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盈月
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脳裏から離れない。常に思い出してしまう。こびりついている。
遂に私は瑠璃を避けた。
朝は「宿題をやっていない」と多くを話さず席に着き、昼は「委員会関係で先生の所へ行かなくてはいけない」と瑠璃を屋上へ見送った。
彼女との会話は私から話しかけることで始まることが多い。避けようと思えば簡単だった。それがまた悲しかった。
私は彼女に、異変に気づいて欲しかったのかもしれない。危ない橋だとしても、二人で兄貴に立ち向かいたかったのかもしれない。その状況に仕方なく陥りたかったのかもしれない。
だけど結局、そんな都合よくもいかなくて。私は決断を迫られている。
あの写真。
場所はきっと、闇街だろう。
あんな大規模なことをやったら、ニュースになる。だけどそんなことは聞いていない。公にならない事件なんて山のようにあるだろうけど、これは違う。きっとあの治外法権の地での出来事だ。
頭にちらついていた可能性をもう見て見ぬ振りはできなくなっていた。
「瑠璃は闇街の人間だ」
聞こえないほどの声で呟くと、何かがわたしをすり抜けけいった。だけどしっくりくる。あの"恐い瑠璃"なら、簡単にあそこに馴染めるだろう。
なるほど、前に西山家に行った時に彼女が恐い雰囲気だったのは闇街に居たからなのだ。
闇街に関わってるから、兄貴が彼女を攫いに来たのだ。
繋がっていく。繋がってしまう。
全てがそうだと示している。
ーーやめてよ。
心が悲鳴をあげていた。
私は闇街が嫌いだ。あそこはいつも大切な人を奪っていく。
迷い込んで賢太郎は歪んだ。
入り浸ってお兄ちゃんは変わってしまった。
もう何もとられたくない。なのに、瑠璃もなの?
瑠璃まであそこに行っちゃうの?
「やだ……」
ーーいやだよ。
怖い。手のひらから冷たさが昇って巡っていく。ひどく寒い。凍えそうだ。
逃げるように走り出していた。瑠璃に会いたい。それしかこの寒さから逃げる手はない。
ーー今はまだ屋上に居るはず。
あの仏頂面に、小さな少女に早く会いたい。
彼女はいつもどこかに消えてしまいそうだ。それがずっと怖かった。それが現実になるかもしれない
「瑠璃!」
足が取れそうなほどのスピードで階段を駆け上り、蹴破るようにして屋上の扉を開けた。
目の前に佇むパラソル、その下からだるそうな瞳が覗いている。
「どうし……」
言葉よりも先に瑠璃に抱きついた。彼女の身体は硬くこわばっていたが、やがて少しずつ力が抜けていく。
「瑠璃、どこにも行かないでね」
温かい。それだけでホッとする。
「……どうしたの?」
「今日あんまり瑠璃に会えなかったから寂しくなっちゃった」
少女の肩に顔をうずめる私は、瑠璃の顔を見ることができない。それでも、声の響きから、困惑しているのだろうと思うと、少し嬉しく面白かった。
「そう」
いつもの音は優しく聞こえた。瑠璃の両手が使える私に添えられる。
やっぱり彼女が大切だ。それはどうにも変えられない。
私は抱きつく腕に力を込めた。
遂に私は瑠璃を避けた。
朝は「宿題をやっていない」と多くを話さず席に着き、昼は「委員会関係で先生の所へ行かなくてはいけない」と瑠璃を屋上へ見送った。
彼女との会話は私から話しかけることで始まることが多い。避けようと思えば簡単だった。それがまた悲しかった。
私は彼女に、異変に気づいて欲しかったのかもしれない。危ない橋だとしても、二人で兄貴に立ち向かいたかったのかもしれない。その状況に仕方なく陥りたかったのかもしれない。
だけど結局、そんな都合よくもいかなくて。私は決断を迫られている。
あの写真。
場所はきっと、闇街だろう。
あんな大規模なことをやったら、ニュースになる。だけどそんなことは聞いていない。公にならない事件なんて山のようにあるだろうけど、これは違う。きっとあの治外法権の地での出来事だ。
頭にちらついていた可能性をもう見て見ぬ振りはできなくなっていた。
「瑠璃は闇街の人間だ」
聞こえないほどの声で呟くと、何かがわたしをすり抜けけいった。だけどしっくりくる。あの"恐い瑠璃"なら、簡単にあそこに馴染めるだろう。
なるほど、前に西山家に行った時に彼女が恐い雰囲気だったのは闇街に居たからなのだ。
闇街に関わってるから、兄貴が彼女を攫いに来たのだ。
繋がっていく。繋がってしまう。
全てがそうだと示している。
ーーやめてよ。
心が悲鳴をあげていた。
私は闇街が嫌いだ。あそこはいつも大切な人を奪っていく。
迷い込んで賢太郎は歪んだ。
入り浸ってお兄ちゃんは変わってしまった。
もう何もとられたくない。なのに、瑠璃もなの?
瑠璃まであそこに行っちゃうの?
「やだ……」
ーーいやだよ。
怖い。手のひらから冷たさが昇って巡っていく。ひどく寒い。凍えそうだ。
逃げるように走り出していた。瑠璃に会いたい。それしかこの寒さから逃げる手はない。
ーー今はまだ屋上に居るはず。
あの仏頂面に、小さな少女に早く会いたい。
彼女はいつもどこかに消えてしまいそうだ。それがずっと怖かった。それが現実になるかもしれない
「瑠璃!」
足が取れそうなほどのスピードで階段を駆け上り、蹴破るようにして屋上の扉を開けた。
目の前に佇むパラソル、その下からだるそうな瞳が覗いている。
「どうし……」
言葉よりも先に瑠璃に抱きついた。彼女の身体は硬くこわばっていたが、やがて少しずつ力が抜けていく。
「瑠璃、どこにも行かないでね」
温かい。それだけでホッとする。
「……どうしたの?」
「今日あんまり瑠璃に会えなかったから寂しくなっちゃった」
少女の肩に顔をうずめる私は、瑠璃の顔を見ることができない。それでも、声の響きから、困惑しているのだろうと思うと、少し嬉しく面白かった。
「そう」
いつもの音は優しく聞こえた。瑠璃の両手が使える私に添えられる。
やっぱり彼女が大切だ。それはどうにも変えられない。
私は抱きつく腕に力を込めた。
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