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盈月
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巴だった。
彼女が助けに来てくれた。嬉しかった。だって、恐かったから……すごく恐かったから。嬉しくて涙が出てくる。だけどーー。
「なにしにきてんだよ! 巴、逃げろ!」
彼女を危険に巻き込みたくない。
「ったく、気の強ぇお嬢ちゃんだなぁ。あんたが俺らと遊んでくれるのか?」
チンピラの目が変わった。幼馴染の俺が見ても巴は美人なのだ。あいつらが彼女を前にどんな妄想をしているかなんて、考えなくても分かる。
「帰るよ、賢太郎」
警戒するように二人を見ながら巴は俺の手を握る。強い言葉とは裏腹に、それは小刻みに揺れていた。
「おいおい、つれねぇなあ」
ニヤニヤ距離を詰めるアニキ。もうその目は巴しか見ていない。
「下がってろ」
そんな二人の間に割って入るように勢いよく立ち上がった。痛い。恐い。でも、ここは俺がなんとかしなきゃいけない。
声が震える。
アニキが余裕に近づいてくる。そのすぐ後ろにタカも居る。殴られた恐怖が頭を何度もループしていく。なさけないほど足には力が入らない。叫んで逃げ出したかった。多分、俺はなにもできずに殴られる。そんな確信があった。だから余計に恐い。なんでこんなことしているんだろうと思ってしまう。
だから、虚勢を張らなきゃいけない。
「巴には指いっーー」
「巴に触らないで」
言い終わる前に被せられた。目の前に影が現れる。
なんでこいつは、いつもギリギリに来るのか。
文句は言いたいが、これでようやく安心できた。
「消えて。それが最善の選択」
力が抜けて崩れ落ちた俺とは対照的に、赤いカーディガンをマントのように揺らす西山は、最高に格好良かった。
彼女が助けに来てくれた。嬉しかった。だって、恐かったから……すごく恐かったから。嬉しくて涙が出てくる。だけどーー。
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「おいおい、つれねぇなあ」
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声が震える。
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だから、虚勢を張らなきゃいけない。
「巴には指いっーー」
「巴に触らないで」
言い終わる前に被せられた。目の前に影が現れる。
なんでこいつは、いつもギリギリに来るのか。
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