パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

39

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「なら、助けなきゃね」

反響が空間に溶けていく。耳に入ったその音は、いつも通りの私のもので、そうでない。

ーーやっぱりか。やっぱり私……ホッとしてる。

息をつく。

昇の所まで堕ちたくないから、壊れそうなあの子を見ていたくないから。

そんな言い訳を見つけて安堵している自分が居た。

彼女の世界は私の姿を映さない。私は人間関係に不自由していない。
ならば、あの子と友達になることに何の意味がある?

そんな風に納得してきた。納得しようとしてきた。

……だけど同時に、私は口実を探していた。彼女に関わる口実を。

「巴ちゃん!」

突然目の前が弾ける。自分の中に飲み込まれそうになっていた私を、大声が現実に引き戻した。

「遅い~。ダブルス始まっちゃうよ」

徐々に合っていく焦点。目の前に居るのは、息を切らせた少女。私を慕う、お金持ちのお嬢様。

「あぁ……ごめんごめん。ちょっと見つかんなくてさ」

「早く戻んないと怒られちゃうよ」

沙羅が私の手を引いて歩き始める。

「巴ちゃんが居ないと沙羅困るんだから、早く帰ってきてよ~」

「そうだね。沙羅、運動音痴だしね。勝てる訳ないよね」

現実を認識し、取り戻してきた自分を演じる。何事もなかったように、いつもの自分を。

「巴ちゃんひっどーい。ハッキリ言わないでよ。沙羅、気にしてるんだから」

「ははっ、ごめん。でもほんとでしょ?」

「もう、許さないんだから」

「ごめんごめん、許して?」

「許さないもん」

頬をぷうと膨らませ、そっぽを向く沙羅。

「んー、じゃあ、許してもらわなくていいかな。じゃあね、沙羅」

私はこれ見よがしそんな言葉を投げかけて、足を速める。

「え? そんな~。待ってよ巴ちゃん!」

後ろから、慌てた足音が必死に追いかけてくる。

ーーさて、どうするかな。

ちらりと少女に目をやった。

ーーどうとでもなるか。

「まったく、酷いよ巴ちゃん」

「はいはい、そう怒らないの」

よしよしと頭を撫でてやる。彼女は嬉しそうに身を揺らす。

「じゃ、ダブルス頑張ろうか」

「うん!」

沙羅は、きっと授業後には続いていないであろう笑顔で笑った。















 
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