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盈月
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「なら、助けなきゃね」
反響が空間に溶けていく。耳に入ったその音は、いつも通りの私のもので、そうでない。
ーーやっぱりか。やっぱり私……ホッとしてる。
息をつく。
昇の所まで堕ちたくないから、壊れそうなあの子を見ていたくないから。
そんな言い訳を見つけて安堵している自分が居た。
彼女の世界は私の姿を映さない。私は人間関係に不自由していない。
ならば、あの子と友達になることに何の意味がある?
そんな風に納得してきた。納得しようとしてきた。
……だけど同時に、私は口実を探していた。彼女に関わる口実を。
「巴ちゃん!」
突然目の前が弾ける。自分の中に飲み込まれそうになっていた私を、大声が現実に引き戻した。
「遅い~。ダブルス始まっちゃうよ」
徐々に合っていく焦点。目の前に居るのは、息を切らせた少女。私を慕う、お金持ちのお嬢様。
「あぁ……ごめんごめん。ちょっと見つかんなくてさ」
「早く戻んないと怒られちゃうよ」
沙羅が私の手を引いて歩き始める。
「巴ちゃんが居ないと沙羅困るんだから、早く帰ってきてよ~」
「そうだね。沙羅、運動音痴だしね。勝てる訳ないよね」
現実を認識し、取り戻してきた自分を演じる。何事もなかったように、いつもの自分を。
「巴ちゃんひっどーい。ハッキリ言わないでよ。沙羅、気にしてるんだから」
「ははっ、ごめん。でもほんとでしょ?」
「もう、許さないんだから」
「ごめんごめん、許して?」
「許さないもん」
頬をぷうと膨らませ、そっぽを向く沙羅。
「んー、じゃあ、許してもらわなくていいかな。じゃあね、沙羅」
私はこれ見よがしそんな言葉を投げかけて、足を速める。
「え? そんな~。待ってよ巴ちゃん!」
後ろから、慌てた足音が必死に追いかけてくる。
ーーさて、どうするかな。
ちらりと少女に目をやった。
ーーどうとでもなるか。
「まったく、酷いよ巴ちゃん」
「はいはい、そう怒らないの」
よしよしと頭を撫でてやる。彼女は嬉しそうに身を揺らす。
「じゃ、ダブルス頑張ろうか」
「うん!」
沙羅は、きっと授業後には続いていないであろう笑顔で笑った。
反響が空間に溶けていく。耳に入ったその音は、いつも通りの私のもので、そうでない。
ーーやっぱりか。やっぱり私……ホッとしてる。
息をつく。
昇の所まで堕ちたくないから、壊れそうなあの子を見ていたくないから。
そんな言い訳を見つけて安堵している自分が居た。
彼女の世界は私の姿を映さない。私は人間関係に不自由していない。
ならば、あの子と友達になることに何の意味がある?
そんな風に納得してきた。納得しようとしてきた。
……だけど同時に、私は口実を探していた。彼女に関わる口実を。
「巴ちゃん!」
突然目の前が弾ける。自分の中に飲み込まれそうになっていた私を、大声が現実に引き戻した。
「遅い~。ダブルス始まっちゃうよ」
徐々に合っていく焦点。目の前に居るのは、息を切らせた少女。私を慕う、お金持ちのお嬢様。
「あぁ……ごめんごめん。ちょっと見つかんなくてさ」
「早く戻んないと怒られちゃうよ」
沙羅が私の手を引いて歩き始める。
「巴ちゃんが居ないと沙羅困るんだから、早く帰ってきてよ~」
「そうだね。沙羅、運動音痴だしね。勝てる訳ないよね」
現実を認識し、取り戻してきた自分を演じる。何事もなかったように、いつもの自分を。
「巴ちゃんひっどーい。ハッキリ言わないでよ。沙羅、気にしてるんだから」
「ははっ、ごめん。でもほんとでしょ?」
「もう、許さないんだから」
「ごめんごめん、許して?」
「許さないもん」
頬をぷうと膨らませ、そっぽを向く沙羅。
「んー、じゃあ、許してもらわなくていいかな。じゃあね、沙羅」
私はこれ見よがしそんな言葉を投げかけて、足を速める。
「え? そんな~。待ってよ巴ちゃん!」
後ろから、慌てた足音が必死に追いかけてくる。
ーーさて、どうするかな。
ちらりと少女に目をやった。
ーーどうとでもなるか。
「まったく、酷いよ巴ちゃん」
「はいはい、そう怒らないの」
よしよしと頭を撫でてやる。彼女は嬉しそうに身を揺らす。
「じゃ、ダブルス頑張ろうか」
「うん!」
沙羅は、きっと授業後には続いていないであろう笑顔で笑った。
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