パンドラ

須桜蛍夜

文字の大きさ
上 下
24 / 158
盈月

16

しおりを挟む
「そっか、でも私はあんたを止めたいから」
「……なら仕方ねぇな」
もたれ掛かっていた壁から離れ、巴と対峙する。女子としては背の高いこいつと男子にしては背の低い俺。目線はほとんど同じ。二つの視線が絡みあい、一歩、また一歩とその距離を縮める。そしてーー。
「覚悟しろ」
拳を握り、振り下ろす。
スカッ
「なんで避けんだよ」
「当たり前じゃん。殴られたくないもん」
……確かにそうだな。呆れ気味に?をかく。巴を殴るんだ、殴るしかないんだ。それしか考えていなかったから、避けられるなんて思ってもみなかった。
「ならーー」
再び覚悟を決め、拳を強く握る。もう外さねぇ。幼馴染みを睨みつけ、腕を振り上げる。巴の目にも警戒が浮かんだ。遊びは終わりだ。
「賢太郎、連れてきたぜ~」
緊迫した空気、二つの覚悟がぶつかる場に、突然、そぐわない声と見慣れた三人が飛び込んできた。
「タケシ、イチロウ。なんでお前ら……」
目を見開き、あまりの事に硬直する。こいつらは教室に置いてきたはずなのに、なんでーー。
「賢太郎が体育館裏にあいつを呼び出したって言ってたのに、普通に帰ろうとしてたからさ」
「呼び出しを無視するなんていい度胸だって無理やり引っ張ってきたんだ」
得意そうに語る二人組。連れてこられた転校生は、目を細めて興味なさそうにこちらを見つめていた。
「俺が呼んだのは巴だけどな。でも、いい所に来た。タケシ、イチロウ、こいつ、ボコるぞ」
笑みが浮かぶ。こいつらの馬鹿さ加減は予想以上だった。馬鹿すぎて笑えてくる。でも、こいつらが来た事で少し気持ちが楽になった。幼馴染みを傷つける。そんな行為が実感を失い始めた。
「……いいのかよ」
「本当にやるのか?」
「あぁ、やる。俺に逆らったんだからな」
いつもの自分、強者を演じる俺が戻ってくる。今ならなんでもできる。
「覚悟しろよ」
反響する声を合図に三人で巴を取り囲んだ。最初に仕掛けたのはタケシだった。長い腕を生かした鞭のような殴打で彼女に襲いかかる。しかし、巴はそれを難なく躱し、続くイチロウの拳もなんとかよけた。
ーーこいつ、無駄に運動神経良いからな。
でも流石に、続いた俺の膝蹴りは避けきれず、見事に巴の腹を抉る。続けて右の拳を唸らせ、幼馴染みの頭を上から下へと殴りつける。がくっと身体が崩れ落ち、そこにタケシとイチロウが殴りかかった。一方的な暴力。それに俺は興奮しはじめていた。あんなにも傷つけたくないと願った幼馴染み。だけど、それが目の前で痛みに喘ぎ、涙を堪える様を見ると、どうしようもなく楽しかった。考えてみれば、巴はいつも強者だったのだ。気が利いて、みんなに好かれて、勉強も運動もできる。そばにいる俺は、いつもこいつを羨んでいた。
ーーなんだ、こうすれば巴だって誰だって掌握できんだ。
強者を倒していけば俺だって強者になれる。タラクサカムの言うことは間違ってなんかいなかったんだ。興奮が湧き上がってくる。殴る、蹴る、堪えきれずに強気な巴が涙を流す。本当に最高だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...