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盈月
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しおりを挟む気がついたら、転校生の姿は見えなくなっていた。それでも、彼女の言葉だけは何度も何度もリピートされる。
『ずっと怯えてる』
ーー俺は……。
唇を噛み締める。言葉が続かなかった。俺は怯えていないと言い切ることができなかった。
「俺は怯えてる。俺は……弱い」
得体の知れない恐怖に押され、言葉が洩れる。はっきりと見せられた俺の本質。もう目を逸らせない。俺は、怯えていたから強者を装った。怯えていたからいじめで強さを感じようとした。堰が切れたように、俺の強さは虚構に転ず。俺は一体どうすればいい? 弱かったら潰される。弱かったら生きられない。俺はーー。
「賢太郎」
突然の声に、不安に駆られて勢いよく振り返る。
「タケシ、イチロウ……」
安心しても、恐怖に取り憑かれた心臓は、うるさいほどに鳴り響く。
「帰ろうぜ」
そっか、帰んなきゃな。ここは学校だし、下校時間なんてとっくに過ぎている。確認するように思い浮かべた。でも、それらに現実感が感じられない。
「あぁ、帰ろう」
一応、返事だけは返しておいた。
地面を歩いている、家へ帰っている。なのに、なんだか夢の中みたいで、ふわふわと身体が浮いている。自分がちゃんと進めているのかすらよく分からない。
ピコン!
いきなりの電子音に現実が戻った。
「え?」
辺りを見回す。タケシとイチロウは居なかった。気づけば、あいつらと別れる場所は既に通り過ぎている。
「あぁ……スマホか」
音の正体に気がついて、ポケットからスマホを取り出す。
「なんだこれ、タラクサカム?」
連絡してきたのは、カタカナ名の知らない名前。でも――。
『君は弱者だ』
その内容に心臓が跳ねた。
『なら、君はどうすれば強者になれる?』
続けざまに紡がれる。こいつ、その方法知ってんのか? 期待と興奮が湧き上がる。我慢できない程に次の言葉が待ち遠しくなる。
『簡単なことだ。強者を倒せばいい。勝った者が強い。それがこの世の真理だ』
強者を倒す? それができたら苦労しねぇよ。ため息をつく、力が抜ける。期待の分だけ失望が大きかった。
『お前にとっての強者は誰だ?』
ーー強者か……。
それでもなんだか、タラクサカムの言葉から目が離せない。
『西山瑠璃だろ?』
転校生? そうか、あいつも強者だ。決して折れない。俺を見下し、脅かす存在。
『方法を教えてやろう。彼女の無表情を剥がし、怯えさせる秘策をな』
あの人形を怯えさせられる? 本当に?
『方法は――』
「それ、だけ?」
『これでお前は強くなれる』
笑みが浮かぶ。終わりに添えられた響きは、心酔するほどに甘美だった。
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