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盈月
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「いってきます」
返事を待たずに外に出た。空は眩しいほどに澄み渡っていて太陽の光がわたしを包む。
今日からわたしは学校に通う。信じられないけど、学校に通うんだ……。ちらりと自分の格好に目をやった。やけにスースーとして、動きにくいセーラー服と黒タイツ。一生着ることは無いと思っていたそれにため息が出る。
――なんで学校に行こうと思ったんだろう。
まったく行くつもりはなかった。そんな無駄なこと、する必要は無いと思っていた。なのに、わたしは通うと決めた。
「なんでだろう?」
発した問いに答えは返らず、風に紛れて消えていった。
学校に着くと、担任の女の先生がわたしを教室に案内して自己紹介を促した。
「西山瑠璃です。よろしく」
西山瑠璃……。小さな違和感を感じつつ、下げていた頭を上げる。目に入るのはたくさんの机や椅子、同年の少年少女、そして品定めをする無数の瞳。
――これが、学校か。
わたしは目を逸らし、勝手に空いている席へと向かった。好奇の雨は相変わらずにわたしを刺してくる。
「え、ちょっと、西山さん、それだけ? もうちょっと……」
慌てたような声がかかるけど気にしない。挨拶なんてする意味がない。弘さんがなんと言おうが、わたしは元々、誰かと関わるつもりなんて無いから。
――煩い。
昼休みになると、爆発するような騒音が教室内に響き渡った。お弁当の手を止めて耳をふさぐ。耳が壊れそう。
「はじめまして、西山さん。沙羅は、安河内沙羅。よろしく」
突然、喧騒に紛れて言葉が発され、目の前に手が差し出された。それを辿って顔を上げる。そこにいたのは、取り巻きを連れた茶髪でパーマの女の子。
――権力者が早速、様子見に来た訳ね。
視線を外して立ち上がる。興味は無い。わたしはそのまま弁当を片付けて出口へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ちさないよ」
キンキンと慌てたような声がする。
「どうなっても知らないんだから」
大きく響いた金切り声。生徒達は、関わりたくないように目を逸らす。心なしかクラスの声が小さくなった。わたしはそれを気にせずに廊下へと出る。
――どこ行こう。
できれば静かな所がいいな。
「沙羅」
「っ! 巴ちゃん」
教室から聞こえてくる二つの声。
「今の子、関わらない方がいいと思う」
――へぇ。
足を止めて耳を澄ます。
「なんで?」
「不気味だから。上手く言えないけど、なんかたぶん、関わらない方がいい」
――ふーん、不気味ね。
頭の中で呟いて足を動かした。
「巴ちゃんがそう言うなら……」
後ろからは渋々とした声がする。そこまで聞いてわたしは音から意識を外し、案内板へと近づいた。
「図書室……ここなら静かかな」
地図から目を離すと、女子の集団が目に入った。
――何が楽しいんだろう。
彼女たちは、廊下の真ん中でたむろして、大声で騒いでいる。内容の無い会話と適当な同意が繰り返されるだけのそれのどこに魅力があるんだろう。
「必要無いなら話さなきゃいいのに」
くだらない。そう思ったとき目の前から声がした。
「見ない顔だね。転校生かい?」
頭を上げると、そこには白髪の老人がニコニコしながら立っている。
「そう」
答えだけを告げて彼の横を通り過ぎようとした。変な人に構ってる暇なんて無い。
「校務員の吉田だ。よろしく」
しかし、校務員は身体を動かしてわたしの進路を阻んだ。
「何のつもりですか?」
見上げる。老人は得体の知れない笑みを浮かべて興味津々で聞いてくる。
「名前は?」
わたしは無視して彼の横を通り過ぎた。名乗る必要もないし、面倒くさい。
「君は……」
後ろから聞こえる声。だけど、もう聴くつもりは無い。
「鳥籠を抜け出しても、まだ君は夜を飛んでいるんだね」
聞き流していた音は、やけにハッキリと脳に響いた。
――鳥籠……。
気になるワードに立ち止まって振り向く。それ、どういう意味? しかし、彼の姿は嘘のように消えていた。
返事を待たずに外に出た。空は眩しいほどに澄み渡っていて太陽の光がわたしを包む。
今日からわたしは学校に通う。信じられないけど、学校に通うんだ……。ちらりと自分の格好に目をやった。やけにスースーとして、動きにくいセーラー服と黒タイツ。一生着ることは無いと思っていたそれにため息が出る。
――なんで学校に行こうと思ったんだろう。
まったく行くつもりはなかった。そんな無駄なこと、する必要は無いと思っていた。なのに、わたしは通うと決めた。
「なんでだろう?」
発した問いに答えは返らず、風に紛れて消えていった。
学校に着くと、担任の女の先生がわたしを教室に案内して自己紹介を促した。
「西山瑠璃です。よろしく」
西山瑠璃……。小さな違和感を感じつつ、下げていた頭を上げる。目に入るのはたくさんの机や椅子、同年の少年少女、そして品定めをする無数の瞳。
――これが、学校か。
わたしは目を逸らし、勝手に空いている席へと向かった。好奇の雨は相変わらずにわたしを刺してくる。
「え、ちょっと、西山さん、それだけ? もうちょっと……」
慌てたような声がかかるけど気にしない。挨拶なんてする意味がない。弘さんがなんと言おうが、わたしは元々、誰かと関わるつもりなんて無いから。
――煩い。
昼休みになると、爆発するような騒音が教室内に響き渡った。お弁当の手を止めて耳をふさぐ。耳が壊れそう。
「はじめまして、西山さん。沙羅は、安河内沙羅。よろしく」
突然、喧騒に紛れて言葉が発され、目の前に手が差し出された。それを辿って顔を上げる。そこにいたのは、取り巻きを連れた茶髪でパーマの女の子。
――権力者が早速、様子見に来た訳ね。
視線を外して立ち上がる。興味は無い。わたしはそのまま弁当を片付けて出口へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ちさないよ」
キンキンと慌てたような声がする。
「どうなっても知らないんだから」
大きく響いた金切り声。生徒達は、関わりたくないように目を逸らす。心なしかクラスの声が小さくなった。わたしはそれを気にせずに廊下へと出る。
――どこ行こう。
できれば静かな所がいいな。
「沙羅」
「っ! 巴ちゃん」
教室から聞こえてくる二つの声。
「今の子、関わらない方がいいと思う」
――へぇ。
足を止めて耳を澄ます。
「なんで?」
「不気味だから。上手く言えないけど、なんかたぶん、関わらない方がいい」
――ふーん、不気味ね。
頭の中で呟いて足を動かした。
「巴ちゃんがそう言うなら……」
後ろからは渋々とした声がする。そこまで聞いてわたしは音から意識を外し、案内板へと近づいた。
「図書室……ここなら静かかな」
地図から目を離すと、女子の集団が目に入った。
――何が楽しいんだろう。
彼女たちは、廊下の真ん中でたむろして、大声で騒いでいる。内容の無い会話と適当な同意が繰り返されるだけのそれのどこに魅力があるんだろう。
「必要無いなら話さなきゃいいのに」
くだらない。そう思ったとき目の前から声がした。
「見ない顔だね。転校生かい?」
頭を上げると、そこには白髪の老人がニコニコしながら立っている。
「そう」
答えだけを告げて彼の横を通り過ぎようとした。変な人に構ってる暇なんて無い。
「校務員の吉田だ。よろしく」
しかし、校務員は身体を動かしてわたしの進路を阻んだ。
「何のつもりですか?」
見上げる。老人は得体の知れない笑みを浮かべて興味津々で聞いてくる。
「名前は?」
わたしは無視して彼の横を通り過ぎた。名乗る必要もないし、面倒くさい。
「君は……」
後ろから聞こえる声。だけど、もう聴くつもりは無い。
「鳥籠を抜け出しても、まだ君は夜を飛んでいるんだね」
聞き流していた音は、やけにハッキリと脳に響いた。
――鳥籠……。
気になるワードに立ち止まって振り向く。それ、どういう意味? しかし、彼の姿は嘘のように消えていた。
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