34 / 158
盈月
26
しおりを挟む
結果として今日の料理教室は散々だった。
瑠璃はすぐに普通に切るのを嫌がって包丁を振り回そうとするし、野菜を炒めている時に油を入れすぎて炎上させるし、カレー自体は煮すぎて野菜の形が無くなり、半分以上コゲが占める液体へと成り果てるし……。
しかもたちの悪いことに、瑠璃はおれの指示に従わずに失敗し、おれがその後片付けをしている間に勝手に進めてまた失敗するのだ。まったく、どうしようもなかった。
「まぁ、食べるか」
疲れた手でスプーンを握る。ひとまず目の前にあるのはカレーの筈、食べ物の筈だ。自己暗示をかけるように目の前のコゲしかない液体を見つめる。
「いただきます」
声を発して二人で同時に口に含んだ。
ーー苦い……とにかく苦い。
顔を歪める。コゲはできるだけ避けた筈なのに苦味しか感じられない。
「わたしと料理しない方が良いって分かったでしょ」
瑠璃が黙々とカレーを口に運びながら呟いた。う~ん、確かにこれじゃあな。消えない苦味を転がしつつ考える。この不味さは尋常じゃない。でもーー。
「瑠璃が料理下手だってのは分かったけど、おれは色々楽しかったよ」
少女は手を止めておれの方を向く。
「初めて二人で何かしたってのもあるし、大変だったけど瑠璃が失敗しまくってるってのも面白かったし」
本気でそう思っていた。やってる時はハラハラしっぱなしで疲れたし、正直カレーは美味しくないけど、瑠璃ともう一回料理してみたい。料理じゃなくでも良いから、また二人でてんやわんやと何かをしたい。そう思った。
「それに、このままじゃ瑠璃、お嫁に行けないでしょ」
ふざけてみる。なんか、今の彼女だったらこういうことも言える気がした。
「行く気もないし、もらってくれる人もいないよ」
ふっと笑うように息を洩らし、返してくる。初めてだ。瑠璃が乗ってくれるなんて。
「それは良かった。まぁ、瑠璃が相手連れてきても『娘はやらん!』って言うけどね」
楽しくなってくる。ふざけたくなってくる。このままもっと瑠璃とくだらない"会話"をしたい。
「調子にのらないで。ごちそうさま」
しかし彼女は、いつもの素っ気ない言葉を紡いで立ち上がった。いつのまにか丸焦げカレーは完食されている。
ーーちょっとやりすぎなかな。
小説を手に取り、部屋に篭る少女を見る。それは、いつもと変わらなく見える瑠璃。でも、何かが変わった気がする。少しは距離が縮まった気がする。
だから、今は拒絶されたとしても、いつか、二人で今以上にふざけて笑えればいいな。そう思う。
「さて、当面の問題はーー」
視線を戻した食卓の上、一口しか減っていない、自称カレー。
「どうやったらこれを完食できんだよ」
はぁと深く溜息をつき、意を決して口へと運ぶ。苦い。覚悟してたのに苦い。なんだこれ。冷蔵庫からお茶を出し、二リットルボトルのそれをラッパ飲みする。それでも消えない。
「やっぱり、瑠璃と料理するのはもう辞めよう……」
半分程飲み干してから呟いた。さっきと矛盾していても、それは心からの叫びだった。
瑠璃はすぐに普通に切るのを嫌がって包丁を振り回そうとするし、野菜を炒めている時に油を入れすぎて炎上させるし、カレー自体は煮すぎて野菜の形が無くなり、半分以上コゲが占める液体へと成り果てるし……。
しかもたちの悪いことに、瑠璃はおれの指示に従わずに失敗し、おれがその後片付けをしている間に勝手に進めてまた失敗するのだ。まったく、どうしようもなかった。
「まぁ、食べるか」
疲れた手でスプーンを握る。ひとまず目の前にあるのはカレーの筈、食べ物の筈だ。自己暗示をかけるように目の前のコゲしかない液体を見つめる。
「いただきます」
声を発して二人で同時に口に含んだ。
ーー苦い……とにかく苦い。
顔を歪める。コゲはできるだけ避けた筈なのに苦味しか感じられない。
「わたしと料理しない方が良いって分かったでしょ」
瑠璃が黙々とカレーを口に運びながら呟いた。う~ん、確かにこれじゃあな。消えない苦味を転がしつつ考える。この不味さは尋常じゃない。でもーー。
「瑠璃が料理下手だってのは分かったけど、おれは色々楽しかったよ」
少女は手を止めておれの方を向く。
「初めて二人で何かしたってのもあるし、大変だったけど瑠璃が失敗しまくってるってのも面白かったし」
本気でそう思っていた。やってる時はハラハラしっぱなしで疲れたし、正直カレーは美味しくないけど、瑠璃ともう一回料理してみたい。料理じゃなくでも良いから、また二人でてんやわんやと何かをしたい。そう思った。
「それに、このままじゃ瑠璃、お嫁に行けないでしょ」
ふざけてみる。なんか、今の彼女だったらこういうことも言える気がした。
「行く気もないし、もらってくれる人もいないよ」
ふっと笑うように息を洩らし、返してくる。初めてだ。瑠璃が乗ってくれるなんて。
「それは良かった。まぁ、瑠璃が相手連れてきても『娘はやらん!』って言うけどね」
楽しくなってくる。ふざけたくなってくる。このままもっと瑠璃とくだらない"会話"をしたい。
「調子にのらないで。ごちそうさま」
しかし彼女は、いつもの素っ気ない言葉を紡いで立ち上がった。いつのまにか丸焦げカレーは完食されている。
ーーちょっとやりすぎなかな。
小説を手に取り、部屋に篭る少女を見る。それは、いつもと変わらなく見える瑠璃。でも、何かが変わった気がする。少しは距離が縮まった気がする。
だから、今は拒絶されたとしても、いつか、二人で今以上にふざけて笑えればいいな。そう思う。
「さて、当面の問題はーー」
視線を戻した食卓の上、一口しか減っていない、自称カレー。
「どうやったらこれを完食できんだよ」
はぁと深く溜息をつき、意を決して口へと運ぶ。苦い。覚悟してたのに苦い。なんだこれ。冷蔵庫からお茶を出し、二リットルボトルのそれをラッパ飲みする。それでも消えない。
「やっぱり、瑠璃と料理するのはもう辞めよう……」
半分程飲み干してから呟いた。さっきと矛盾していても、それは心からの叫びだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
神楽坂高校の俺は、ある日学食に飯を食いに行こうとしたら、数学の堂本が一年の女子をいたぶっているところに出くわしてしまう。数学の堂本は俺にω(オメガ)ってあだ名を付けた意地悪教師だ。
ωってのは、俺の口が、いつもωみたいに口元が笑っているように見えるから付けたんだってさ。
いたぶられてる女子はΣ(シグマ)って堂本に呼ばれてる。顔つきっていうか、口元がΣみたいに不足そうに尖がってるかららしいが、ω同様、ひどい呼び方だ。
俺は、思わず堂本とΣの間に飛び込んでしまった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる