パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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「森本せんせー」

いかにもご立腹といった様子で教室を出る森本を追いかけた。

「なんだ」

「あのー、質問があるんですけど」

沙羅を認めると、三角に怒っていた目は和らいで男のそれに変化する。

「分かった。生物室に来い」

威厳を誇示するように大股で歩き出した生物教師。

ーーチョロい。

笑いが込み上げてくる。あまりに滑稽すぎた。



「で、どこが分からないんだ?」

生物室に入るなり問うてきた。教科書を開き、向かい合わせに座る。はたから見たらちゃんと教師と生徒に見えるのだろう。だけど、チラチラと胸元に当たる視線が彼の本心だった。教師のモラルも何も無い。こいつに教わる事など何も無い。

ーーキモすぎる。早く終わらせちゃお。

「沙羅のこと、襲うんですか?」

「は? 何を言って……」

唐突に切り出した。森本の顔は一気に蒼白になり、目は泳ぎはじめる。とぼける事も無駄なくらい動揺している。

「沙羅が知らないとでも思ってたの? 馬鹿じゃない? あんたが女子生徒脅してヤッてるのなんて全部知ってるし、証拠もあるよ」

もう猫かぶるのはやめた。こんな奴に可愛さをあげるくらいならドブに捨てた方がマシだ。

「……俺を脅す気か?」

全然保ててない平静を繕って聞いてくる教師。やっぱ、小心者なんだ、こいつ。だっさ。

「そんなことしても沙羅に得無いじゃん。そんなことじゃなくて、あんたにとーっても素敵なプレゼントがあるの」

「プレゼント?」

訝しげな彼の前に封筒を出す。森本は中身を確かめ、こっちを見てくる。沙羅の言いたいことを理解したみたいだった。

「沙羅ね、西山瑠璃だーいっきらいなの。もう殺したいくらい。でもね、自分でやると沙羅、巴ちゃんに嫌われちゃうからできないの。だからね、いい話でしょ? まぁ、あんたに拒否権なんて無いんだけどね」

笑いかける。

「分かった。悪い話じゃないしな。その代わり、証拠とやらも渡してもらうぞ」

「あの子を泣かせることに成功したらね」

こんなに使える物、渡すつもりなんて無いけど、西山瑠璃の泣き顔が拝めるなら、その位安かった。

「あぁ、分かった。俺だってコケにしやがったあいつを泣かせたいし、鳴かせたいからな」

教師にあるまじき悪い顔。でも、こんな奴だから使いやすい。

「交渉成立!」

これでひとつ楽しみが増えた。

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