変な呟きだけを残して扉の向こうへ消えていった。
「「沙羅!」」
ピシャリと扉が閉まり、彼女が姿を消した途端、二つの足音が近づいてきた。
「大丈夫?」
「なんなの! あいつ」
心配するように声をかけられ、身体を二人が見てくれる。だけど、その存在は遠かった。近くに居るのに意識の中に入ってこない。沙羅の心を占めているのはーー。
"西山瑠璃"
あの憎くき少女。あんな事をしたのに、澄ました顔で去っていった。沙羅の事なんて眼中に無いように振る舞った。
許せない。
人生で感じた事の無いような怒り。今までだって壊したいほどに憎んでいたのに、それを遥かに超えた憎しみが身体の中に満ちていた。
壊すだけなんてぬるい。
社会的にも抹殺して、あの気高さも無表情も全部ぶち壊すくらいまで調教して、自尊心なんて欠片も残らないくらいまでいたぶって、奴隷としても、肉奴隷としてもこき使った後に、痛みに泣き叫ぶあの子を切り刻んで殺してやる。
またゾクゾクが帰ってきた。白んでくる頭が心地よい。狂った夢だというのは分かっている。でも、何を利用してでも叶えたかった。安河内財閥の令嬢としての力も、学校内での地位も、ユウコやミカも……。
あの子を壊せるなら、あの快感がもう一度得られるなら、もう何がどうなっても良い気がしていた。
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