16 / 158
盈月
8
しおりを挟む
「はぁ、はぁ……」
息が切れて、腕も脚も全身が重い。どれだけリンチを続けたかは分からないが、気づいたら、俺は転校生を踏みつける格好で立っていた。俺らのやったことだけど、転校生の有様は酷かった。制服は所々擦り切れ、黒タイツは原型を成さず、砂と血とでグチャグチャになった身体に赤黒い痣が点在している。
「死んでねぇよな?」
オドオドとしたタケシの声が空気に溶け込み静かに広がった。それは俺らを我に返して不安を煽る。動かない少女、ハッキリとした暴力の感触。俺は一気に怖くなる。
「おい、転校生、 起きろ!」
足をよけ、身体を揺すった。生きていてくれ。祈りにも等しい思いが頭の中に溢れ出す。
「起きてる」
返ってきた起伏のない声。それに呼応するように彼女はゆっくりと立ち上がり、状態を確かめるように自分の身体を見回した。
ゾクッ
得体の知れない恐怖が全身を駆け巡った。転校生に変わったところは一つも無かった。流れるような動きも、晴れ上がった顔に浮かぶ無表情も。
――こいつ、本当に人間じゃねぇのか?
殴った感触は残っている。彼女は見るからに満身創痍。それでも、西山瑠璃は何事も無かったようにそこに佇んでいる。じわじわと畏れが心を蝕んでいく。背中を流れる汗は、動いたからだけじゃなく、冷たいものも混じっていた。
「怯える獣か」
突然、人形の口から呟くように言葉が洩れた。
ーー怯える……?
意味は分からない。でもそれは聞き捨てならない言葉。
「俺は、怯えてなんかいねぇ」
怒鳴る。馬鹿言うな、強者の俺が怯えるはずが無いだろ。
「目を逸らしてるだけ。あなたはいつも怯えてる」
それでも、静かな瞳は俺を見透かし、容赦なく核心に触れていく。
「うるせぇ!」
自分でも驚くほどの大声が出た。何も言うな、聞きたくねぇ。俺は、俺は――。
「まぁ別に、どうでもいいけど」
耳元で声がして、ひとつの影が脇をすり抜ける。熱くなった俺と対照的に冷たく、静かに……。
息が切れて、腕も脚も全身が重い。どれだけリンチを続けたかは分からないが、気づいたら、俺は転校生を踏みつける格好で立っていた。俺らのやったことだけど、転校生の有様は酷かった。制服は所々擦り切れ、黒タイツは原型を成さず、砂と血とでグチャグチャになった身体に赤黒い痣が点在している。
「死んでねぇよな?」
オドオドとしたタケシの声が空気に溶け込み静かに広がった。それは俺らを我に返して不安を煽る。動かない少女、ハッキリとした暴力の感触。俺は一気に怖くなる。
「おい、転校生、 起きろ!」
足をよけ、身体を揺すった。生きていてくれ。祈りにも等しい思いが頭の中に溢れ出す。
「起きてる」
返ってきた起伏のない声。それに呼応するように彼女はゆっくりと立ち上がり、状態を確かめるように自分の身体を見回した。
ゾクッ
得体の知れない恐怖が全身を駆け巡った。転校生に変わったところは一つも無かった。流れるような動きも、晴れ上がった顔に浮かぶ無表情も。
――こいつ、本当に人間じゃねぇのか?
殴った感触は残っている。彼女は見るからに満身創痍。それでも、西山瑠璃は何事も無かったようにそこに佇んでいる。じわじわと畏れが心を蝕んでいく。背中を流れる汗は、動いたからだけじゃなく、冷たいものも混じっていた。
「怯える獣か」
突然、人形の口から呟くように言葉が洩れた。
ーー怯える……?
意味は分からない。でもそれは聞き捨てならない言葉。
「俺は、怯えてなんかいねぇ」
怒鳴る。馬鹿言うな、強者の俺が怯えるはずが無いだろ。
「目を逸らしてるだけ。あなたはいつも怯えてる」
それでも、静かな瞳は俺を見透かし、容赦なく核心に触れていく。
「うるせぇ!」
自分でも驚くほどの大声が出た。何も言うな、聞きたくねぇ。俺は、俺は――。
「まぁ別に、どうでもいいけど」
耳元で声がして、ひとつの影が脇をすり抜ける。熱くなった俺と対照的に冷たく、静かに……。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話
トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

婚約者の恋人
クマ三郎@書籍発売中
恋愛
王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。
何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。
そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。
いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。
しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる