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盈月
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「へぇ~、ユウコはいじめに賛成なんだ」
軽蔑した目。隠した毒を滲み出させる視線。
「いや、賛成って訳じゃ……」
たじろいで、口の中で何かを呟きながら俯く少女。それは明らかな戦闘放棄。彼女はただの敗残兵。なら、後は追い打ちをかけるのみ。
「だよね。いじめなんて人間のやる事じゃないよね。人を貶めて優位に立とうだなんておこがましいし。なんで、やってる自分が一番愚かだって気付かないんだろ」
沈んでいく三つの表情。それを見ても特に何も感じない。でも、心はチクチクと痛みを嘆いた。言葉にする度、罪悪感が私に対して牙向いた。
男子の方へと目を向ける。コートの中で必死にバスケットボールを追いかける一人の少年。
彼は……賢太郎は、私が言った人間の典型だ。強がるためにいじめを繰り返した。弱いのに気付きたくなくていじめに依存した。
誰が見ても愚か。私の言葉を借りるなら"負け犬"で"弱者"で"かっこ悪い"。そんな存在。
でも、どうしても私はこんな言葉であいつを貶めたくはなかった。エゴだとは分かっているけど、あいつだけは例外にしたかった。そんな枠に入れたくなかった。
だから、こんな言葉を吐いている自分が嫌になる。申し訳なくなる。
「……巴ちゃんはいじめをしてる子って嫌いなの?」
意識の外から声がかかった。ゆっくりとそれに向き直る。不安な表情。泣きそうな目。それに私はーー
「うーんそうだね、大嫌いかな」
綺麗に笑顔を返してやる。
「っ……」
沙羅は絶望したように泣き崩れた。彼女の後ろでミカとユウコも必死で涙を隠している。
くぐもった泣き声。体育の喧騒はそれをかき消す。救いなんて来ないと示す様に、大勢の騒音が押しつぶす。
ーーこれでおしまい。これで思い通り。
口角が必要以上に上がって、浮かべ続ける笑みの中に歪みが生じる。
ーーこれであの子は解放される。
「安河内さんと篠崎さん、次試合だから早く入って」
グッドなタイミングで声がかかった。
「沙羅、試合だって」
勢いよく立ち上がり、手を差し出す。
「あ……うん」
沙羅はぼんやりとした様で私の手を取り、立ち上がる。目が赤くて、化粧はぐちゃぐちゃ。そこにはもう、先程の笑った少女は居ない。
「どうしたのさ、いきなり泣き出して。何か私、嫌な事でも言っちゃった?」
抱きしめる。沙羅の身体は温かくて、肩の辺りがぬるく湿る。
「ううん……巴ちゃんのせいじゃないの…………嫌な事、思い出しちゃって……」
へっくへっくと啜り上げながら私を庇い、泣き止もうとしても上手くいかない。そんな彼女は泣き顔を隠すように私の肩に顔を埋めた。
「そっか。じゃあ、次の試合勝とう。圧倒的に勝っちゃおう。そしたらさ、きっと嬉しくなって泣き止めるって」
「……うん」
少女の背中をさすりながら、耳元に優しく言葉を吐く。震える身体は、クラスの女王なんかの物じゃない。とても小さい。まるで私の手に収まってしまいそうな程に。
ーーあ……。
沙羅の背中越しに眼鏡の少年と目が合った。視線に込められた敵意にも似た感情。受け流す様に口角を上げる。そして、口の中で呟いた。
『私の勝ちだね』
その言葉が通じたかは分からない。でも少年は、悔しそうに目を伏せ、人の影へと消えていった。
軽蔑した目。隠した毒を滲み出させる視線。
「いや、賛成って訳じゃ……」
たじろいで、口の中で何かを呟きながら俯く少女。それは明らかな戦闘放棄。彼女はただの敗残兵。なら、後は追い打ちをかけるのみ。
「だよね。いじめなんて人間のやる事じゃないよね。人を貶めて優位に立とうだなんておこがましいし。なんで、やってる自分が一番愚かだって気付かないんだろ」
沈んでいく三つの表情。それを見ても特に何も感じない。でも、心はチクチクと痛みを嘆いた。言葉にする度、罪悪感が私に対して牙向いた。
男子の方へと目を向ける。コートの中で必死にバスケットボールを追いかける一人の少年。
彼は……賢太郎は、私が言った人間の典型だ。強がるためにいじめを繰り返した。弱いのに気付きたくなくていじめに依存した。
誰が見ても愚か。私の言葉を借りるなら"負け犬"で"弱者"で"かっこ悪い"。そんな存在。
でも、どうしても私はこんな言葉であいつを貶めたくはなかった。エゴだとは分かっているけど、あいつだけは例外にしたかった。そんな枠に入れたくなかった。
だから、こんな言葉を吐いている自分が嫌になる。申し訳なくなる。
「……巴ちゃんはいじめをしてる子って嫌いなの?」
意識の外から声がかかった。ゆっくりとそれに向き直る。不安な表情。泣きそうな目。それに私はーー
「うーんそうだね、大嫌いかな」
綺麗に笑顔を返してやる。
「っ……」
沙羅は絶望したように泣き崩れた。彼女の後ろでミカとユウコも必死で涙を隠している。
くぐもった泣き声。体育の喧騒はそれをかき消す。救いなんて来ないと示す様に、大勢の騒音が押しつぶす。
ーーこれでおしまい。これで思い通り。
口角が必要以上に上がって、浮かべ続ける笑みの中に歪みが生じる。
ーーこれであの子は解放される。
「安河内さんと篠崎さん、次試合だから早く入って」
グッドなタイミングで声がかかった。
「沙羅、試合だって」
勢いよく立ち上がり、手を差し出す。
「あ……うん」
沙羅はぼんやりとした様で私の手を取り、立ち上がる。目が赤くて、化粧はぐちゃぐちゃ。そこにはもう、先程の笑った少女は居ない。
「どうしたのさ、いきなり泣き出して。何か私、嫌な事でも言っちゃった?」
抱きしめる。沙羅の身体は温かくて、肩の辺りがぬるく湿る。
「ううん……巴ちゃんのせいじゃないの…………嫌な事、思い出しちゃって……」
へっくへっくと啜り上げながら私を庇い、泣き止もうとしても上手くいかない。そんな彼女は泣き顔を隠すように私の肩に顔を埋めた。
「そっか。じゃあ、次の試合勝とう。圧倒的に勝っちゃおう。そしたらさ、きっと嬉しくなって泣き止めるって」
「……うん」
少女の背中をさすりながら、耳元に優しく言葉を吐く。震える身体は、クラスの女王なんかの物じゃない。とても小さい。まるで私の手に収まってしまいそうな程に。
ーーあ……。
沙羅の背中越しに眼鏡の少年と目が合った。視線に込められた敵意にも似た感情。受け流す様に口角を上げる。そして、口の中で呟いた。
『私の勝ちだね』
その言葉が通じたかは分からない。でも少年は、悔しそうに目を伏せ、人の影へと消えていった。
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