147 / 158
盈月
138
しおりを挟む
「巴、どうだこれ、よく出来ているだろ」
お兄ちゃんが兄貴へ戻る。嘲笑う笑みがパソコン画面を示していた。
『私、篠崎巴、15歳。明るさと元気がとりえの現役JK! エッチなことが大好きです。連絡待ってま~す?』
馬鹿っぽい文章と先程撮られた裸の写真。それらが載るのは出会い系のサイトだった。
「これを流すって言ったらどうする? お前、顔が良いから一気に標的になるぞ」
「後で消す。拡散されるかもしれないけど、そんなの全部消せばいい」
「冷静だな。そういう奴だよなお前は。でも残念だったな、このサイトはパソコンでしか行けないんだ」
ーーやっぱりこの人には……。
唇を噛んで睨んだ。それに満足そうに目を細めて兄は言う。
「やっぱりまだ、パソコンに触れられないんだな」
それは勝利の宣言だ。
「で、何が目的?」
この人が無意味にこんなことをする訳が無い。
「ほんと、話が早くて助かるよ。巴、西山瑠璃って知ってるよな?」
「なんで瑠璃が出てくるの……」
驚きを隠すように絞り出す。
「仲良いんだろ、なら、これを飲ませることくらい簡単だよな?」
兄貴が右手で粉薬を掲げる。
「それは何?」
尋ねながら、驚きで麻痺しそうな頭を無理やり回す。瑠璃と兄貴の間にどんな関係があるのか。何が目的なのか。
「ただの睡眠薬だよ。巴は西山瑠璃を家に呼んでこれを飲ませればいい。後は俺らが彼女を回収する。簡単だろ」
だけど、予想外の嵐に思考は狂わされていて、いつもは浮かぶいくつもの仮説を立てることすらできなかった。
「流せばいいよ、私は瑠璃を裏切るつもりは無い」
なんにせよ、答えは変わらない。
脳裏をよぎった、賢太郎を見捨てた彼女を打ち消すように早口でまくし立てた。
ああいうサイトに載せられるのは、結構辛いのだろう。さっきは拡散されても消すと言ったが、完全に消し去るのは結構厳しいものがある。そして、それによってせっかく作り上げた"巴ちゃん"の人物像は壊されるだろうし、変態にも狙われるかもしれない。それは正直怖い。でも、それでも私は瑠璃と友達でいたい。
「予想外だったな、お前は俺と同じで他人を大切にしない奴だと思ってた」
細められた目は、私の本質と変化をゆっくり観察する。
「勝手に一緒にしないでよ」
視姦される心地悪さに蓋をして、自分を繕う。私を悟られる訳にはいかない。
「女はこうすれば言うことを聞くって言われたんだけどな」
顔をパソコンの方へ向け、ポケットに手を突っ込んだ彼は独り言のように言うと、再びこちらに向き直った。
「だけど、お前が自分勝手な人間だっていうのは間違ってないだろ?」
ポケットから出して掲げられた右手。そこには、ピンク色のUSBが握られていた。
「なんで……」
私は、縛られていることも忘れて飛びかかろうとした。あれは……あれだけはこの世に存在していてはいけない。
だが、奪えるはずもなく、ベッドの上で芋虫のように動くことしか出来なかった。
「全部処分したと思ってたか? 残念だったな。でも、俺にとってはラッキーだ。これのためならお前はなんでもやるだろう? なんてったって、お前が人殺しである証明だからな」
「…………」
ただ睨む。打開策はないかと思考を巡らせる。あれは私の罪そのものだ。誰にもバレる訳にはいかない。絶対に消さなくてはいけない。
「拒否するなら公表するぞ、お前の罪を。親父もお袋も、世間もみんな残酷になる。優等生が犯罪者だったなんてメディアが喰いつくな。さぁ、どうする?」
瑠璃と罪。
逃げるべきではない。ある意味チャンスだ。警察に捕まれば、罪を償う覚悟をすれば、隠し、背負ってきた重荷を下ろせる。
瑠璃は友達だ。どう言われようとそれは変わらない。彼女のことが大切だ。兄貴に渡せば瑠璃は殺されるのかもしれない。そんなこと出来るはずがない。
「私はーー」
自分と瑠璃、どちらが大切なのか。これはそういう問いだ。自分を殺すか、友達を殺すか。誰でも一度は考えたことがあるような質問。
私はーー。
「……薬、ちょうだい」
兄貴がニヤリと笑った。
"やっぱりお前は俺の妹だ"
そう言われた気がする。
駄目だった。あのことをバラすなんて、私には出来なかった。
「決行は今週の土曜だ。ウチに西山瑠璃を呼んでこれを飲ませろ。俺は仲間を連れて自分の部屋に居る。あとは俺らがやる。でもってこれは成功報酬だ。変な気は起こすなよ。裏切ったらどうなるか分からないぞ」
兄貴はUSB をポケットにしまう。そして縄をほどくと、悠々と立ち去った。
縄が解かれた時に抵抗すればよかったのか。そんなことを考えても後の祭りだ。私にそんな気力は無かった。
「ごめんね……」
右手で薬を握りしめた。私は瑠璃を裏切ると決めてしまった。
お兄ちゃんが兄貴へ戻る。嘲笑う笑みがパソコン画面を示していた。
『私、篠崎巴、15歳。明るさと元気がとりえの現役JK! エッチなことが大好きです。連絡待ってま~す?』
馬鹿っぽい文章と先程撮られた裸の写真。それらが載るのは出会い系のサイトだった。
「これを流すって言ったらどうする? お前、顔が良いから一気に標的になるぞ」
「後で消す。拡散されるかもしれないけど、そんなの全部消せばいい」
「冷静だな。そういう奴だよなお前は。でも残念だったな、このサイトはパソコンでしか行けないんだ」
ーーやっぱりこの人には……。
唇を噛んで睨んだ。それに満足そうに目を細めて兄は言う。
「やっぱりまだ、パソコンに触れられないんだな」
それは勝利の宣言だ。
「で、何が目的?」
この人が無意味にこんなことをする訳が無い。
「ほんと、話が早くて助かるよ。巴、西山瑠璃って知ってるよな?」
「なんで瑠璃が出てくるの……」
驚きを隠すように絞り出す。
「仲良いんだろ、なら、これを飲ませることくらい簡単だよな?」
兄貴が右手で粉薬を掲げる。
「それは何?」
尋ねながら、驚きで麻痺しそうな頭を無理やり回す。瑠璃と兄貴の間にどんな関係があるのか。何が目的なのか。
「ただの睡眠薬だよ。巴は西山瑠璃を家に呼んでこれを飲ませればいい。後は俺らが彼女を回収する。簡単だろ」
だけど、予想外の嵐に思考は狂わされていて、いつもは浮かぶいくつもの仮説を立てることすらできなかった。
「流せばいいよ、私は瑠璃を裏切るつもりは無い」
なんにせよ、答えは変わらない。
脳裏をよぎった、賢太郎を見捨てた彼女を打ち消すように早口でまくし立てた。
ああいうサイトに載せられるのは、結構辛いのだろう。さっきは拡散されても消すと言ったが、完全に消し去るのは結構厳しいものがある。そして、それによってせっかく作り上げた"巴ちゃん"の人物像は壊されるだろうし、変態にも狙われるかもしれない。それは正直怖い。でも、それでも私は瑠璃と友達でいたい。
「予想外だったな、お前は俺と同じで他人を大切にしない奴だと思ってた」
細められた目は、私の本質と変化をゆっくり観察する。
「勝手に一緒にしないでよ」
視姦される心地悪さに蓋をして、自分を繕う。私を悟られる訳にはいかない。
「女はこうすれば言うことを聞くって言われたんだけどな」
顔をパソコンの方へ向け、ポケットに手を突っ込んだ彼は独り言のように言うと、再びこちらに向き直った。
「だけど、お前が自分勝手な人間だっていうのは間違ってないだろ?」
ポケットから出して掲げられた右手。そこには、ピンク色のUSBが握られていた。
「なんで……」
私は、縛られていることも忘れて飛びかかろうとした。あれは……あれだけはこの世に存在していてはいけない。
だが、奪えるはずもなく、ベッドの上で芋虫のように動くことしか出来なかった。
「全部処分したと思ってたか? 残念だったな。でも、俺にとってはラッキーだ。これのためならお前はなんでもやるだろう? なんてったって、お前が人殺しである証明だからな」
「…………」
ただ睨む。打開策はないかと思考を巡らせる。あれは私の罪そのものだ。誰にもバレる訳にはいかない。絶対に消さなくてはいけない。
「拒否するなら公表するぞ、お前の罪を。親父もお袋も、世間もみんな残酷になる。優等生が犯罪者だったなんてメディアが喰いつくな。さぁ、どうする?」
瑠璃と罪。
逃げるべきではない。ある意味チャンスだ。警察に捕まれば、罪を償う覚悟をすれば、隠し、背負ってきた重荷を下ろせる。
瑠璃は友達だ。どう言われようとそれは変わらない。彼女のことが大切だ。兄貴に渡せば瑠璃は殺されるのかもしれない。そんなこと出来るはずがない。
「私はーー」
自分と瑠璃、どちらが大切なのか。これはそういう問いだ。自分を殺すか、友達を殺すか。誰でも一度は考えたことがあるような質問。
私はーー。
「……薬、ちょうだい」
兄貴がニヤリと笑った。
"やっぱりお前は俺の妹だ"
そう言われた気がする。
駄目だった。あのことをバラすなんて、私には出来なかった。
「決行は今週の土曜だ。ウチに西山瑠璃を呼んでこれを飲ませろ。俺は仲間を連れて自分の部屋に居る。あとは俺らがやる。でもってこれは成功報酬だ。変な気は起こすなよ。裏切ったらどうなるか分からないぞ」
兄貴はUSB をポケットにしまう。そして縄をほどくと、悠々と立ち去った。
縄が解かれた時に抵抗すればよかったのか。そんなことを考えても後の祭りだ。私にそんな気力は無かった。
「ごめんね……」
右手で薬を握りしめた。私は瑠璃を裏切ると決めてしまった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
友達の恋人
文月 青
恋愛
灯里は同じ人に二回恋をした。高校時代の先輩である千賀悠斗に。
友達の彩華の友達として偶然の再会を果たし、自分を憶えてもいない千賀と結婚することになった灯里。
ーーもしかして……
彼には好きな人がいるのではないかと、小さな疑問が胸をかすめた挙式の直前、灯里にとある事実がもたらされる。
「あの二人、恋人同士だった」
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。
クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる