パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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「そうだな」

吐き出すように言った。そう認識した途端腹部に激痛が走った。

「がっ……」

兄の顔が目の前にある。膝蹴りが鳩尾に入っていた。私はそのまま崩れ落ちる。スマホが落ちて地面に転がっていく。

「そうだよ、俺は親父に勘当された。もうお前の兄じゃない」

咳き込む私を無理やり起こし、縄で後ろ手に腕を拘束する。

「っ……」

腹部の痛みで息ができないのに加え、縄が腕を圧迫する。苦しい。感じたことのない苦痛が思考を妨げ、頬に涙を伝わせる。

兄は同じ要領で足首も縄で縛り上げた。

「お前は油断ならないからな。今もどうせ、スマホで何かをやっていただろ」

転がったスマホを拾い上げ、リビングの方へと投げ捨てる。

「お前は利口な子だろ、もう下手な抵抗はするなよ」

そして私を抱き上げ、階段を上り始めた。

私は身体の力を抜いた。

そうだ、彼はもう知っている兄ではない。お兄ちゃんなら、あのタイミングで暴力には出なかった。それほどのスキルも持っていなかった。

でもだからこそ、彼はあのタイミングで行動に出たのだろう。私が自分を測り間違えていると分かっていたから。そして、私のテリトリーである家で長々と時間を使っていれば、私に敵わなくなると知っていたから。

スマホは取り上げられた。手足も拘束された。それでも彼は油断してくれない。少しでも動けばまた策を潰されるのだろう。

お姫様抱っこのように抱えられながら兄の顔を見上げた。

彼はもう知らない人間ーーだけど相変わらず、彼は私の一歩先に居る。 








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