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盈月
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「一年七組か、どこだろう?」
ゆっくりと辺りを見回しながら足を進める。初めて見る娘の学校。それはとても懐かしい雰囲気で、新鮮だった。
今日は二者懇談。担任の先生から瑠璃の学校を聞くことができる。楽しみな反面すごく怖い。
「瑠璃さんのお父様ですか?」
「あ、はい、そうですけど……」
振り返ると眼鏡をかけた三十代くらいの女性が教室から身を乗り出してきていた。
「では、一年七組はここですよ」
「すみません、ぼうっとしていたもんで」
「いえ、私も声かけてから、八組の方だったらどうしようかって怖かったんですよ」
教室に入り、談笑をしながら席に着く。話の端々から察するに、彼女ーー藤崎たま子先生は、この学校に来て三年目の国語の先生らしい。
「では始めましょうか」
「よろしくお願いします」
「まずは成績のお話ですがーー」
ファイルをめくり始める藤崎先生。ゴクリと一つ唾を飲む。瑠璃は蛇目教の地下に居た。まともな教育が施されているとは思えない。心配が膨らみ、心臓が鳴るたび緊張が身体を這いずっていく。
「大変良いですね。クラスでもトップの方だとは思います」
「え……本当に?」
「本当ですよ。最初のテストもいくつか満点取ってますし、授業でも難しい問題もきちんと答えていますから。まぁ、最近は白紙での提出が多かったりして困ってはいるんですけどね」
ーー…………。
なんだか信じられない。だけどーー。
『面倒くさいから。テストなんてやる必要ないでしょ』
一瞬、やけにはっきりとした瑠璃の様子が脳裏をよぎった。
「分かりました。きちんとやるよう言っておきます」
「そうしていただけると助かります。最初の点数のままいけば指定校推薦などで難関校も狙えると思いますし」
先生は嬉しそうに笑っている。どうやら、本当に瑠璃は頭が良いらしい。どうやらこれは夢ではないらしい。
ーー……にしても、難関校か。おれは今まで満点取った事も、難関校を薦められた事もないな。
少し惨めになった。
「それで、学校生活の方ですがーー」
声に反応して椅子が鳴る。緩んでいた心が締まり、こっそりと歯を噛み締める。
これが本題だ。
瑠璃がどういう風に過ごしているのか。彼女は高校での事を話してくれないから、おれはそれを何も知らない。前にしてきた大怪我の事、友達、いじめ。心配事は溢れてやまない。
「大人びていていて、あまり積極的には行動していない感じですね。転校生という事もあって、周りにも馴染みにくいようでしたしーー」
冷や汗がどんどんと垂れてくる。馴染みにくい。その言葉は重かった。心をガシッと鷲掴みにする。怪我を負った娘の姿。瑠璃はきっといじめられている。それをもっと知らないと。
さっきよりも強く歯を噛み締めた。不完全燃焼の怒りが前よりも強く燃え上がる。
「でも、最近は友達ができたみたいで安心していたんですよ」
「え?」
炎が一気に鎮火した。きょとんとして現実が分からない。
「瑠璃さんから聞いていないですか? 篠崎巴さんとよく一緒に居るみたいですし、最近は片岡賢太郎くんとも仲良いみたいですね」
友達……。
そういえば、瑠璃から聞いた気がする。
『友達出来たから心配しないで、もう大丈夫だから』
尋ねても一切答えてくれないし、おれを安心させる為の嘘かと思ってたけど。
「本当だったんだ」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も。その二人、どんな子なんですか?」
「篠崎さんはリーダータイプの子ですね。みんなに好かれて、いつも中心に居るような。だから、瑠璃さんと仲良くなったのを見て少し意外でしたね。片岡くんもわりと明るくて積極的な子ですね」
聞いている分には瑠璃と釣り合うとは思えない二人だった。それってーー。
「ちょっと聞きづらいんですけど、いじめだったりしませんよね? 友達じゃなくて二人に瑠璃が、その……」
「心配は分かりますけど、大丈夫だと思いますよ。瑠璃さんも発言力ありそうですから、どちらかというと片岡くんが振り回されている感じですね」
「そう……なんですか」
意外すぎて飲み込めない。おれが望んだはずなのに、とてもじゃないけど信じられない。瑠璃が友達と居るなんて。
本当にその二人と仲良いのか? 隠れていじめられているんじゃなくて? 友達が出来たからいじめが終わったのか?
「それではお時間ですので、質問が無ければ終わりにします」
色々と現実味が無く、頭の中が疑問だらけでおれは教室を後にした。
「一年七組か、どこだろう?」
ゆっくりと辺りを見回しながら足を進める。初めて見る娘の学校。それはとても懐かしい雰囲気で、新鮮だった。
今日は二者懇談。担任の先生から瑠璃の学校を聞くことができる。楽しみな反面すごく怖い。
「瑠璃さんのお父様ですか?」
「あ、はい、そうですけど……」
振り返ると眼鏡をかけた三十代くらいの女性が教室から身を乗り出してきていた。
「では、一年七組はここですよ」
「すみません、ぼうっとしていたもんで」
「いえ、私も声かけてから、八組の方だったらどうしようかって怖かったんですよ」
教室に入り、談笑をしながら席に着く。話の端々から察するに、彼女ーー藤崎たま子先生は、この学校に来て三年目の国語の先生らしい。
「では始めましょうか」
「よろしくお願いします」
「まずは成績のお話ですがーー」
ファイルをめくり始める藤崎先生。ゴクリと一つ唾を飲む。瑠璃は蛇目教の地下に居た。まともな教育が施されているとは思えない。心配が膨らみ、心臓が鳴るたび緊張が身体を這いずっていく。
「大変良いですね。クラスでもトップの方だとは思います」
「え……本当に?」
「本当ですよ。最初のテストもいくつか満点取ってますし、授業でも難しい問題もきちんと答えていますから。まぁ、最近は白紙での提出が多かったりして困ってはいるんですけどね」
ーー…………。
なんだか信じられない。だけどーー。
『面倒くさいから。テストなんてやる必要ないでしょ』
一瞬、やけにはっきりとした瑠璃の様子が脳裏をよぎった。
「分かりました。きちんとやるよう言っておきます」
「そうしていただけると助かります。最初の点数のままいけば指定校推薦などで難関校も狙えると思いますし」
先生は嬉しそうに笑っている。どうやら、本当に瑠璃は頭が良いらしい。どうやらこれは夢ではないらしい。
ーー……にしても、難関校か。おれは今まで満点取った事も、難関校を薦められた事もないな。
少し惨めになった。
「それで、学校生活の方ですがーー」
声に反応して椅子が鳴る。緩んでいた心が締まり、こっそりと歯を噛み締める。
これが本題だ。
瑠璃がどういう風に過ごしているのか。彼女は高校での事を話してくれないから、おれはそれを何も知らない。前にしてきた大怪我の事、友達、いじめ。心配事は溢れてやまない。
「大人びていていて、あまり積極的には行動していない感じですね。転校生という事もあって、周りにも馴染みにくいようでしたしーー」
冷や汗がどんどんと垂れてくる。馴染みにくい。その言葉は重かった。心をガシッと鷲掴みにする。怪我を負った娘の姿。瑠璃はきっといじめられている。それをもっと知らないと。
さっきよりも強く歯を噛み締めた。不完全燃焼の怒りが前よりも強く燃え上がる。
「でも、最近は友達ができたみたいで安心していたんですよ」
「え?」
炎が一気に鎮火した。きょとんとして現実が分からない。
「瑠璃さんから聞いていないですか? 篠崎巴さんとよく一緒に居るみたいですし、最近は片岡賢太郎くんとも仲良いみたいですね」
友達……。
そういえば、瑠璃から聞いた気がする。
『友達出来たから心配しないで、もう大丈夫だから』
尋ねても一切答えてくれないし、おれを安心させる為の嘘かと思ってたけど。
「本当だったんだ」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も。その二人、どんな子なんですか?」
「篠崎さんはリーダータイプの子ですね。みんなに好かれて、いつも中心に居るような。だから、瑠璃さんと仲良くなったのを見て少し意外でしたね。片岡くんもわりと明るくて積極的な子ですね」
聞いている分には瑠璃と釣り合うとは思えない二人だった。それってーー。
「ちょっと聞きづらいんですけど、いじめだったりしませんよね? 友達じゃなくて二人に瑠璃が、その……」
「心配は分かりますけど、大丈夫だと思いますよ。瑠璃さんも発言力ありそうですから、どちらかというと片岡くんが振り回されている感じですね」
「そう……なんですか」
意外すぎて飲み込めない。おれが望んだはずなのに、とてもじゃないけど信じられない。瑠璃が友達と居るなんて。
本当にその二人と仲良いのか? 隠れていじめられているんじゃなくて? 友達が出来たからいじめが終わったのか?
「それではお時間ですので、質問が無ければ終わりにします」
色々と現実味が無く、頭の中が疑問だらけでおれは教室を後にした。
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